月の輪通信 日々の想い
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2004年03月18日(木) 一人で戦わない

先週から大騒ぎしていたアユコの「いたずらメール事件」が一段落した。
友達のメールのパスワードを盗み出し、その子の名をかたって偽のラブレターを書き、そのやり取りの内容を公開して嫌がらせをするという、犯罪まがいの要素を含んだいやな事件だった。
担任の先生から校長、教頭、相手の5人の男の子達の親たちまで交えての抗議、話し合い、謝罪・・・。
クラスでのほかのいじめ問題から、家庭での子供のパソコンの使い方の管理まで、色々な要素を含んだ今回の問題は、だんだん判らなくなってくる子供達の日常を親や教師がどこまで把握していかなくてはならないのかという基本的な問いに戻って、ため息を生む。
結局のところ、「自分ちの子は自分で守らなければ」という結論に達せざるを得ないことがむなしく悔しい。
5人のうちの主謀者格の男の子は10人の大人に囲まれて数時間に渡って問い詰められても、ついに涙の一粒も見せず、どこか冷え切った目でしぶしぶ謝罪の言葉を述べた。多分、彼の心には大人たちの危機感は伝わっていない。
彼の父親にも、息子の心の闇は感じられていない。
それでも、「二度とするなよ、ちゃんと見てるぞ」と念を押すよりほかにすべはない。

弱いものいじめを許せない、自分の理屈を絶対に曲げたくない。
生真面目なアユコのまっすぐな正義感が5人の卑劣ないたずらの標的になった。アユコは傷つき、怒り、泣き叫んで、一人で戦いを続けた。
「男の子達にはっきりものをいえるのは私だけだから。」と、心無いいじめの盾になって踏ん張っていたらしい。
繊細で、傷つきやすい女の子と思っていたアユコが、そんな激しい、強い使命感を持っていたということが母である私にも驚きだった。
「お母さん、本気で怒ってきた。けんかしてきてやる。」
激しい怒りをあらわにして、学校へたびたび出かけていく母の姿を見て、とりあえずアユコは自分のために怒り狂ってくれる親や先生達がいるということで、心の傷をすこしずつ癒してくれているように思う。
強い子に育ってくれたと思う。
アユコの賢さに親も先生達も救われたと思う。
不甲斐ないことだけれど。

卒業式に出席した午後、アユコは久しぶりに仲良しのAちゃんをうちに呼んで、クラスのお楽しみ会の賞品を作る作業をしていた。
本来アユコが、「私が用意するわ。」と引き受けてきて、一人で作業を進めていた賞品作り。
「アユコ一人でやらないで、友達に『手伝って』と声を掛けて、一緒にやったほうが楽しいんじゃないの。」
と私が提案して、アユコはAちゃんを呼んでくることに決めた。
「アユコは何でもできるから、賞品作りも一人でささっと片付けちゃえばいいと思うけど、『一緒にやろうよ』と誰かに声をかけることで、仲間ができるよ。
『一人でこんなに用意してくれて、ありがとう』といわれるのも嬉しいけれど、二人でやって『Aちゃんが一緒にやってくれたよ』といえば、Aちゃんも嬉しくなれるよ。
一人で戦えるアユコは強いけれど、強いアユコだからこそ誰かを仲間にして戦うことを学ぼうよ。」

クラスの子達がいじめの現場を目撃しても何もいえないと悔しがっていたアユコ。
一人で盾になってがんばっていたようだけれど、たった一人の抗戦ではきっとまた今度のような無理がでる。
「今度からね、『いじめちゃ駄目!』というときには、近くにいる友達に『ねえ、そう思うでしょ、○○ちゃん』と声を掛けてごらん。
自分では『いじめちゃ駄目』と言えない子でも『そうだそうだ』とはいえるかもしれないよ。
そうしたら、アユコの味方が一人増える。一緒に戦う仲間が増えるということだよ。」
一人で折れそうになるまで頑張ってしまう生真面目に、母は新たに厳しい課題を与える。
「あ、そうか。わかったよ。」
明るい笑顔で、母の提案の意味を一度で呑み込むアユコは賢い。
わが子が優しく強く、そして賢く育ってくれたことに、改めて頭を下げる。
子供の思いがけない成長に親のほうが勇気付けられる。
「子育ては宝」と改めて思う。


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