月の輪通信 日々の想い
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2004年03月17日(水) もじもじ

アプコは朝ごはんを食べるのがとても遅い。
席に着くのも皆より遅くなることが多いので、あわただしい朝はアプコが最初の一口を食べる頃にはオニイ達は「ごちそーさん!」と席を立つ。
それでもアプコは慌てない。
鼻歌を歌い、念入りにふりかけを選び、おもむろに自分でお茶をいれてから、静々とお姫様のように朝食を召し上がる。

「おかあさん、おかあさん。あれ、見て!」
「なぁに。早く食べなさいよ。」
「あのね、お外のあの大きい木、見えるでしょ。」
アプコが窓の向こうの山の雑木を指差す。
珍しい鳥でもいるのかな。
「どれよ。」
「あの三角みたいな大きな木。あそこにびゅ〜んと伸びた枝があるでしょ。
「うんうん」
「あの枝の先の、今、小鳥が飛んでいったあのはっぱの下の地面にね。」
「どこどこ。」
「あの、ちょっと白くなってるところよ。」
「ふむふむ」
「あのね、あそこにね、『の』の形の枝が落ちてる。」
「はぁー・・・・。早くご飯食べてね。」

「あ、お母さんみてみて!」
こんどアプコが指差したのは自分の取り皿の中。
変なものでも入っていたかと覗き込むと、いかなごの釘煮が2本。
「ほら、『り』の形。」
「はいはい。」
「この形なんかの形に似てるよね。あ。羽だ。鳥の羽の形だよ。何の鳥か判る?」
「わかんないよ!(そろそろ怒りモード)」
「ほら、鶴だよ、鶴。くちばしが細くて、足が長くて・・・」
「鶴なら知ってるから説明しなくて良いよ。早くご飯食べて。」
「あ、お母さん、さけぱっぱ(ふりかけのなまえ)の反対って何か知ってる?」
「知ってるから、ももういいよ。ふりかけご飯食べちゃいな。」
「でも面白いよ。
『ぱっぱけさ』だよ。
ぱっ・ぱ・け・さ。うわぁ、おかしい!(本人バカ受け)」
「こらぁ!さっさと食べなさい!!」

幼稚園のお友達とのお手紙交換で急速にひらがなの読み書きを覚えたアプコ。
文字を読むのがとりあえず楽しい。
看板の文字、車のナンバーの文字、先生の連絡帳の文字。
知ってる字をとにかく片端から声に出して読んで見る。
粒チョコを文字の形に並べる。
おうどんで「の」の字を作って、一人で受けまくる。
お絵かき帳にもたくさんの鏡文字交じりの説明文が書いてある。
アプコの頭の中には、たくさんのひらがなが渦巻いている。
「文字」というものの意味を始めて発見した幼児の感性のみずみずしさ。
人が文字を学ぶということのはじめの一歩は、本来こんなにも嬉しさに満ちた楽しい遊びから始まるのだな。

小中学生になって、漢字テストのまえにいやいや漢字ドリルを埋めるようになる前に、どの子にもこんな嬉しい文字との出会いがあったのだろうか。
新しいことを知る。
初めて得た知識を自分で活用する。
「見てみて!」と誰かに自分の発見を披露する。
そんな基本的な「学ぶ喜び」をたっぷり味わってから、大きくなってもらいたい。

・・・といいつつ、アプコの朝食は半時間たっても、まだほとんど手がつけられていない。
「さっさと、食べてくれ!」
アプコの取り皿の上に、新しいいかなごの文字。
「へ」
・・・へ、じゃないよ、まったく。


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