月の輪通信 日々の想い
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実家の母と一緒に先日初めての赤ちゃんを出産した義妹のTちゃんのお見舞いに出かけた。 その実、お見舞いにかこつけて、午前中は二人で繁華街に出て買い物を楽しみ、のんびりお昼ごはん。 調子よく私の衣類などをねだって、久しぶりに母の娘として甘えさせてもらって、うれしい。
デパートの地下で、ささやかなお見舞いのお菓子を買って、病院に向かう。 つい数日前に母は父と一緒にこの病院を訪れていたので、道案内は母のお任せとのこのこついていくのだが、なんとなく母の方向感覚は頼りない。 遠くに目印の看板を見つけ見当をつけて歩いていくのだが、「こんな道、とおったかしらん。」と時々首をかしげる。 あはは、何度通っても道を覚えない私の方向音痴は、この人譲りだ。 適当な見当で大雑把に最短距離の道を選ぶ父。 遠くに目的地が見えていても途中の些細な目印に惑わされて、つい遠回りをする母。 私の方向音痴は明らかに母譲り。
病室の仕切りのカーテンの向こうで懐かしい新生児の元気な泣き声。 「元気に泣いてるね、Tちゃん。」 初お目見えの姪っ子はママの母乳を飲んだばかり。 まだ、お乳の張らないTちゃんのおっぱいだけでは足りなくて、自分の指をちゅうちゅう吸っては大きな声で泣く。 「いくら飲んでも足りなくて、病院中で一番飲みっぷりが良いんです。」 初々しい手つきで小さな赤ちゃんを抱き上げ、追加のミルクをオーダーするTちゃんもとてもとても元気そうで母になった喜びにあふれている。 「この子は飲んでるときにとっても幸せそうな顔をするんです。」 ちょこちょこ声をかけながら哺乳瓶のミルクを飲ませる手つきもすっかりお母さんらしくなって、頼もしい。 いいお母さんになりそうだな。 今の赤ちゃんの幸せそうな顔、しっかり頭の中に刻んでおいてね。 これからの長く続く育児という道のりに、乳を吸う赤ちゃんの満ち足りた表情はきっと戦うお母さんの杖になってくれる。
「退院したら、とりあえずしょっちゅうおっぱいをあげていれば良いよ。たくさん吸ってくれたらおっぱいもいっぱい出るようになるし、おなかがいっぱいになったら寝てくれるよ。」 4児の母はさっそく大雑把育児を指南して、新米ママをぐうたら母の道へといざなう。 「そういえば、あんたは赤ん坊が小さいとき一日中おっぱいをくわえさせていたねぇ。」 私の上の子たちの産褥のとき、実家で面倒を見てくれた母が笑う。 「あんたは娘時代から寝付くとなかなか起きない娘だったから、夜の赤ちゃんの世話ができるのかと心配したけれど、よく、赤ちゃんに添い寝しておっぱいをくわえさせていたっけね。」 「そうそう、『赤ちゃんを踏み潰さんように』とよく言われたけど、4人育てて一人も踏み潰した子はいないよ。」 当たり前じゃ、眠くても母だ。潰しゃしない。
「ひいおばあちゃんの法事の時には何とか赤ちゃんを連れて、加古川へ行きたいんですけど。」 弟夫婦は2週間後の法事に参加したいとお産の前から言っていて、今日もかなり本気で検討しているらしい。 「まだまだ生後一ヶ月もたっていない赤ちゃんを連れて、無理しないほうが良いよ。病院では赤ちゃんの面倒だけ見ていれば良いけど、おうちに帰ったら、きっと大変だよ。大荷物こしらえて、加古川までの小旅行する余裕なんてきっとなくなっちゃうよ。」 母と二人で、こちらもかなり本気で説得する。 新米パパママには、赤ちゃんと一緒の生活の大変さの実感はまだない。
おっぱいあげて、げっぷをさせて、オムツを替えて寝かせたら、すぐにまた次の授乳の時間。 「最初の一月はとにかく赤ちゃん中心。この人はお風呂も自分で用意していれていたから、なかなか大変だったと思うよ。」 上の3人の子供達の最初の一ヶ月の育児を助けてくれた母は、赤ちゃんとの生活の大変さを自分の出産の時の記憶ではなく、10年近く前の私の育児の姿を通して語る。 結婚して、父母のもとから巣立って、すっかりひとり立ちしたつもりで子供達を育ててきた私だけれど、本当はこんなに暖かい父母の見守りの中で子育ての急坂を何とか越えさせていただいて来たのだなぁと改めて思う。 父母にとってはいつまでも私は目の離せない子供の一人で、今もまだ暖かい見守りの中に私はいるのだと感じて幸福になった。
帰り道、乗り換え駅のコインロッカーで母がうんとこ運んでくれたお土産の包みを受け取る。 父が近くの王将のセールでわざわざ買ってきてくれたという餃子とラーメン。大量の餃子はいったん冷凍にして、どっしり紙袋に詰めて持たせてくれた。 久しぶりの外出から帰って、おなかをすかせた子供達を待たせての夕餉のしたくは大変だろうと思い図って下さったか。 果たして、子供達の旺盛な食欲はホットプレートで一度に焼いた大量の餃子をあっという間に次々平らげていく。 「お母さん、この餃子、うまいなぁ。」 感激したオニイがさっそく加古川のおじいちゃんにお礼の電話をかける。 「うまいはずだよ。愛だモン。」 Tちゃんの 赤ちゃんが改めて気づかせてくれた両親の暖かい心。 感謝。 感謝。
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