月の輪通信 日々の想い
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2004年01月29日(木) お茶わんの宇宙

本日、娘の通う小学校の陶芸教室本焼きの日。
小学校のすぐ近くにある市の施設の陶芸窯に、窯番で行ったり来たり。
夕方、6時頃最後の窯の火を落とす。
後はじっくり冷めるのを待ち、月曜の朝、子ども達と一緒に窯出しの予定。


  私小5年生の皆さんへ

夕方の6時頃、本焼きの窯の火を落としました。
たくさんのお父さんお母さん達が、寒いなか、窯の番に来て下さり、
大事に見守って下さるなかで、皆さんの作品は最後の仕上げの工程を終えることが出来ました。
11月末の工房の見学から始まって、成形2日、素焼き1日、釉薬かけ1日、そして今日の本焼きが1日。
冬休みをはさんで、一月あまり。
お抹茶茶碗を作るというのは、本当に長い時間のかかる作業だということが、
きっと実感してもらえたことと思います。

一個の茶わんの中には、宇宙がある。
あるお茶人さんがおっしゃるのを聞いたことがあります。
手の中に収まる小さなお茶わんの中に広大な宇宙。
皆さんの作ったお茶わんの中にはどんな宇宙が存在するのでしょうか。
皆さんが苦心して作った形。
手を真っ赤にして掛けた釉薬の色。
そして、1200度の高温の炎が生み出す飴色の輝き。
一個の茶わんに込められた皆さんの想い。
それがきっと広大な「宇宙」の入り口ですね。

でも、皆さんの茶わんに込められているのは、それだけではないですよ。
授業の予定を組み、ご準備下さった先生方。
寒いなか窯の番をして下さったお父さんお母さん。
窯の調子を気にしてしょっちゅう覗いてくださったレクレーション施設の職員さん。
「できあがった作品を手にして、喜ぶ子ども達の顔が見たい。」
と、暖かく見守って下さったたくさんの人達。
きっと窯の中の作品には、そんな人たちの思いも伝わっているに違いありません。

それから、もっともっと。
皆さんが使った粘土、釉薬。
ろくろやカンナ、カッキリ等の道具類。
1200度の高温に耐える大きな陶芸窯。
みんなみんなどこかの誰かが作って下さった物。
長い歴史のなかで改良されてきた釉薬。
古くから伝えられ、受け継がれてきた陶芸の技法。
いろいろな人の研究の成果や、地道な作業の繰り返しから生まれた技術もまた、皆さんのお茶わんには確かに注がれています。

できあがったお茶わんで、お抹茶を点てる。
美味しいお茶を飲んでいただきたい。
そんな心を込めてお客様の前に出される一碗のお茶には、
「この人のために」という暖かいもてなしの気持ちが込められます。
この気持ちもまた、一個のお茶わんがもつ「宇宙」のひとかけらです。

「壊さないように注意して!しっかり持って!落とさないようにね。」
作業の間中、先生方が何度もみんなにおっしゃいましたね。
皆さんが作った一個のお茶わん。
それは確かに皆さん自身の物ですが、本当はその中には皆さん以外のたくさん人の技や想いが一杯詰まっているのです。
だから一個のお茶わんを大事に扱う。
それが「伝統を学ぶ」と言うことの第一歩なのだと思います。

月曜日の窯だし、楽しみですね。
世界でたった一つのあなただけの宇宙。
大事に大事に、使って下さい。


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