月の輪通信 日々の想い
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2004年01月11日(日) 小さな靴下

2月に初めての赤ちゃんが生まれる弟夫婦が、我が家の子ども達が歴代使ったベビーカーを使ってくれると言う。
オニイが生まれたときに張り切って買ったA型ベビーカー。
かさが高いのですぐにB型に進級してしまったので、どの子もいくらも使用しないまま物置にしまってあった物。
初めての待望の赤ちゃんに、我が家のお古を快く引き取ってくれる弟夫婦の堅実なパパママ振りが嬉しい。
それではと、他にも使ってもらえそうなベビー用品やら赤ちゃん服やら、ごそごそと探す。

小さな肌着。おむつカバー。布おむつ。
久しく触れていなかった赤ちゃんのための小さな衣装。
その小ささに思わず笑ってしまう。
我が家で一番小さいアプコのトレーナーでさえ、比べてみると数倍の差。
あかちゃんってこんなに小さかったんだなぁと、改めて成長した我が家の子ども達の年月を想う。

はたと、こぼれ落ちる小さな靴下。
手のひらにすっぽり収まるその小ささ。
うっと息のつまる思いで握りしめる。
これはたった3ヶ月で逝ってしまった次女の唯一の衣装。
生まれてすぐに心臓の障害が見つかってずっと病院で育ったなるみは、生涯のほとんどをお仕着せの病院着で過ごし、私たちがこの子のためにと購入したのは小さな手足を包む靴下やミトンばかり。
点滴の管や計器のコードをたくさんつけたなるちゃんに、親としてしてやれることはそんなことしかなくて、せめて家庭の暖かさをと小さく名前を刺繍した靴下やミトンをせっせと運ぶ。
切ない切ない毎日だった。

主治医の先生方やICUの皆さんの奮闘も空しく、なるちゃんの容態はずるずると悪くなった。感染症が全身にまわり、ついには頼みの肝臓が悪くなった。
交換輸血も透析も効果はなく、小さいなるちゃんの身体はどんどん壊れていく。
もはや決められた面会時間の制限なしに、娘のそばに居ることを許された私は毎日毎日小さなクベースの横で小さなベビードレスを縫った。
純白のサテン地にたくさんのレースをあしらい、パールのボタンを縫いつける。
背中には天使の翼のような大きなリボン。
新生児用のドレスはとてもとても小さくて、ちくちく手縫いで仕上げても3日もあれば仕上がった。
ドレスの仕上がりを待っていたかのように、なるちゃんの鼓動はどんどん弱くなった。

なるちゃんの旅立ちを見送った朝、父さんと私は町に出た。
凛と冷えた爽やかな朝だった。
二人で朝食を取り、あちこちに連絡を取る。
子ども達の喪服がわりになる黒い服を買いにいく。
小さな娘を失ったばかりだというのに、当たり前に過ぎていく日常の時間。
不思議だね、悲しくならないね。
昨夜たくさん泣いたのに、何事もなかったようにご飯を食べている私たち。
生きていると言うことは、本当に残酷にも強い事だと初めて知った。

棺におさまったなるちゃんは、白いドレスを着せてもらって本当に天使のようだった。
たった数ヶ月、我が家の娘として神様が送って下さった小さな天使。
「短期留学」を終えて天にもどったなるちゃんは、「いつまでも赤ちゃんの小さい兄弟」として、今も我が家にいる。
なるちゃんの小さな靴下をお守りがわりに握りしめて産んだアプコは、5才になった。
「なるちゃんって、ちいちゃかった?」
小首を傾げて聞くアプコに小さな靴下を握らせてみる。
お人形の靴下のような小ささに、アプコがけらけらと笑う。
「赤ちゃんって、こんなに小さいんだねぇ、かわいいねぇ。」
身近に赤ちゃんを見ることのなかった末っ子アプコに、その小ささは驚き、不思議。
「Tちゃんの所に赤ちゃんが生まれたら、きっときっと会いに行こうね。小さい赤ちゃん、見せてもらおうね。」
新しく生まれてくる赤ちゃんの未来が、健やかで幸福なものとなりますように。

今日、1月11日
私の次女、なるみの天国での誕生日。


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