月の輪通信 日々の想い
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2004年01月06日(火) 夜中の書き初め

工房の仕事始め。
父さんが「出勤」していき、休みの間、滞っていた家事をやっつける。
子ども達もそろそろ3学期の準備。
大根を煮たり、いつもの大鍋でスープを作ったり、
自分の台所で、当たり前の夕食を料理する。
ようやく、家事も通常モード。
穏やかで暖かいお正月明け。
ちょっと幸せ。

夜中ごそごそと起き出して、活動開始。
気配に起き出してきた父さんも、なんとなく動き始めた。
「ちょっと待って、机、私も使うんだから。」
ごそごそと道具を拡げ始めた父さんに先制攻撃。
狭いコタツのスペースを無理に半分空けてもらう。

な〜んだかな、似たもの夫婦と言うのかな。
このごろ妙に父さんと生活のペースが合ってしまって、
打ち合わせたわけでもないのに、「さて」と何かを始めようとするのが二人同時だったりする。
今日の場合、私は年末からさぼっていた書道の宿題。
そして父さんは、今週末の水墨画の宿題。
どちらもタイムリミットぎりぎりまでさぼっていたので、
二人とも8月31日の小学生状態。
互いの動きを横目で牽制しながら、真新しい紙に墨跡を残す。
子ども達も寝静まった静かな茶の間で、筆を走らせる夫婦。
はた目にはなんだか、とってもアーティスティックな素敵な夫婦像だけれど、
その実、二人とも締め切りに迫られて、かなり必死の状態。
お茶を入れて、お互いの作品を鑑賞して批評し合う余裕なんてあるもんですか。

よく、「家族で音楽を楽しんでいます。」とかって、
ママのピアノで子ども達が歌い、パパがバイオリンを演奏するなんていう家族が紹介される事があるけれど、アレが苦手。
家族が共通の趣味を楽しんでいるとか、家族みんなで一つのスポーツに打ち込んでいるとか、そういうのが何ともこそばゆくって、どうもいけない。
父さんも同じ考えのようで、我が家では「家族みんなで」はなかなか定着しない。
たまに、父さんが戸外にスケッチに出かけるときに、子ども達にそれぞれスケッチブックを持たせて同行したこともあったけれど、何回もやらないうちに立ち消えになってしまった。
一人一人はそれぞれ、絵を描くのも戸外で過ごすのも大好きだけど、みんなと一緒となると子供達ですら「こっぱずかしく」てやってられないらしいのだ。

夜中に夫婦が一つの机でそれぞれに墨をする。
正月明けの静かな夜に、夫婦で過ごす穏やかな時間。
「うらやましいわ」と誰かに言われることもあるけれど、
なのに、二人のこの必死の形相は何?

父さんが描いているのはお正月に取材に出かけた一休寺の石庭。
冬の寒気に、凛と掃き清められた白砂の庭園。
余分な物を排し、ここと定められた場所に置かれた庭木や庭石。
それを微妙な筆遣いと墨の濃淡だけで描く父さんの水墨画。
忙しい仕事の合間に画題となるものを取材し、月に一度の稽古日に会わせて夜中に描き始める。
自らに課した課題に時にはあっぷあっぷしながら、父さんの絵の修行は結婚前から続いている。

「偉いなぁ、父さんは・・・」
のろのろと絵の道具を開く父さんに、時々「よしよし」する。
「お、やるか、偉いね。」
う〜んとこさっと気合いを入れて習字道具を拡げる私に、父さんが「よしよし」してくれる。
「家族みんなで」は苦手だけれど、互いに適度なプレッシャーを掛けあいながら学びの時間を持てる現在。
これも、今の私の幸せの一つ。
・・・明日の宿題もようやくできたしね。


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