月の輪通信 日々の想い
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この間、アプコと話していたら、「アタシ、パンツーパンダが欲しいの。」と言う。
「パンツーパンダ?何、それ。」
と何度も聞き返したら、「パンツファイター」と言っているらしいことが判明した。
「アタシね、自転車、乗れへんやろ。でもな、パンツファイターがあったらね、何でも出来るよう になるねんで。鉄棒も出来るし、縄跳びもできるねんで。すごいねんで。」
なんのこっちゃとさらに聞いてみると、どうやらパンツファイターとは、アニメのキャラクターのプ リントのついた肌着のことらしい。TVで、「君もパンツファイターになろう!」なんて子供心をくす ぐる巧みなCMが流れているのであろう。
あはは、遂にアプコもはまったか、アニメパンツの罠。
オニイもアユコもゲンも幼稚園のころには一様にアニメパンツを欲しがる時期があった。○○ レンジャーパンツや機関車トーマスシャツ、セーラームーンシャツやキティちゃんパンツ。どうや ら園でもこれが流行る時期があって、お友達が新しいキャラクターのものを身につけているとど うしても自分も欲しくなる。
パンツやさんの策略にまんまとはまるのが子ども達の常であった。
ところで、キャラクターのついた肌着は値段も高い。3枚500円のぺらぺら肌着を愛用する我 が家のおこちゃま達にとっては高級品だ。
しかも、1年経って人気のアニメの放映が終わると、旧キャラクターのついた肌着はどんなに新 しくてもお払い箱になる。「やーい、時代遅れー」なんて揶揄の対象になってしまうのだそうだ。
だから我が家ではキャラクターパンツは極力買わない。
買わないんだゾ!
その替わりと言うわけで、母さんが夜なべをして、3枚500円のぺらぺらシャツにアップリケを つける。
キャラクターのついた端切れ布を引っぱり出して張り付けたこともある。
普通のフェルトでアップリケをしても、結構洗濯に耐える事もわかったので、小さな自動車や動 物、花や果物など、子供らの目印になる小さなマークをつける。
「○○レンジャーの方が良かったんだけど・・・」と言う、遠慮がちな抗議は聞こえない振りをし て、苦心の作のインチキキャラクターシャツを着せる。
「わ、かっこいい!すてき!」
そうやってごまかしているうちに、春が来てシャツを着ずに登園する日が増え、アニメパンツの 流行は終わる。
「アタシね、自転車乗れるようになりたいねん。パンツファイターを買ったらすぐに自転車乗れる ねんて。テレビの人が言ってたで!」
そうくるか。
よしよしアプコもそろそろ、母のインチキキャラクターパンツのお年頃か、と言うわけで、この年 末の忙しい時にお針箱を引っぱり出して来ることになった。
子ども雑誌のイラストから、一番作りやすそうなキティちゃんのイラストを引き写す。
フェルトを切り抜いて、小さく縁をかがってシャツの胸に張り付ける。
この際、著作権だの商標だのは母の愛に免じてお許し頂こう。
白地に白いキティちゃんは、いまいち目立たなくて不満だけれど、アプコ本人は大喜び!
「今度はお花にして!」「ウサギとか熊にして!」と次々に注文が出る。
結局、、3枚のシャツのアップリケを終え、ふっと顔を上げたら、夕暮れ時であった。
「オカアサン、お風呂上がったらこれ、着てもいい?」
さっそくアプコが新しいシャツを着る。
父さんにも見せるオニイやアユコやゲンに見せる。
胸を張って、クルクルまわる。
あはは、しばらくごまかせそうだ。
アプコは幼稚園に行くとき、真夏でも必ず制服の下に肌着のシャツを着る。我が家の子ども達 で、肌着のシャツを夏でもつけているのはアプコだけだ。
「暑いから、シャツなしにしたら?」
と勧めても、園に行くときは必ずシャツを着る。
「お着替えの時におへそが見えるの、いややねん。」
アプコは生まれつき、ちょびっとでべそだ。
手術するほどではないと判断して、そのままにしているが、お友達のおへそとはちょっと違う。
「アタシのおへそ、ながいって言う子がいるねん。」
年少さんの頃、ちょっとシュンとしてアプコがうち明けてくれた事がある。
「でもお母ちゃんはアプコのおへそがだーいすき。大事な大事なアプコのおへそ、ちっとも変じ ゃないよ。」
と抱きしめたけれど、ちょうどあのころからアプコのシャツの習慣は始まっている。
母の手製のキティちゃんシャツは、アプコのおへそを包んで、切ない乙女心を守ってくれるだろ うか。
「さ、キティちゃんシャツも出来たことだし、いよいよ自転車にも挑戦してみる?」
アプコがあんまり喜ぶので、ちょいと欲を出して聞いてみた。
「アカン、パンツファイターは、セーラームーンとナージャだけやから。
オカアサンのつくったキティちゃんではパンツファイターにはなられへんねん。」
ち、畜生!
恐るべし、パンツファイター。
アニメキャラクターの威力は母の愛に勝るか・・・。
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