月の輪通信 日々の想い
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2003年12月23日(火) 秘密の味

朝、小中学生組を追い出して、大急ぎでメールチェックして、お返事を書いていたら、つんつん
とアプコが私の背中をつついた。

「おかあさん、プリン・・・」

アプコの差し出したスケッチブックには今、アプコが書いた大きなプリンの鉛筆画。

お皿にプルルンと落としたばかりのプリンにスプーン。

「ここんとこ、ちょっとへこんでるのは、スプーンでちょっと食べちゃったからやで・・・」

なるほど、富士山の8合目当たりに微妙なへこみ。うふふ、よくできてるわ。

「うわっ、おいしそう。この絵見てたらプリン食べたくなっちゃうね。みんなに内緒でプリンあげよ
うか?」

急いで台所に行き冷蔵庫に常備してある「3個100円」プリンをプルルンとお皿にあける。

「幼稚園行く前にプリンなんか食べたら、オニイやオネエがきっと怒るから内緒だよ。」

思い掛けない棚ボタに、目を丸くしているアプコの前にプリンのおさらを置く。

「・・・いいの?ホントに内緒でたべてもいいの?」

「うん、でもホントにホントにないしょだよ。」

私がもったいぶって言うと、アプコはホントにお皿を抱えるようにして、隠れるようにこそこそっ
とうれしそうにプリンをたべた。

オニイもオネエもいないんだから、ゆっくり堂々とたべればいいのに・・・。



幼稚園弁当を作る朝はいつも、炊き立てのご飯でお弁当用の三角おにぎりを作る。

ホカホカご飯を器にとって、お弁当用のおにぎりを二つ作って、そして器に余った一口分のご
飯を片手でぎゅっと握って、「こむすび」を作る。

ちょうど、着替えを終えて、一番におはようを言いに来た子どもの口に、

「ちょっと、おいで。アンタだけにあげるよ。」と、朝一番のあつあつこむすびをポンと入れてや
る。

塩の利いた白米のうまさのせいか、「アンタだけ特別」という呪文が効くのか、ほっほと口を動
かしながら機嫌良く朝の支度に戻っていく子。

中学生になったオニイでさえまだまだ、「みんなに内緒」と言うと、ちょっと嬉しげに周りを見回し
て、こそこそっとミニおむすびを頬張っていく。

愛しい・・・。

我が子はやはりかわいいと、私は思う。



4人兄弟。

うちの子ども達は何でも4人で上手に分ける。

おいしいお菓子があっても、「みんなで一緒に食べようよ」と皆の顔が揃うまで待っている。

スーパーで買い物をするときも、「オニイやオネエの分は?」と、皆で分けられる大袋を選ぶ。

誰かのいないときにお菓子の袋を開けると、「これは○○の分」と最初に小皿に取り分ける。

「この子らはホントに欲がない。好きな食べ物をもらっても必ずみんなに分けようとする。」と、
時々ひいばあちゃんが誉めて下さるけれど、それはただただ習慣の賜物。

母のけちん坊が産んだ副産物に過ぎないのだ。



だからこそ、うちの子ども達は「アンタだけよ」「みんなに内緒よ」という食べ物にめっぽう弱い。

「いいの?ホントに一人で食べても良いの?」

と、周りを見回して、こそこそっと食べる。そして食べ終わったらそそくさと証拠となるお皿や空
き袋を片づけてすました顔をしている。

「内緒で食べる饅頭は格別旨い」というやつだ。

そして、一本指で「しーっ」とやって、皆に分からぬよう、目配せをして離れていく。

母と自分のささやかな秘密がちょっとうれしい、ちょっと楽しい。



4人も子どもがいると、便宜上、「みんな一緒に」「どの子も平等に」が原則になる。

でも本当はどの子も、「僕が一番」「わたしが一番」だと思っていたいところがあるのだな。

だから、「アンタだけ」の言葉にめっぽう弱い。

チョコレートのひとかけら、お弁当の残りのミートボール一個にすら、「母に一番愛されている
僕」「一番かわいがられているアタシ」を感じて、うっとり目を細める子ども達。

なんと安上がりな母の愛。

でも私自身、そのささやかな密の時間が一人一人の子を格別に「愛しい」と思ってしまう瞬間な
のだ。



朝、階下から二階の子ども達を大声で起こすとき、4人の子の名前を順番に呼んで、

「おおい、早く起きろ!おかあさんの一番かわいい子は、一番に顔をみせてー!」

と叫ぶ。

大概は寝起きがよく、お調子者のゲンが一番にぴょこっと顔を出す。

パジャマの裾を引きずって、眠そうに歩いてくるアプコの時もある。

さすがにオニイやアユコは、毎朝の母の策力にはのってこないが、少し遅れて台所仕事をして
いる母の元におはようと顔を出す。

まだまだ、この子達の「一番」の母でありたいと思う。

私の背丈を超して、どんどん大人になっていく子ども達。

「アンタだけ」といわれて嬉しい相手が母ではないどこかの彼氏や彼女になる日まで、「みんな
に内緒」の秘密の味をもうしばらく味わわせてもらいたいと、思う



「おかあさん、プリンのお皿、洗ってしまっといてね、ゲンにいちゃんに見つかるから・・・」

アプコが最後に念を押す。

はいはい、心配なら自分で片づけな・・・。

そういえば、アプコ、近頃、オカアチャンではなく、はっきりと「おかあさん」といえるようになっ
た。


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