月の輪通信 日々の想い
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2003年12月04日(木) 家庭内不平等の原則

先日のこと。

家族揃って夕食を食べていたゲンがすっと席を立った。

お茶を入れに行ったのだな。

すかさずアプコが、

「お茶、入れて下さい。」

我が家では、食事の時のお茶は、最初に入れに行った人が他の人の分も入れるのが暗黙の
ルール。

だから子ども達は、自分がお茶が欲しくても、誰か他のヤツが先に席を立たないかとタイミング
を計っているフシがある。

ゲンも、うまくいけば自分だけお茶を飲んで、他の人の分は入れないですまそうとして、コソコソ
ッとキッチンへ行ったようだ。



「ずる〜い、みんなの分もいれてよ!」

皆からのブーイングを受けてゲンがふくれる。

「僕、昨日もいれたやろ、お兄ちゃんは昨日も入れてないし・・・。アプコなんていっつも誰かに
入れてもらってるし・・・」

ゲンも必死の抗戦。

僕は○○の仕事をした、誰それは××をしなかったと、手当たり次第、自分の正当性を主張
する。



「じゃ、君のご飯は誰が入れたの?

お箸を並べたり、おかずを運んでくれたのは誰なの?

君がTVを見てる間にオニイやアユコは配膳を手伝ってくれたし、アプコだって靴ならべはしてく
れてるよ。」

ゲンの生意気にカチンときた私が、畳みかけるようにゲンを攻めた。

「君の汚い靴下を毎日洗っているのは誰なの?お菓子やおもちゃを買ってくれるのは誰なの?
お布団を敷いてくれるのは誰なの?」

「でも、オニイがさぼってるとき僕が敷いたこともあるし・・・」

余計な口答えをして墓穴を掘ったゲンは食事途中で退場処分の憂き目にあった。



例えば、主婦が「アタシばっかりが家事を負担してなんだか損。アタシだって、外に働きに出て
お給料もらいたいわよ。」と愚痴を言う。

例えば、お嫁さんが「アタシばっかり年寄りの介護に奔走している。夫だってお義姉さんだっ
て、たまにはお姑さんの面倒見て欲しいわ。」と嘆く。

家族のために一生懸命心を尽くしている人が、他の家族の誰かの無理解を責めるとき、

「アタシばっかり、しんどい思いをしているみたい。」

「なんか、損してる気分」

と言う「不平等感」が、深く、深く流れている。



けれども、家庭の中での些細な事柄はどこまでも不平等に満ちている。

幼い子どもに出来ないことは、いつも誰かが補ってやらなければならない。

体の弱った老人の生活には、家族の手助けが必要だ。

外での仕事に疲れて帰った人には、誰かが熱いお茶を入れる。

帰りが遅くなって、決められた家事が出来なかった人のためには、うちにいた誰かが代わりを
する。

だからといって、誰かにしてもらったこと、誰かに気遣ってもらったことの収支をプラスマイナス
0にする必要はない。

子ども達が親に扶養してもらい、大きく育ててもらったことも、妻が夫の収入で扶養され、夫が
妻に身の回りの家事を負担してもらっていることも、決して「ギブ アンド テイク」「収支ゼロ」で
は片づかない大いなる「不平等」の奉仕なのではないだろうか。



私自身の事。

洗濯籠一杯の洗濯物を干す。

なんで、こんな山盛りの洗濯物をアタシ一人で片づけなくてはならんのだ、とイライラがつのると
きもある。

急に頼まれた仕事で予定をキャンセルして奔走する。

なんで他の誰かではなく、アタシがこんなに走り回らなければならんのだ。

「なんか、損してるみたい」

当たり前の事柄に、「損得」「平等」「対等」の理屈を持ち込んだとき、私はどこか精神的にすさ
んでしまう落とし穴に落ち込んできたように思う。



「やれる人がやればいいんだよ。」

「自分でして上げたことで相手が喜んでくれればそれでいいじゃないか。」

父さんは、いつものんびりと私のイライラの空気を抜く。

「理屈」とか「スジを通す」とか、四角張ったことの苦手な父さんは、とても感覚的に、素直に自
分の分限を果たす。

機嫌の悪いときにはその曖昧さに思わずかみついてしまう私だけれど、結果的には「私がやっ
て、誰かが喜んだ、結構、結構。」

と考えた方が楽に生きられる気がすることもある。

私が結婚して夫から学んだ一番の大事なこと。

結構、結構のきっこう流。



「僕もちょうどお茶が飲みたかったんだから、ついでにアプコの分も入れてやるよ。」

いつもなら、誰かが素直にやってくれる子ども達。

「なんで、僕ばっかり?」

と悪しき平等がゲンの頭にふっと浮かんだ途端、家族の中にぴゅーっと冷たい風が吹いた。

そうだよ、そうだよ、そうなんだよ。

「平等な負担」とか「ギブ アンド テイク」なんて要らない。

「ギブ アンド ギブ」だって、「テイク アンド テイク」だってアリなんだ。

そこに、お互いに対する「収支ゼロ」のいたわりがあるならば、OK。

その事にゲンと一緒に気がついて、私も少し心が丸くなったような気がするのだった。




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