小説集
2006年11月06日(月) :
4昔噺ばかりして
フランク・ミラー
♪時には 昔の 話を しようか……
懐かしいメロディーがラジオから流れてくる。
隣には寝そべりながら煙草を銜える大事なデイブ…。
いつもは無口な男にはにあわず、酔ってもいないのに饒舌になっている。
戦闘のせいだろうか。
戦闘興奮状態…いや、疲れすぎただけだろう。
戦闘興奮、そんなものはとっくの昔に失くしている。
「 は アルしか人間としての生き方を知らないんだ。
だから
フランクだから…
生きたい。でも生きるがわからない。
俺はなんなんだろう…生きてるんだろうか。フランク
俺は…」
フランクが相槌をうちもしないのに、いつもは何を聞いてもしゃべらない男がべらべらと しかも自分の過去を話している。
デイブの手から煙草を奪い取り、一口 煙を吸い込み灰皿でもみ消してしまう。
ラッキー・ストライク
アルフレッドの生き方しか知らないデイブがアルフレッドを真似して吸い始めた煙草。
ゆっくりと煙を吐き出すと、デイブの腕を取りからだの下に組み敷く。
「どうしたんだ 昔噺ばかりして
もうすぐ死んでしまうのか?」
どうも、そんな気がするのだ。
俺に吐き出すのは 別れの時が近づいてきているからなのか、それとも生きていることへの懺悔なのか。
「生きている」のだろうか?
いや、「生きている」。
「昔噺?」
簡単に、フランクの体をどけてしまうと、今度は起き上がって新しい煙草を取り出し口に銜えた。フランクは俺にも1本よこせとジェスチャーし、デイブの手の中で燃えるオイル・ライターから火をつけた。
沈黙
普段のそれが、饒舌だったデイブはその沈黙すらぎこちないものにしている。
「 …普段は喋るのですら億劫だってなのにさ
どうしたのさ?」
「さぁ?」
ああ、いつものデイブだ さらりとこちらの問いかけをすり抜けていく。
「じゃぁ 俺も話すよ?」
無言の答え。
デイブが何かに興味を持つことは珍しい。今の自分の問いもデイブの興味を引かなかった。
煙草が焼ける音だけが部屋を支配する。
「そんなに珍しかったか?」
事が終わって、まだ荒い息をするデイブが唐突に質問してきた。
「へ?」
一瞬、何の事かわからずに間抜けた返事をしてしまう。
もう、デイブは興味を失ったらしく目を閉じてしまった。
でも答える。
「うん…デイブが昔噺をするなんて
…明日は雨かな?」