小説集
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2005年10月08日(土) : 3死人花
 

「嫌な花だな…」
 デイヴィッド・ボーマンが呟く
 亡くなった隊の者を追悼し、皆が引き上げた後も残ったデイブと、そして従軍牧師でありながらも自ら前線へ赴き銃を取り敵を撃つマーティン・エイブラハムは墓地の片隅に咲く花を見た
「…リンちゃんたちのコミュニティの 日系墓地に咲く花だよね
 あっちは こっちと違ってなんだか暗い感じがするよね。あそこには似合ってるけど、こっちには似合わない ね」
 差し出された煙草を受け取り、火をつける
 ボーマンは相変わらずの無表情だし、感情をあらわにする事など滅多にない。そんな人間がつぶやいた言葉 「嫌な花だな…」 何を思っているのかはわからないが、喋りたくなければ喋らなくともいいし、別に 聞こうとも思わない。無言の中にだって会話はある。マーティンはそう思っている
.........死人のための花みたいだ
 きっと、戦闘中のことでも考えているのだろう。自分のせいで死なせてしまった。もっと早く自分が飛び出し敵を殺していれば死なずに済んだかもしれない。そう、自分自身を責め、彼岸花に その感情をたたきつけているのだろう。ボーマンの呟きを聞こえない振りをして、マーティンは牧師用の服のしたから赤い液体の入ったビンを取り出した
「やるだろ?」
 ボーマンの顔に驚きが走る
「…生臭坊主め」
「主の血、命の水 さ」
 グイっと煽ってボーマンに差し出す
「…まぁ、そんなもんなんだろうな」






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