小説集
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2005年04月14日(木) : 題未定・1
 

頭が重い
咽が あつい

…きもちわりぃ

目が醒めたが、一向に 自分がどこにいるのか 何があったのかなど思い出せない
頭痛は、考えることを邪魔するかのように痛み 考えようとする力を奪っていく
咽の熱さも尋常ではなく、焼けるように熱い
いや、焼け落ちそうだ
目も回るし、なにより、胸のむかつきが 今の自分を苦しめる最大の原因だったが、声も出ず 体も動こうとはしない

体を動かす事は まずあきらめて、力を抜いた

 ―俺は 何しに来たんだ どこにいる?

ベットの天井…天蓋は 見覚えがあった
痛む頭を動かすと、吐き気が襲ったが周りを見るために 少しだけ頭を傾ける。たったそれだけでも、吐き気は一気に襲い掛かってきたが、飲み込んだ

 ―んなの、殺し合いの最中の吐き気より よっぽどラク だ…

気分をごまかし、目を廻らす
汗が目に入りしみた
しかし、それがどおした

 ―…自分の へ や? おれは いえに いるのか?

わけがわからん とため息をついたところで 寝室と応接間とをつなぐ扉が開き、男が2人入ってきた

 ― くそ! そうか…

「やぁ アル、お前のへばっている姿は なかなか見られる物じゃないな」
先に入ってきた男がからからと笑い、精一杯睨みつけるアルフレッドの額に手を置いた
「…少し きつ過ぎたか」
「いえ、兄さんには これくらいでも足りないでしょう?
 軍じゃ、好きなだけやってるんだろ?ねぇ 兄さん?」
動きやしない と思っていた足を おもいっきり突っ張ると動いたので、そのまま後から喋った 自分の弟に蹴りを入れる
うまく相手の鳩尾に入ったは入ったのだが、今 自分は体の自由が利かないことをすっかりと忘れていたので、けりが入ったあと、その反動で自分もベットから落ちてしまった
「くっくっく 相変わらずだなアル?
 それにしてもニコラス、お前は本当に…」
「…すいません 父さん まさか動けるとは…」
きっと睨みつけられたニコラスは、口を閉ざした
「さぁて アルフレッド、もう薬は嫌だろう?」
起き上がれずにいたアルフレッドの体を軽々と持ち上げベットに戻した男は、アルフレッドが浮かべる歪んだ笑みの数倍も厭らしい笑みを浮かべ顔を近づけた
声をあげようにも、咽の熱さに声が出ない
鼻をつままれ、半ば開いた口に水が流し込まれる
「ただの水さ」
確かに、父親が こういうことで嘘をついたことは無かった
そのまま、水を食道へと流し込む
「ずいぶんと くたびれてるじゃないか…」
ため息交じりで父親が呟く
まだ声は出なかったが、焼け付くような咽の痛みは治まり、呼吸のたびに痛みをこらえる必要は無くなり 普通に息が出来るようになった。変な事で体力を消耗せずに済むのはありがたかった
特に この家では…
「 …なぁアルフレッド 戻ってくる気はないか?」
父親の問いかけに、後ろにいたにニコラスが抗議しようをしたが 家長である父親に逆らう事など出来るはずもなく、こぶしを握り締めると一歩下がって押し黙った
怒りに燃えるその目は、父親ではなくアルフレッドに注がれていた

そんな弟の事など、気にもせず というより、見えていないアルフレッドは、答えるだけの力で 薬に犯され震える手を上げ 髪を掻き揚げるという行動に移した
じっとりと汗ばんだ髪… かなりの量を打たれたのだろう

脇に立つ男を見上げる
自分より 若い姿の父親に、父親と同じものになった弟
そして、それを拒み 年を取る事を選び 家から出た自分

何を今更…

俺は自ら 放棄したんだ
あの男の命で動き、あの男の利益のために同族を殺すより、
人間として 人間に害を及ぼす化物を殺すほうを選んだ
何があろうと、俺は 人間のままでいいと
例え、デイヴがそれを求めても、俺は人間のままでいいと…

続く




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