小説集
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2004年11月26日(金) :
 


俺は俺なんだ
 俺が本当は デイヴィット・ボーマンなんだ…

――――――

「なぁ マーティン」
 アルフレッド・ミラーはベットに寝転び 煙草を銜えたまま、カーペットに座り本を読んでいるマーティン・エイブラハムに声をかけた
「んー?火事はおこさないでよ」
 マーティンの一言に、アルフレッドは煙草を枕元に宮にある灰皿に押し付け火を消した
「あー いや、なんというか  デイヴのことなんだが…
 デイブがああなった時に デイヴが出てきたなんてあったか?」
(デイブは戦闘などで興奮すると、一時的に血を求め暴走する)
 マーティンは本を開いたまま天井を見上げ、考え込む「俺が知っている限りではないね」
「俺もねェ デイヴが出てくるのは……」
 二人ともFORTH 10の古参である。アルフレッドとデイブは創設当初から、マーティンは第一次補強の時から今に至るまで、死なずに残っている兵である。もう一人は隊長であるミハエル・チェカ。この4人がFORTH 10の中枢になっている
「…デイブがそれだけやばかったって事か?」
「かも しれない。デイブが直接人から血を吸おうとしたから止めるために出てきた とか。 だとしたらマズくないか?」
 アルフレッドは起き上がり、ブーツを突っかけた
「ああ、フランクにデイヴを拷問するように言っちまったんだ
 行ってくる」

  ――デイヴが出るほど、デイブは自分を見失っていたのか

 それに気付かずにフランクに渡してしまった。
 ヘリの中で、自分に伸ばされた 呪布でガンガラ締めにされ、激痛をこらえながら 自分に伸ばされた手 
 …あれは俺に助けを求めたのではなく、俺なら自分のことを分かって止めてくれるだろうと縋りついた手だったのか…
 俺は それに気付かなかった そしてデイヴの目の前で拷問を命じた
 デイヴの意図もデイブの暴走も 何故か考えなかった

 フランクはデイヴを嫌っている。拷問も容赦ないだろう。あいつは 俺以上の術者だ…先祖返りしないのがおかしい程の

「おい、フランク!」
 デイブとフランクが使う部屋の扉を開ける
 …遅かった
 デイヴはフランクに押さえつけられてはいるが、その目には反抗の色どころか光すら浮かんでいない。体中に呪布で焼かれた痕、それも何故かなかなか治ろうとしていない
 フランクは、その手を血で染めていた
「アル、こいつ しぶとくてさ …どうせ何をしても死なないし ほら」
 デイヴの髪を引き起き上がらせると、デイヴは少し呻いた。

  ――生きてる…

「アルだったら喋るのにね おかしいだろ?化も…」
「フランク、もう止めろ デイヴが悪いんじゃない」
 フランクの目に 一瞬、怒りがよぎった
「デイヴはは悪くない? アルがこうしろと言ったんだろ?」
「ああ、デイヴは悪くない さぁ、デイヴをよこせ」
 フランクはデイヴを掴む手をぱっとはなし、アルフレッドに殴りかかったが、アルフレッドはいとも簡単によけ、みぞおちを殴った。
「いくらお前が俺よりも強くたって、怒り任せじゃぁどうしようもないな
 …怒りが収まって 考えられるようになったら俺のところにデイヴを取りに来い そうじゃなかったら 殺すぞ?」
 頭を床に打ち付けてしまったデイヴに触ると、手を振り払われてしまった
「おい、デイヴ 落ち着け 俺だ!デイヴ!!」
 触られまいと暴れたデイヴが アルフレッドの声を認識して動きを止める
「ある… ある ごめんナサイ ゆるシテ」
「ああ、大丈夫だよ。俺こそ悪かった」
 汚れた身体を抱きかかえ、自分をにらむフランクに一瞥を投げかけ部屋を出た。


「デイヴ、ついたぞ?」
 シーツにくるまれたデイヴの身体を自分のベットに下ろしたアルフレッドは、マーティンに声をかけるとバスルームに入っていった。
「ア…」
 不安そうに声を上げたデイヴは、目の前にいる赤毛の男が自分を見ていることに気付きシーツの袷をきつく握った
「君とははじめまして かな?」
 穏やかに笑う男に眉を寄せる。アルとフランク以外にデイヴは姿を見せたことがなかったから、相手も自分も 初対面だった
「…」
「俺はマーティン・エイブラハム
 こんなんでも一応牧師の資格も持ってる…」
 デイヴの顔が驚きから驚愕に変わり、逃げようと動いたのだが、いう事を聞かなくなっていた足は役に立たず ベットから転がり落ちそうになったのだが、マーティンがとっさにその身体を抱えた
「イヤ…」
「ゴメン、驚かせちゃったよね
 君を灰にしようだなんて 考えもしなかったから…つい」
 そっとデイヴの身体を元に戻すと、ベットに寝かしてやる。マーティンはそのあまりにも細い体のどこに、いくら吸血鬼とはいえ 戦闘で見せた力があるのかと考えざるを得なかった
 デイヴの身体は、それほどまでに細いのだ
「君は デイブよりすごいんだね  …デイブだってすごいのにさ」

 物憂げにデイヴはマーティンを見た
 なんの敵意のない目
 アルフレッドですら 自分を初めて見たときには敵意を持っていたというのに…
「おれガ おれジャナクナルカラでテキタダケ…あるヲうらぎリタクナイカラ」
 体力を消耗し、上手くアンジェル語を喋れないデイヴをにっこり見つめたマーティンは 懐から何かを取り出しデイヴに差し出したが、デイヴの状態を思い出したのか 彼自身が何か作業をしてデイヴの目の前に持ってきた
「くろすダッテ おれハしナナイヨ?」
「それは知ってる …何かに縋ってもいいんじゃないのかな?
 アルだけじゃなくてさ、こういうものでも」
 目を細め 声を立てずにデイヴが笑う
「きゅうけつきガじゅうじか?」
「牧師が戦闘部隊に?と一緒さ 御伽噺の住人さん?」
「なぁにやってんだよ」
 バスルームから出てきたアルフレッドが、デイヴが笑っているのを見て驚いていた
 こんな風に普通に笑うと、ただの子供に見える
 いつもは無表情で、どちらかというと小生意気そうな顔しか見たことがなかったから、デイヴが笑うとは思っていなかったのかもしれない
「バスの準備が出来たから身体洗ってやる
 その前に 嫌ならデイブに戻ってもいいんだぞ?」
 一瞬にしてデイヴの顔から笑みが消えた
「まさか… こっちに定着させられたのか!?」
 横たわるデイヴの腕を掴み、力任せに引き起こす
「イタい…」
「痛いじゃない!どうなんだ 言え!」
 アルフレッドの怒声にデイヴは逃れようともがき、暴れた。アルフレッドが戻ってきたので、また本を読み始めたマーティンが視線を上げずにしゃべる
「アル、そんなに怒らなくてもいいじゃないか
 そんな事されたら、誰だって喋りたくなくなるよ」
 はっと動きを止めたアルフレッドはデイヴを見つめ、かぶりを振った
「わりぃ… これだけはかけた人間じゃねぇと解けないんだ
 定着させられたんだろ?」
 手首をつかまれたままのデイヴはうなだれ、首を左右に振る
 デイヴは、言われた事が当たっているとすぐ視線を逸らし否定する。その行動は、17歳の外見より 更にデイヴの幼さを強調している ……実際デイヴは行動、言動とも幼かった
「どうして変わらなかったんだ?その隙はあったろ そうすれば…」
「ソウスレバ?ソウスレバッテ あるガ アイツニ おれヲごうもんシロッテいッタンダ!おれヲ おれヲ」
 また暴れだしたデイヴを抱きしめる。息が出来ない苦しさにおとなしくなるまでそのままでた。

 吸血鬼に力を持っているのにもかかわらず、デイヴは男に抱かれている限り暴れることを知らない
 そう躾けられている
「体洗うぞ?」
 かすかにデイヴの頭が動いた
 「っあ…」
 先ほどまでこじ開けられていたそこに指が入れられたのが分かった。しかしその指は、自分を快楽に導くものでも、痛めつけるために入れられたものでもない
 ただ、純粋に中に吐き出された欲を掻き出すために入れられたものだった
 しかし、男同士の性交を教え込まれている身体は 快楽を求め 自分の意思とは裏腹にアルフレッドの指を求め 焦がれたいた
「くあぁ」
 狭い内部で指が開かれ、思わず身体が仰け反りあわててアルフレッドの身体にしがみついた
「痛くないか?」
 指を飲み込んだだけで嬌声を上げるデイヴに、愚問だと思いながらも声をかける。デイヴの足と足との間に残る赤い血を見て、征服欲にかき立てられるが 押しとどめながら、フランクが放った欲を出してやる
「ある、いレテ…オねがイ」
 熱くなったものを、アルフレッドの腹に擦り付けながらデイヴが切れ切れに懇願する
「ダメだ」
 抱きたいのは山々だったが、今 抱いてしまえばフランクがしたことと変わりがない
「フランクに抱かれたのを忘れたいんだろ?そんなのは御免だ
 俺は代わりじゃない」
「…あるダッテ たッテルジャナイ」
「悪いか?そんな声出されたら誰でも勃つ 
 だがな、ろれつもまわらねぇヤツを抱く気は無い
 それより血を飲め」
ほらという風にデイヴの頭を自分の左の肩に引き寄せる
「イラナイ… あう!」
駄々をこねるデイヴに、アルフレッドはデイヴの中に入る自分の指をデイヴを危うくするポイントを突いた
「俺は抱かないからな
 飢えを止めるのは抱かれるか飲むかだろ?ほら、飲め」
手近にあったかみそりを取り、首筋を切る
血の臭いに デイヴは身体を引きつらせた

ゆっくりと身体が離れ、立ち上がった
たち膝で、片足を床についてデイヴの体を洗っていたアルフレッドの肩に手を置くと震える舌を出しながらデイヴが血を流す傷口に顔を近づける
荒い息遣いが聞こえる
その息が肩にかかる
何度もためらい、頭を振るのが感じられた
「いいから飲めよ…」
ぐいとデイヴの頭を、自分の切った傷口に押し腰を抱えてやる
一度、血を舐めてしまえば、あとは一心不乱に飲み続ける
「つぅ!」
いつものことだが、傷から滴り落ちる血では足りないので、デイヴが牙を突き立てたのだ
吸う方も吸われる方も、この行為に生理的欲求が付きまとう
自分の身体を縮め、腹の辺りにあるデイヴのモノと自分のものを握り、もう片方の手は、もう一度デイヴのそこへ潜り込ませた
「!!?ある、やめて!!」
フッと息を吐く。血を飲まれて頭が重かった
こうでもしていないと、理性が負けて本能のままにデイヴを抱くだろう

デイヴが身をよじりながらも、また傷口に口をつけた

ただ、流れるシャワーの音と、荒い吐息 そして粘着質な音だけが響く

「ぷはっ」
デイヴが傷口から口を離しアルフレッドにしがみついた
傷は治っており、傷があった後にはうっすらと鬱血があるだけだった
「お願い 入れて!アル おねが…―――!!!」
「くっ…」
アルフレッドの手の中に二人の白濁した液が吐き出された
デイヴはアルフレッドの肩に頭をもたせ掛けた
「アルのばかぁ」
アルフレッドは意地悪く笑ってシャワーを取り、デイヴと自分の体を洗い流すとデイヴを連れてバスルームを出た





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