小説集
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2004年11月27日(土) :
 


あなたが欲しい
 あなたがいれば、俺は何も要らない
だから…

――――――

「マーティン 悪ぃ、少し五月蝿くなるかもしれん」
判っているという風に笑ったマーティンが、デイヴを自分のベットに寝かせたアルフレッドに十字架のペンダントを渡した
「さっきデイヴに渡そうとしたらアルが戻ってきたからさ
 つけてあげてよ」
訝しげにマーティンを見る。デイヴが受け取るとは思えないようなものだ
「デイヴだって いつまでも君に頼っていられないって知っているんだよ
 君の変わりになるものさ。気休めでもいい
 君…アルからつけてやればアルの変わりになる」
「そんなもんかねぇ…」
鈍く光る十字架を見ながらアルフレッドは思い返した

 ――俺を頼ったというのに、俺は気付いてやれなかった
   それでもデイヴは俺を求める…

そろそろ潮時なのかもしれない
引き際を見誤れば、自分も堕ちるのだ
また、あの痛みが出始めてきた その為にもデイヴから離れていなければならない
「わかったよ」
デイヴが待つベットへ入り、カーテンを閉める
血を飲んで体力・気力を回復したデイヴは起き上がり、ちょこんと座っていた。その姿は、着ている大きい服のせいで更に幼さを強調していた。
「マーティンからだ」
鎖をつける時に、少し触ってしまったらしく デイヴの身体がかすかに震えた
それを無視して向き合ったままフックをかける
「吸血鬼に十字架とは、ずいぶんと珍妙な組み合わせだな」
笑いながらプラチナ・ブロンドの髪をくしゃくしゃっと撫でてやると 子供らしく、嬉しそうに笑った

 ――! なんだ…

デイヴ・デイブは物として扱われてきた
愛情も、温かい家庭も、人間として生きるのに必要なものすべてを知らずに育ったらしい。笑いも、涙も知らず 怒りと闇に浸かりながら今まで来たのだ
デイヴは求め方を知らず、奪うか壊すかしかなかった
そして、男を悦ばせる方法しか デイブが生きる道はなかった

 ――そうか、愛情を求めてたんだな…

彼には何もいらない
包んでやればいい
だが、それは自分ではない
デイブ・デイヴに笑いを与えたのは、本人がどう思っているものであれ フランク・ミラーだった
歪んだ卑しい笑いしか出来なかったデイヴが、子供がするように 無邪気に笑ったのだ
「アル 俺はどうすればいいの?」
「そうだな お前はお前のままでいいんだよ
 どうするかは俺には決められない お前たちの身体なんだ」
そっと、デイヴの身体を寝かせ 自分も横になる
子猫が乳をねだるように、デイヴはアルフレッドの胸の中に入ってきて甘えてきた。その細い身体を抱きしめてやる
「俺は …いない方がいいの?」
「そんなことはない デイヴがいなけりゃぁデイブは存在できなくなるし、デイブがいなければ、デイヴが精神に異常をきたす…そんなことはどうでもいいさ お前がデイブを救ったんだからな」
「…だって、だって アルとの約束を破りたくなかったんだもん!
 デイブが血を吸おうとたから…そうしたら、俺が俺じゃなくなる
 そんなのは嫌だ 完全体になんてならなくていい いつまでもここにいたいから」
泣き出したデイヴを、さらにぎゅっと抱きしめる
本来ならこんなところにはいないはずの子供、ヴィルト・イルバンの皇位継承者、自分でありながら自分でないものの目から見ていなければいけない身体、性格が歪まない方だおかしいだろう
「いい子だ」
「アル 俺を嫌いにならない で…」
最後は眠りに入りながら、寝言のように呟いていた

俺は、誰も救えない
デイヴも、そして自分自身も
俺にはデイヴを慰める資格なぞない

俺も、デイヴも 同じはみ出した存在だから
傷の舐めあいしか出来ないのだ

「…ごめんな」

Fin





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