小説集
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2004年11月16日(火) : PERSONA
 

  やあ デイブ

自分…若い自分が声をかけてくる

  デイブ?無視するなよ

自分のものとは違う 細くしなやかな腕が背後から絡み付く

  アルから名前もらったんだ 本当ならそう呼ばれるはずの名前だけどさ?

左の耳に顔をよせクスクス笑う こいつから逃れる術はない 囚われの身だ

  デイヴだってさ どうしたの?

出来ることなら耳を塞ぎたい だがこいつの前ではそんな事が許される訳がない
血の欲望を抑えられず、デイヴを呼び起こしてしまった…いつもなら自分が血を飲んで渇きを抑えているのだが、三日前の喧嘩のせいで興奮し、デイヴを抑えられなくなり こうしてこいつの支配下に置かれている
 
アルはやさしいね デイブじゃないって分かってても血をくれたし抱いてくれたよ?

顔をそらすと面白そうに笑い、さらにきつく抱き着いてきた

  妬いてるの?アルだって死体みたいに反応しないデイブなんかよりよっぽどいいと思うけど?ねェ

やめてくれ…

 なんで?本当の事じゃない?身体を使うのが嫌ならさっさと俺にちょいだい

吸血鬼としては同じとはいえ、デイヴの方が格が上だ…デイヴはオットーそのもの

 二人も必要ないじゃん 血を吸う勇気もないのより、完全体の方が へぇ…

デイヴの見えない呪縛を断ち切り自分に殴り掛かろうとしたが、闇が手を伸
ばし身体を押さえ付けた

お前こそ なんで なんで血を飲まない おまえ!

闇が身体を押し潰し動けなくなるとデイヴが目の前にしゃがんだ

 アルと約束したんだ …じゃあ、アルのとこに戻るから、闇を愉しませてあげてよ

ヤメロ!ヤメテクレ


「デイブどうした?」
デイブ…何故デイブなのか
「デイヴか?」
身体を動かし、横にいたアルフレッドの首に腕を巻き付け自分の顔を彼の胸にうずめた
「デイヴ どうした?」
しっかりと抱きしめられる。こうしてもらうと何もかも忘れられる
何でないと首を振る
「血か?」
「…もっときつく抱いて」
アルフレッドの大きな手髪をすく 少し落ち着いてきた
「好きなだけいていいんだからな?」
アルの手を払い胸を押し返す 知らず知らずのうちに涙が溢れていた
「なんで、なんで俺はずっといちゃ駄目なの?
俺じゃダメなの?デイブの方が大事なの?なんでなんで…
ねぇ、俺の方がいいでしょ?俺の方が役に立つし ねぇアル…」
ぎくりと言葉を切る アルフレッドは今まで見せた事のないような顔をしていた
「少し黙ってろ」

涙をこぼし眠るデイヴをベットに残し、アルフレッドはシャワーを浴びる
自分はデイブもデイヴも 何もしてやれる事がない
デイヴはデイブを傷つける
デイブはすべてを飲み込み 自分の殻に深くこもる
いつか必ずどちらか選ばなくてはなくなる だが選べなかった
デイヴは自分を求め甘える
デイブは手を差し伸べないかぎり とまどい、立っている
どちらとも一人の人間だ
例えデイヴが あのオットーそっくりだったしても…
二人…二人を抱くことが正しいとは思わない
しかし他に選択肢があるか?
あったのかもしれない
あったのかもしれないが、俺は見過ごした
腰にタオルを巻いてベットへ向かうと、デイヴは目を覚ましていた
「気分はどうだ?」
小生意気な目が少し細まる
「いつもよりは いいよ」
デイヴはデイブより、少し子供だった。実際年も若いらしく、20だと言ったが 17・8のガキといっていいだろう
本来ならこの年で成長が止まるはずだったのだ、デイヴの時は身体も少し若返っている
今はあまり差はないが、デイブが年を重ねる姿を デイヴはどう思うのだろうか
ベットに入り込み横になると、脇に寝ていたデイヴが腕の中に入ってきた
「アル…俺じゃダメなの?」
すがるように見られ、何を言えばいいのか
「いや 駄目って訳じゃ…」
視線を逸らすと、デイヴの顔が曇った
「デイブの方がいいの?」
「そういう事じゃない お前達は 俺がどうのこうの決めることじゃない
 俺には選べんよ」
デイヴが胸に張り付く
「ごめんなさい ただ…ただ」
「いや ……俺が悪かった どっちかなんて決められないんだ
 だがな、お前は肉体がなくとも、精神の状態でも存在できる だがデイブはどうだ?長い間肉体から離れていると異常をきたして消滅しちまう そうしたらお前もおかしくなるだろ?」
「…うん、わかってる。解ってるけど …俺は アルを アルを独り占めしたい」
アルフレッドは笑った 本当にデイヴはまだ子供だ
「じゃぁ 俺を吸血鬼にするしかないな」
「ずるいよ 完全体にならなきゃ出来ないよ」
髪をすいてやる。デイブの時は力を抑えているのとヴィルト・イルバンの人間に見つからないようにするため濃茶の髪にしているのだが、デイヴはそんなことも気にせず本来の髪の色――プラチナ・ブロンドの柔らかい髪だった
猫が咽を鳴らし甘えるようにデイブは抱きついた
「もう少しだけ ここにいさせて」
最後は眠りに入りながら喋った

――俺は自分に関わった相手を泣かせることしかできないのか
デイヴもデイブも
誰かこの二人を救える人間は現れるのだろうか
それは俺ではない事は確かだ

この二人が壊れる前に… 誰かが









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