小説集
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2004年09月22日(水) :
 

もう武器は必要なかった。ロイヤルガードのシュミットとシュタインミュラーの姿を見ると、抵抗しようとしている吸血鬼たちは大人しく降伏した。後宮に入ると皇帝の女御達が何人か簡単に気絶させられ 大半は怯え泣いているだけだった。そんな人々を横目で見ながら奥へ奥へと進んでいく。関わる必要はない、彼らを保護するのは普通の軍の兵士がすることであって、VHSOFsはそんな事をするために来たのではなく自分達の任務を遂行するためにきたのだ。それに普通の人々に関わる事はない。
「なんだか デイブが死んだ気がしないや…」
奥へ進むたび、フランクには その確信が大きくなっていく。
「…彼は デイブ殿は恐ろしいですね…」
シュタインミュラーが口を開いた。
「先ほど、陛下に銃口を向けたので殺そうとしたのですよ。なのに彼は私たちの姿も見ずに銃とナイフを突きつけてきたんです。まったく手足が出なかった……さぁ、着きましたよ。」
「…陛下 陛下!!」
シュミットが声をあげた部屋へ皆が視線を注いだ。
「!!!!」
思わず目を背けたくなる光景だった。
床には頭を撃ち抜かれた死体、至近距離から撃たれたのだろう…その前にはVHSOFsに支給されるSOCOMが落ちている。死体には何かを打ち込んだような大きな穴と、首には喰いちぎられた痕―――心臓には杭を 首はくびり落す 吸血鬼の殺し方。
SOCOMを拾い上げる。一人一人の認識ナンバーが刻まれている所には、何も刻まれていない、左撃ちのSOCOM…ディビッド・ボーマンのもの。その近くでスコープの壊れたPSG-1も見つかった。
その横でマーティンが声をあげる。
「デイブの受信機とマイクだ…」
こんなにも証拠があるというのに、まだデイブが死んだとは思えなかったし、実感もなかった。
デイブの事だから、何も言わずにそのうちひょっこりと帰ってくるような気がするのだ。
暗く閉ざされた部屋に満たされた赤い光の中、壊れた窓から赤外線を取り払わない光が入る。
オットー・ルッツコフマンが少しずつ灰へと還っていく。

 ―――塵は塵に

デイブがよく口にしていた言葉だ。塵は塵に
「父親殺しのトラウマにならないかな…?」
FORTH10の紅一点、リンちゃんが泣いていた。彼女が泣いたのを見たのはこれが初めてだった。FORTH10の誰もが、デイブが塵に還ったとは思っていない。ロルフ・ボーマンが静かにリンを抱き寄せる。すると、リンは声をあげて泣き始めた。多分、彼もデイブが死んだとは思っていないのだろう。目が合った。人間でありながらも デイブの様に深い眼。
サンダー・ボルトやストーム・フォースから連絡が入り、王宮全てが鎮圧された事がわかった。
マーティンが詠唱を唱えている。牧師でもあるマーティンは戦闘の前に祈り、戦闘の後に祈る。何故牧師なのに?と聞いた事がある。矛盾してるけど 彼は答えた。 デイブがいるなら自分がいてもおかしくはない。 と。
「おい、フランク 大丈夫か?」
「え?あ、アル 何が?」
差し出されたラッキーズを口に銜え火をもらう。紫煙を吐いたアルフレッドは煙草でフランクを指した。
「デイブの事だよ。抱き枕がいなくなって」
アルフレッドはひねくれた言い方しかしなかったが、心から心配してくれているのだ。ぶっきらぼうでも本当はやさしい。デイブを守ってきてくれたのはアルフレッドとミハエルだった。デイブの癖はアルフレッドの癖そのものだった。デイブに振り向いて欲しくて いつもデイブの機嫌を損ねてきた。デイブはアルフレッドの背中しか見ていない。とも…。でも違った デイブはきちんと自分を見ていてくれた。最後まで気付けなかった。だけど…
「まったく、最後までわかんないよ。デイブは抱き枕じゃなくて大事なパートナー」
「…先に喰っちまって悪かったな。」
笑った。今のアルフレッドはデイブを弟の様にしか思っていない。
VHSOFsの仕事は終わり、SOFsが続々と入ってきた。それまでの間、FORTH10はロルフ・ボーマンやシュミット、シュタインミュラーといい友人になれた。多分、デイブが聞いたら怒るだろうけど、ロルフはデイブそっくりだった。何もかも全てが。彼がこれからこの国を統治するのだ。
SOFsに場所を受け渡す。オットー・ルッツコフマンは灰へと変っていた。
VHSOFsに政治は関係ない。戦いが終わったら それで任務は終わり。
ロルフとは硬い握手を交わした。
朝の光に満ちあふれている。
 ―――世界はこんなに奇麗なのに 何故
目の前にヒップフラスコが差し出される。誰かと思えばマーティンだった。
「飲めよ、主の血だ」
上等なワイン、本当はアルコールは苦手だが飲んだ。
「…デイブが言ってた事があったぞ。 フランクが死んだら俺はどうすればいい? だって」
「嘘だろ?」
「嘘なんかじゃない。アイツはそういうやつだよ。デイブに感情を与えたのはフランク、お前なんだ。それまでは自分を殺してまで任務を遂行する奴だったんだよ。死なないから弾の雨の中を平気で飛び出していくような。お前と組むようになってなくなったんだ。よっぽど大事にしてたんだよ、お前の事。」
フランクの目に、はじめて涙が浮かんだ。
今 やっとわかった。
デイブは自分を拒絶していたのではなく、どう接すればいいのか分からなかったのだ。不器用で甘え方を知らない子供だったのだ。
「……デイブは バカだよ…」

制圧された道路をアンジェル軍の人員輸送トラックがやってきた。
宮殿を一瞥したアルフレッドが最後に乗り込み、アンジェル軍最”凶”の戦闘犬たちが檻におさまり、戦いが幕を閉じた。



揺れるトラックの後ろから後ろへと流れる風景をただぼんやりと眺める。
アンジェル軍がいたる所にいる。これからヴィルト・イルバンはどうなるのだろうか?占領統治になるとは思えない。戦いの理由は闇の中のままだ。
煙草を弾く

 ―――おやすみ、デイブ






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