小説集
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2004年08月23日(月) :
 

 SOCOMが火を噴く。しかしオットーはいとも簡単によけ、デイブに向かってきた。弾倉を再装填し、目を上げた途端 伸ばされた手で掴まれそうになったが、横に飛び込むように前転でよけると先ほど投げたPSG-1を取る。お、オットーの目の前で法儀礼済のグレネードが爆発した。
  ――こんな事で死ぬようなヤツじゃない……くる
 背中に何かが走る。首の後ろがチリチリしだし、デイブは息を吐くと能力のすべてを開放した。グレネードの煙の中にユラリと動くもの目掛けトリガーを引く。しかし、弾は当った様子もなく、動くものは次第に数を増していき、デイブがpsg-1の弾を撃ちつくし、再装填する暇を与えず 動くもの―コウモリの群れが一斉に襲い掛かった。
 「チィッ!!」
 吸血鬼はコウモリに化けることが出来る。ランクが高くなると狼にもだ。そしてオットーと自分は体の体積以上に化けられるのだった。一瞬にしてかこまれてしまい、動きを阻まれる。チイチイと鳴きながらコウモリは攻撃を仕掛け、皮膚を噛み裂いていき、服がどす黒く染まっていく。うなり声が響き、苦痛に顔を歪めながらもデイブが視線を上げると 黒い狼が今にも跳びかかろうとして床をかいている。
  ――アモ-弾倉-を…いやグレネードを …血が 抑え られる か…?
 考える間もなく 狼が口を開け飛び掛ってきた。コウモリの攻撃を無視し、ハーネスにつけたグレネードを取ると大きく開いた口にその手を突っ込んだ。狼が目を見開き暴れたが、グレネードガ爆発し デイブの腕ごと吹き飛ぶ。
 コウモリは攻撃をやめ、一点に集まりだした。狼だった肉片もチリ
 デイブは血を滴らせながら左側につけたバックの中をまさぐり、メディカル・ブラッドを取り出し封を切ると飲み始めた。吹き飛んだ右腕があったところにコウモリが群がり、少しずつ腕へと戻っていく。
 息が上がり 肩で息をしていた。脂汗を流し、顔が苦痛にゆがむ。戦いの中で弾を浴びたとしても これほど疲れることはない。体が引きちぎられ、細切れにされてもだ。しかし今は 自分を保つことで精一杯でメディカル・ブラッドも何の役に立っていない。PSG-1を落としてしまう。手足が震え、SOCOMですら重く感じ……
 とっさにSOCOMを上げたが、撃つ前に首に牙がめり込んだのが解った。判断が鈍り、元の姿に戻ったオットーに気付かなかったのだ。 何故?
 気が遠くなる寸前、口をはなされ床へと崩れ落ちる。呪縛から開放された体を動かそうとすると、奪われたSOCOMが火を吹き、残っていた弾がデイブの体へと撃ち込まれる。絶叫が響きわたり、ガラスが振動した。オットーはデイブが苦しむ様子を笑い、しゃがんでバックパックへ手を伸ばすと弾倉を取り替える。
 「お前の血は最上級のワインも敵わないな リヒャルトもな。どうだ?コウモリに血を奪われた感想は?」
 体が動かず、ただオットーを睨むしかなかった。
 「くっくっ いい姿だな。本当ならお前は意思を持たずに 私の言うことを聞く人形にするはずだったんだ。 ウォルフを甘く見ていたよ お前をここまで腰抜けにしたんだからな。
 だが どうやら実験は成功のようじゃないか?感全体ではないといえ、吸血鬼でありながら日光を浴びても銀を浴びても死なない
 では、これはどうだ?」
 心臓に銀の弾が撃ち込まれる。本来、吸血鬼は銀でなくとも心臓を撃ち抜かれれば死に至るのだが、デイブは大きく眼を見開き口から血を吐くが 先ほど穿たれた傷口同様 心臓の弾痕も少しずつ再構築し始めた。オットーはますます厭らしく笑い、自分の右手首を切り 抵抗する気力さえ失ったデイブの口の中に滴らせた。
 「回復するまで話をしようじゃないか
 同族を殺すのはどんな気分だ?戦いの中でお前は何であろうと嬉々として殺していたな、それに死体から血を吸っていても人間だと言い張るのか?」
 少し動いたデイブの方を射抜く。
 「アルフレッド・ミラーにフランク・ミラー… どちらとも化物退治のミラー家の中でもピカイチの能力者だな。 …だってのにお前はそいつらの言いなりになって屈辱ではなかったのか?能力を押さえつけられ、暴れれば呪布で縛られる。血まで与えられ…ペットのように扱われていたと言うのに お前はなんとも思わなかったのか?
 われわれは闇ではない。太古から存在し、ただ人間の血を必要としていた。私がこの国以外で何かしていたか?人間を襲っていたあのクズどもは我々とは違う低俗な奴らだ。
 何故否定する? 何故拒絶する? あの二人が欲しいなら仲間にすればいい。あの二人は役に立つぞ?出来ないのなら私がしてやる。あの二人が仲間になればお前も血を吸うだろう?
 ちょうど…」
 デイブが起き上がった。その紅い眼には 今までにないほどの怒りに満ちており、手を開くと床に落ちていたPSG-1がしっかりと収まった。
 デイブは生まれながらの吸血鬼であるので、元人間に同族にするため血を飲ませるといったこと つまり、先ほどオットーがした、手首を切って血を飲ませる。というようなことをされても完璧な吸血鬼となることはない。直接人間から血を吸わない限り、完璧な吸血鬼にはならないのだ。しかしながらデイブは、相手の血を飲むことで 相手の能力を自分のものに出来るのである。これはオットーも持っていない能力であり、知らないことだった。
 血は生命の源であり、その者の記憶・経験・能力をも記憶するメモリーでもある。先ほど、デイブはオットーの血を飲んだ為、オットーの能力も手に入れていた。いや、それ以上の力を持って……
 ザワリと空気が鳴く。オットーは吸血鬼となってから初めて恐怖を覚えた。忘れてしまったはずの感情、必要ないはずのつまらぬモノがなぜ?
 確かにデイブは自分のクローンでコピーであるが、能力は少し劣っているはずだった。だが、今目の前に立つデイブは何なのだ?自分以上の、自分ではないモノになっている
 空気が研ぎ澄まされる。デイブの背中に何かがある……吸血鬼の羽とは違い、漆黒の翼……

  ――デイブはいったい……
 




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