小説集
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2004年08月15日(日) :
 

 振り向く。「また撃つか?」
ロルフの表情が引きつり、眉間にしわが寄った。自分と同じ癖 妙な感じだ。
 「違う。デイブはどうするつもりだ?」
 「どうする?オットーを殺すさ その為に来たんだ。」
 空気が変わったのが分かった。この国の支配者であり、崇拝されている人物を殺すというのだ。「殺してどうするんだ」
 誰かが言う。怒りに震えた声だ。やれやれとため息をついたデイブはPSG-1のストラップをかけ直した。
 「さあな あの男に勝てるとは思わんがな。
 しいて言うなら 父親殺しは男の子の成長儀礼だろ?」
 そんなことはない。もっと…違う理由があるのは目に見えが、聞いても話してくれる事はないだろう。ロルフはデイブの笑い顔を見る。歪んだ笑いだ。その笑い顔のまま近づいてきた。ロルフはその威圧的な空気に また、一歩後ずさる。汗が伝い落ちた。鼓動が大きくなる。バランスを崩し、後ろへ倒れそうになったとたん、デイブは腕を掴んだ。
 「痛!
 爪が布に食い込み、皮膚を刺す。デイブはロルフを引き寄せると耳元で呟いた。
 「     …覚えとけ  いつか役に立つ。
 オットーの後を継ぐのはお前だ」
 「な!また勝手な事を言うな!!何故 短命種の俺が…」
 「俺が立ったら オットーと同じで狂うさ。化物-俺-ではなく、人間-ロルフ-じゃなきゃな」
 「狂う?」
 「ああ、俺もオットーも狂ってる。オットーは俺を取り戻すため、この馬鹿げた戦いを始めた。俺は?俺は戦いの中でしか生き甲斐を感じられない。  これを狂っていると言わず なんというんだ?」


 何もいえないロルフから手を離すと、少し悲しげな顔をして出て行った。


後宮は前宮とは打って変り 人っ子一人見当たらない。静まり返った城は 不気味さがあちらこちらにうごめいている。脇には目もくれず、オットーのいるはずの 皇帝専用のプライベート空間がある方に向かって歩いていく。
 何者かが前から近づいてきた。長身の男が二人、黒の親衛隊の制服に赤い縁取りと襟が入ったロイヤルガード、左目には赤外線暗視装置の組み込まれたメガネに ストローマイク。デイブはPSG-1の銃尻を床に置き銃身を握り、SOCOMは左足のホルスターに収めた。
 190cmはあるだろう二人はデイブの前に来ると膝まずいた。
 二人の階級章が目に入る――金と銀 軍部のトップとNo,2

おもしろいことになってきた


 「デイビット・ボーマン殿ですね。オットー・ルッツコフマン皇帝陛下の命により、あなたを陛下の御前までお連れします。」
 デイブは答える代わりに PSG-1のストラップを肩に掛ける。これで余計な体力を使う必要がなくなったのだ。
 ロイヤルガードの二人は立ち上がり、踵を返すと歩き出した。
 鋲の撃たれたブーツが出す音と、デイブのブーツの硬いゴムが出す音、そして銃がぶつかって出す音だけが響く。
 ようやく皇帝専用の居住区に着いたらしく、ロイヤルガードが立っている。まだ若いらしく、不安に怯え デイブを見た後に上官の二人を見た。金の階級章をつけた男が かまうな と手を振り扉を開けさせる。何かがデイブ目掛けぶつかった。凄まじいオットーの気にデイブは弾かれてしまった。額から血を流しながら立ち上がるが、能力-ちから-を押さえられず 髪が黄金色に変化する。
 その姿に ロイヤルガードの三人は息を呑んだ。彼らが息を呑むことなど滅多にない。オットー・ルッツコフマンをそのまま年をとらせた姿のデイブがいたからだ。それほどそっくりなのだ。
 「Shit!
 痛む頭をかかえながら悪態をつき前を睨む。
 あの男-オットー-は自分のこの姿を笑っているだろう。


 「相変わらず人間のように生きてるんだな」
 目の前の椅子に座る二十歳程の男 オットー・ルッツコフマンの言葉をデイブは聞き流した。
 オットーとデイブの間には、首から血を流した死体が三体転がっている。どれも口の中に鋭い牙を持った吸血鬼だった。オットーの言葉には耳も貸さず横目で死体を見るデイブに痺れを切らせたオットーは立ち上がると その心臓にPSG-1の銃口が突きつけられる。後ろに控えていたロイヤルガードの二人――イシュタトゥン・シュミットとゲルハルト・シュタインミュラー ――デイブを連れてきた二人だ。がデイブの頭に狙いをつける。
 「こんなモノが効くと思うのか?」
 オットーの問いにデイブは目を細めた。
 「効くとは思わんね。」
 まったく同じ声。デイブの響きに多少の年を感じるくらいだ。銃から弾倉を抜き、薬室にある弾を弾いて部屋の隅へと捨てる。その隙を見逃さず シュミットとシュタインミュラーはデイブを撃ち殺そうと銃を構え直した。
 「!!!!!?」
 シュタインミュラーは心臓にSOCOMを押しつけられ、シュミットは左の首筋にナイフを突きつけられたていた。後ろ向きのままのデイブが オットーを睨みながら二人を押さえつけていたのだ。
 ――見えなかった…やはり陛下が一番気にかけていらっしゃったご子息、我々でも敵わない




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