小説集
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2004年08月13日(金) :
 

 「なっ!!」
 「当たり前だろう?俺は兵士だ。
 銃を持ち、我々の前進を阻むモノは男も女も 老人も子供も殺し、その屍を越えて前に進め。銃のサイト敵が現れたらトリガーを引け。悲鳴も涙も無視し忘れろ。
 出来ないと思うか?出来なきゃ死ぬんだ。
 出来ないと思っても 一度戦場に出れば出来るようになる。 …そうするうちに戦場を恋焦がれ 求めるようになる。日常が非日常となり、有事が日常になる。
 お前らみたいに会議室で兵隊-コマ-の動かし方を考えている奴等には解らないだろう?
 俺たち兵士は人間でありながら 人というペルソナから切り離されて駒として 考えることを許されず、ただ命令通りに動く 犬 軍用犬だ。
 友が裏切ったら? 殺す
 人質をとられたら? そいつごと殺す
 敵に囲まれたら? 出来るだけ道連れにして死ぬ 捕虜にはならない
 わかるか?俺たち-兵士-はテーブル軍人の殺人人形だ。

 これで十分だろ?お前は俺を解る事なんか出来ない。」
 「…絶対にか?」
 「ああ」 
 デイブは踏みつけられぺちゃんこになってしまったラッキーズを拾いあげ、懐へと入れる。 
 「吸血鬼を倒すなら 心臓か頭を撃ち抜く事だ。法儀礼済の弾だから、どこを撃とうが効果はあるが 無駄使いしないほうがいい…!!」
 ロルフがデイブの心臓辺りに 法儀礼済銀弾が入ったワルサーを押し付けた。しかし、その手は震えている。
 「撃ってもかまわんよ。残念ながら 俺には効かんがな。」
 なかなか行動を移そうとしないロルフに痺れを切らしたデイブはワルサーの銃身を掴んだ。
 「どうした?やらんなら こんな玩具 さっさとしまえ」
 トリガーが引かれ、デイブが膝を折って倒れる。
 ロルフは呆然と煙があがる銃身を見つめ震えていた。 自分が何をしたのか……
 「で いぶ…?」
 ワルサーを取り落とし座り込む。それと同じくしてデイブが動いた。周りの人間たちは黙って…いや、喋ることが出来ずに呆然と見ている。と、何が起こったのか理解らないままロルフはデイブに首筋を噛まれていた。
 一度口を離し、再び傷口に口をつけると、血を吸い始めた。
 呆然と見ている人間のひとりと目が合う。デイブは厭らしく歪んだ笑いを浮かべると、誰もが背中を何か冷たいものが走った。ロルフを助けることはできない…長命種(注:ヴィルト・イルバンでは吸血鬼を長命種と呼ぶ。吸血鬼という概念はない)を敵に回すことは出来ない。それがたとえ、敵の軍のモノであっても、なおさら 皇位継承権を持った者だったらだ。
 ロルフの開いた口から喘ぎが漏れるとデイブは血を吸うのを止め、傷口に下を這わせる。すると、咬みついた痕がなくなってきた。
 涙を流すロルフを笑う。
 「くっくっ 吸血鬼にはならんさ。少し血をもらっただけだ」
 床へ転がるPSG-1とSOCOMの弾倉を確認しながら扉へ手をかける。
 「もし俺が死んだら オットーはお前を吸血鬼にするだろうな。」
 「それは?」
 「俺たちはオットー そのもの だからな」
 うまくはぐらかして扉を開ける。
 「デイブ…」




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