小説集
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2004年08月12日(木) :
 

 別隊の最高責任者はロルフだった。他の者は ロルフがデイブを手伝うようにと命令を出したため、しぶしぶと手伝いデイブがすることを見守っている。ただし、デイブが変な行動を起こしたらいつでも銃を撃てる体勢、でだ。銃弾に聖水をかけ、呪文を唱えて聖なるモノへと変える。それが終わると部屋の周りに結界を張っていく。
 「デイブ は大丈夫なのか?」
 「お前には関係ないだろう?」
 「なっ」
 ロルフの反応を楽しむかのようにからかい、作業を続ける。
 「そういうモンを効かないようにされてる。太陽の光も、銀の弾も。俺たちはオットーの実験体だ。オットーの欲求だけでそうされた。アンジェルでも ただ利用されただけだったがな。なにせ”公式にも非公式にも存在しないはずの存在”だからな」
 「知らなかった…」
 「だろうな。言っただろ?お前には関係ないと」
 作業を終えたデイブは、弾薬の箱に腰を下ろすと煙草を取り出した。
 「ここは禁煙だ」
 デイブから箱ごと煙草を奪ったロルフは 床へ落とすと踏みつけた。怒りに肩を震わせデイブの前に立ち尽くす。そんなロルフをデイブは嘲り笑った。
 「どうした 口でして欲しいのか?それとも14年前のように無抵抗な俺を抱くか?」
 「!!!? あれは…」
 「やっぱりな、気付いてないとは思っていたが…」
 ハーネスについたバックからメディカル・ブラッドを取り出し飲み始める。誰もが魅せられるかのように血液を飲むたびに動く咽に釘付けとなる。飲み終えたパックが手の上で燃え上がり灰となって床に散った。それを見ながらめんどくさそうに立ち上がったデイブを、ロルフがいきなり殴りつけ、デイブは吹き飛んだ。飛び掛ってきたロルフをよけ、横からわき腹に蹴りを入れ、立場が逆転すると うめくロルフに馬乗りになり殴りはじめる。周りの人間はロルフを助けようにも、デイブが恐ろしくて手を出せないでいる。そると、デイブが涙をこぼした。力の抜けたデイブの下から這い出でたロルフは、その涙をぬぐおうとすると振り払われたしまった。
 「俺は お前じゃない。 …何故忘れさせてくれない 何故一人にしてくれない」
 何故デイブが自分を拒絶するのかわからなかった。デイブがどんな風に生きてきたかも知っているつもりだった。苦しみは分かち合えないかもしれないが、双子の弟を、自分の半身を求めて 何がいけないのだろうか?
 何がデイブをこうしているのだろうか…
 「どうして…ここまで拒絶するんだ?」
 「何のためにこの戦いが始まったのか知ってるか?」
 デイブの問いにロルフは怪訝な顔をする。
 「ああ、その前に 皇位継承権は誰が持っているか知っているか?」
 「それは…」
 フッと笑ってロルフの言葉をさえぎる。
 「皇位継承権第一位を持っているのは俺だ。そして第二位は ロルフ・ボーマンだ」
 皆の視線がデイブに注がれる。デイブはロルフが言葉の意味を飲み込むまで待った。
 「俺とお前は試験管ベイビーと言うヤツだ。偶然だったらしい、双子だってんで 人間のほうを兄として普通に育てて、吸血鬼のほうを出生登録もせずに実験用のサンプルにしたんだ。最初は吸血鬼かどうかわからなかったようでな、たまたま後から取り出したほうを下にしたんだ。ゴミの様に暮らしたいながら、吸血鬼だと分かったとたん、皇位継承権が与えられたんだ。本当なら、俺はお前の影武者として育てられるんだったんだ。そのほうがどんなにマシだったか。吸血鬼だと分かっても、人間とも吸血鬼とも見てもらえず、暗い穴倉の中で育った。
 ウォルフがなんで俺をアンジェルに連れ出した?
 皇族の子供だからじゃない。ヴィルト・イルバン皇国の皇位継承者だからさ。
 お前が吸血鬼だったなら?俺は今のお前と同じだろうな。俺だって23になるまで知らなかったんだ。俺をアンジェルに置いておく事によって、二つの大国のバランスが取れるようにしていたんだ。」
 感情のままに喋ってしまったことに気づき、ため息をつくと、またメディカル・ブラッドを飲む。
 「この無意味な殺し合いは 俺のせいで オットーが始めたのさ。ただ俺を取り戻すために  リヒャルト・スコルツェニは俺のせいで オットーへの犠牲になった。俺をアンジェルに留めるために切り捨てられた」
 「リヒャルトを知っているのか?さっき出撃すると…」
 たった二人の敵を相手に隊で出撃するのか?と聞いたときなんと言っていた?
 ――二人の蛇を相手にしなくちゃいけないから
 イルバン軍で恐れられる二人の蛇 フランク・ミラーとデイビット・ボーマン…
 ロルフの感情を読んだかのようにデイブは口を開いた。
 「…殺した」




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