お茶の間 de 映画
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2005年01月05日(水) 「みなさん、さようなら。」お金じゃ愛は買えないけど、愛するための時間と空間、そして罪は買える。

『みなさん、さようなら。」【LES INVASIONS BARBARES(原始人の侵略/異邦人の闖入】2003年・カナダ=アメリカ
★2003年アカデミー賞 外国語映画賞
★2003年カンヌ国際映画祭 脚本賞・女優賞(マリ=ジョゼ・クローズ)
★2003年インターナショナル(非ヨーロッパ)作品賞
★2003年放送映画批評家協会賞 外国語映画賞

監督・脚本:ドゥニ・アルカン
撮影:ギイ・デュフォー
音楽:ピエール・アヴィア
 
俳優:レミー・ジラール(元大学教授、歴史学者、レミ)
ステファン・ルソー(レミの息子、証券ディーラー、セバスチャン)
ドロテ・ベリマン(レミの妻、ルイーズ)
マリナ・ハンズ(セバスチャンの婚約者、ガエル)
マリ=ジョゼ・クローズ(ナタリー)
ルイーズ・ポルタル(ディアーヌ)
ドミニク・ミシェル(ドミニク)
イヴ・ジャック(クロード)
ピエール・キュルジ(ピエール)

ストーリー用ライン


ロンドン。敏腕証券ディーラーの青年、セバスチャンは突然、
思いがけない電話を受ける。
カナダの母から、父の病状が悪化して余命いくばくもないから、
今すぐ駆けつけてほしい、と。

今、大きな取引をひかえて忙しいセバスチャンは苛々するが、
父の見舞いに行きたくない理由は仕事じゃなかった。本当は。

歴史学者の父、レミは、若い頃からヨボヨボの爺ぃになるまで、
とにかく女グセが悪く愛人を複数持ち、母とはずっと別居だ。
口を開けばシモネタばかり。大学教授の職は失うし、金もない。
父親として尊敬すべき点が見つからない。

そんな父と訣別すべく、異国、ロンドンで就職したのだった。
婚約者のガエルもロンドンで知り合った。彼女は宗教美術品専門の鑑定家だ。

それでも・・・・。血は水よりも濃いのだ。
とにもかくにも、母を悲しませるわけにはゆかない。

ガエルを伴い、カナダの病院に馳せ参じたセバスチャンであった。
何年かぶりであった瀕死の(※でも一見するとすっごい元気そう)
父に、“ボンジュール、ムッシュー”と冷淡に挨拶するセバスチャン。でも父レミも負けちゃいない。

セバスチャンには妹が1人いるのだが、ヨット運搬の専門家である
彼女は、南太平洋のどこかだ。セバスチャンは海上の妹とネットで連絡を取りあい、父にメッセージを送らせた。

しかしまぁ、なんとひどい病院なんだ。
経費節減のため、病棟を無理矢理1つの階に詰め込み、廊下も
重病人だらけ。野戦病院じゃあるまいし・・・。

レミは運良く、末期ガンということもあり病室にいたが、
ぎゅうぎゅう詰めで賑やかすぎる大部屋。
これから天に召される人間の居場所にしてはひどすぎる。

セバスチャンはまだ、弱々しくなった父を見ても、許せたわけじゃない。そんな息子を、母は悲しむ。
赤ん坊の頃、どれほどレミがセバスチャンを慈しんだかを、
ぽつりぽつりと語る母・・・・。

父さん、愛してる、なんて、言えやしない。
まだだめだ。

でも、セバスチャンは、自分にできることをあれこれと考え始める。

アメリカの病院で検査も受けさせた。
でも、父はホスピスは嫌だという。友に囲まれて最期を過ごしたいのだ。

病院の理事長と労働組合を買収し、誰もいないフロアを、父1人だけのために借り切り、きれいに内装させ、父を移した。
そこへ父の旧友たちや、かつての愛人たちで今は親友の女たちを皆
呼び寄せ、賑やかで穏やかな最期の日々を演出するのだった。

レミは満足そうだった。だが、日に日に、末期ガン特有の壮絶な
痛みがレミを襲う。とても・・・とても見ていられない!
病院で処方される合法なモルヒネでは効かないのだ。

思いあまったセバスチャンは、警察の麻薬課を訪ね、ドラッグディーラーを紹介してほしいと頼み込む。
呆れかえる刑事・・・。
だが、帰り際、刑事はこっそり伝えた。
この国でドラッグを買うのは貧乏人ではなく金持ちだぞ、と。

そうか・・!ピンときたセバスチャンは
父の昔の愛人に尋ねると、娘がジャンキーだという。
やっぱり。

こうして、セバスチャンは父の痛みの緩和のために、大麻まで
買うのだった。

ゆっくりと、最期の日が近づいて来ていた。

あと2つ、父のために叶えてやりたいことがあった・・・・。

希望通りの死を迎えさせてやるために。


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コメント用ライン


湿っぽいと思うでしょう?
それが全然ちっともまったく。

「死ぬまでにしたい10のこと」のように、若いみそらで幼子を残し、死ぬに死にきれないだろうに、という物語でもあれだけ
ドライだったが、本作は好き放題一生し続けてきた、元気いっぱいでやり残したことのない爺ちゃんである。
ジメジメ感はほとんどない。

やり残したことは1つだけ。息子と和解したかった。
でも、日本のベタなドラマじゃないですから、
「悪い父親だった、許しておくれ〜〜」なんて、文字通り、死んでも言わないんだな。

言葉にしなきゃ、伝わらないことだってある。
言葉にしたほうが、いいことだってある。

でも、言葉にしなくたって、手を握るだけで伝わるのが親子じゃ
ないだろうか。夫婦は他人だけど、親子は血の絆で繋がっている。

言葉にしたら、スルっと何かキモの大事なトコが逃げてしまうような気がすることってあるでしょう。

あの父子を見ていると、そんなものを感じるのだ。

痛み緩和のための麻薬の使用問題。
尊厳死(安楽死)の問題。

こういった未解決の社会問題にズバっと切り込んで、
そこをすべて「カネ」で解決させる部分に、疑問を抱く方も
当然おいでだろう。

でも、敢えてそれをした監督に、拍手を送りたい。だって、
「難しい問題ですな」
エラい人がそう言うのは簡単でしょう?

お金じゃ解決しないことが世の中いっぱいある。
この金で、お袋、なんとかしてやってよ、とセバスチャンが
帰ってしまったら、金はただのカネだ。

だが、セバスチャンは自ら動いた、手を尽くそうとした。
そのために、賄賂として使われた金も、犯罪者に渡った金もあった。
でも、息子は愛するための時間と空間を入手するために、
糸目をつけず金を使った。
金は、ただのカネではなく、金(きん)だった・・・。

物語の始めのほうでは、まだ、カネでどうにか溝を埋めようと
してるの?とセバスチャンに不信感があった。
それが、観ているうちに、ぬぐわれていった・・・。


ところで、なにしろこのレミという爺さん、とんでもない
スケベ爺である。
そして、歴史をこよなく愛していた。
レミが早口で延々と喋り続ける。
まるでこの世に一言でも多く残しておきたいかのように。

あの明るさにはあっけにとられた。
偏屈なだけの頑固爺いだったら、ちょっとツラいだろう。
レミのキャラクターは実に愛すべき爺さんだ。

ジャンキーのナタリーが変わろうとしてゆくくだり、そして、「愛」をひどく求めながら実はおそれていたガエルが、真実の愛を知ってゆくさま。そのあたりが見事。

そしてもう1つの見所は、レミに監督が代弁させる、
痛烈な歴史認識と、神とはなんぞやという論点。
かなり聞きごたえがあります。

ところで、これは邦題の勝ちですね。
平仮名で、「みなさん、さようなら。」ですもん。
どことなく、コミカルな香りがするじゃありませんか。

原題の蛮族の侵入、は、ガン細胞のことだととってもいいだろうし、数字数字ばっかりで文明の利器に埋もれ、文化の香りを
愉しむことを知らない、二重の意味で異邦人の息子がやってきた、
ととってもいいだろうし、いやもう大変なお友達なので、
酒とセックスをこよなく愛するとても原始的欲望に忠実な
皆さんがどっとやってきた、と解釈してもいいだろうし・・・。




是非、多くの方々におすすめしたい作品である。


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