お茶の間 de 映画
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2004年10月26日(火) 「評決のとき」正義とは法の遵守だろうか。法は善人も悪人も等しく守るが白人と黒人は等しく守らないならば。

『評決のとき』【A TIME TO KILL 】1996年・米
監督: ジョエル・シューマカー 
原作: ジョン・グリシャム 
脚本: アキヴァ・ゴールズマン 
撮影: ピーター・メンジース・Jr 
編集: ウィリアム・スタインカンプ 
音楽: エリオット・ゴールデンサール 
 
俳優:マシュー・マコノヒー(弁護士、ジェイク・ブリガンス)
サンドラ・ブロック(法学生、エレン・ロアーク)
サミュエル・L・ジャクソン(被告、カール・リー・ヘイリー)
ケヴィン・スペイシー(検事、ルーファス・バックリー)
オリヴァー・プラット(ジェイクの親友、ハリー)
チャールズ・ダットン(保安官)
ブレンダ・フリッカー(ブリガンスの事務所の職員、エセル)
ドナルド・サザーランド(ブリガンスの師匠、ルシアン・ウィルバンクス)
キーファー・サザーランド(殺害された強姦魔の弟、フレディ)
パトリック・マクグーハン(判事)
アシュレイ・ジャッド(ブリガンスの妻)
クリス・クーパー(巻き添えをくった保安官、ルーニー)
ニッキー・カット(強姦魔の主犯格、ビリー・レイ)

ストーリー用ライン


アメリカ南部。黒人差別が根強く残るミシシッピー州の田舎町、カントン。
誘拐強姦暴行常習犯の白人青年2人が、黒人の村の食料品店を襲撃した後、まだ10歳の黒人少女を惨たらしく強姦し、トラックにのせ橋まで運び投げ捨てた。

犯人は酒場ですぐに逮捕された。トラックから少女の血まみれの靴も見つかり、言い逃れはできない。
大したお咎めにならない自信から、犯人はふてぶてしい態度だ。

少女は、半死半生で血まみれになっているのを川で発見された。腫れ上がった顔で、駆けつけた父親に抱きつく哀れな少女は、かろうじて一命をとりとめたが小さな子宮は破壊され、子供を産めない体になってしまった・・・。

まだ若く小さな町で大きな仕事もなく、弁護士1人、事務員1人の小さな弁護士事務所。
ブリガンス弁護士を訪ねて、被害者の少女の父親、カール・リー・ヘイリーがやってきた。
かつて、彼の兄の弁護を引き受けたことがあり、2人は旧知の仲なのだ。

カール・リーはブリガンスに告げた。
もしものときは助けてくれ、と。

うっすらと不吉な予感を察知しながらも、自分にも幼い娘がいるブリガンスには、カール・リーの怒りと苦悩は他人事ではなく、
保安官に通報する気になれなかった。
報復殺人などあり得ないと思っていたこともあるのだが・・・。

だが、予感は的中。
娘を犯し殺しかけた2人の白人が初公判のため留置所を出たところを、カール・リーは群衆の目の前でショットガンを乱射し殺害、自宅に逃げ帰った。
カールの幼なじみだった白人保安官のルーニーは巻き添えをくい、
片足を切断する重傷を負ってしまった・・・。


自宅で家族にしばしの別れを告げると、カール・リーは無抵抗で
逮捕された。
そして弁護士に、ブリガンスを指名したのだった。

カール・リーは無罪を主張。妻と4人の子供を食わせていくためにも、死刑も終身刑も絶対に避けたい。
一時的な心神喪失状態だったと主張するしかない。

カール・リーには殺意があった。
だがそれは裁判で何としても隠さねばならない。

黒人差別の根強く残る南部。
法律は白人のためのもの。
数年前、黒人女性が4人の白人に強姦されたが、無罪放免となった。今回も、無罪、運良く有罪にできても僅かな刑期ですぐにまた
出所し、同じ凶行を繰り返すだろう。
そして、白人を殺害した黒人は、裁判などあってもないようなもの、死刑が当然だ。

カール・リーにはどうしてもそれが許せなかったのだ。

地理的な不利をせめて解消しようと偏見の少ない地域での裁判を
求めるが、却下される。
陪審員の選定も、拒否権をフルに行使しても、黒人の陪審員を
検事サイドがすべて拒否してしまうので、全員白人だ・・・。

あとは、弁護人、検事双方の選んだ精神科医のあら探しに頼るほかないのだが、水面下で互いにほじくりかえすと、どちらの精神科医にも後ろ暗い点が・・・。

きつい闘い。
しかも、カール・リーに殺された強姦魔の家族が、過去の遺物と思われていた白人至上主義地下組織のKKK(クー・クラックス・クラン)ミシシッピー州部を発足させ、ブリガンスの妻子や事務員の家族を狙ったテロ行為を展開しはじめる・・・。

夫がカール・リーの計画を予想しながら阻止せず、あえて崇高な使命と売名のために危険な仕事を請け負ったのだと思った妻は、
家族の安全よりも仕事を選んだ夫に愛想をつかし、娘を連れて
実家へ帰ってしまう。

ブリガンスは、死刑制度に反対する人権擁護派の法学生で、高名な弁護士を父に持つエレン・ロアークに無報酬でこの歴史的な裁判を手伝わせてくれと懇願されるが・・・。

陪審員長は頑迷な白人の老人だ。威圧的なリーダーシップぶりに、
カール・リーに同情的な若者もひるんでしまっている・・・。

まるで勝ち目のないまま、裁判は判決の日を迎えようとしていた。

ブリガンスはすでに己に敗北していたのだ・・・。


評決の行方は。

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コメント用ライン


久々に考え込んでしまった映画だ。
扱っている問題の大きさゆえに、映画という媒体が社会に与える影響の大きさを考えると、「傑作です」と言い切れない複雑なものがベッタリと後味悪く胸の底に張り付く。

「ヒマラヤ杉に降る雪」をご存じだろうか。
あの裁判では、差別され不利な判決を言い渡されそうなのはジャップ、黒人よりもはるかにマイノリティだが敵国民、日本人だ。
だが、あの作品では、被告の日本人は完全にシロであり、冤罪。
評決を決定づけたのは、弁護人の感動的な最終弁論もあろうが、
明瞭な物的証拠がギリギリになってちゃんと浮上してくる。

「ハートで聞いてください。」
このセリフ、ヒマラヤ杉でも最終弁論で用いられていた。
こちらが後で、1999年の映画なので、「評決のとき」を
暗に皮肉っていたのか・・?とふと思う。リスペクトとは思えなかった。

「評決のとき」が見終わった後で胸苦しいのは、あまりにも
アメリカという国が抱える病理をまとめて扱いすぎて、
消化不良のまま胃もたれしてしまうからだ。

そもそも、強姦の上殺人未遂でも、被害者が黒人で加害者が白人なら法は法の番人にすらも無視され無罪放免や軽罪扱い、という前提が恐ろしい。

法を守らない連中が法を犯し、法を無視する弁護士、検事、判事、陪審員に裁かれたり裁かれなかったりするのだ。

だが、黒人が被告の場合は、法の遵守が叫ばれる。
ここがポイントなのだが、登場人物を増やしすぎ、ピントがぼけてしまっている。


ブリガンスの友人の離婚訴訟専門の弁護士と、ブリガンスの崇拝する師匠であるらしい(どう伝説の弁護士なのか説明されないし、裁判の有利な進行にまったく役立たない)アル中のルシアン。この2人はスター俳優だが、無意味な登場シーンが多すぎて間延びする。

魅惑的な女学生もハリウッドセレブをキャスティングしたが、
恋愛感情はうっとうしい。煮え切らないラブシーン未満は不要。
理想に燃える男子学生のほうが骨太なドラマになったかもしれない。
豪華キャストが裏目に出てしまうこともあるということだ。

だが、脇役のキーファー・サザーランド(親子出演はファンには嬉しいのだが)はいかにもアブなさげでいい。
悪役でこうでなくちゃいかん。

そして、さすがの演技力に敬服したのは、クリス・クーパー。
小さな役。セリフも出番も少ない。
だが、物語の進行上も、映画のテーマにも関わる重要な役だ。
ベッドで一筋の涙を流すルーニー。
胸を突かれる。

マシュー・マコノヒーはセリフとは裏腹の演技をしなければならず、相当に難しいやくどころであるにも関わらず、驚異的な演技を披露してくれた。

この映画、耳で聞いているだけでは真っ逆さまの結末にとれてしまう。マシューの演技に負っている部分が大きい。

サミュエルは、与えられた通りに正確に演じているはずだと
思うのだが、そもそもカール・リーという人物像に疑問を感じてしまうので、いまひとつ感情移入できなかった。

カール・リーは、黒人全体の地位向上のために世に一石を投じるために殺人を犯したのではない。
それは、途中の展開で明確にわかる。
あくまでも報復殺人であり、法が裁いてくれない悪人を処刑したのだ。
だが、死刑も終身刑も拒む。
それは家族を養うためだ。己可愛さ故ではない。
でありながら、ブリガンスには黒人差別について熱弁をふるう。

そこがこの物語をややこしくしているような気がするのだ。

現実っていうのは複雑でややこしいものだ。
カール・リーの複雑さは理解できるものだ。
だが、映画という2時間強の枠で何かを扱おうと思ったら、
どこかは削らないと。

また、ミッキーマウスの入れ墨の男の正体を、その存在がまるで
評決に関わってくるかのようにひた隠しにし、ミステリアスな
雰囲気を出そうとしたのはまったくの無駄。
意外な人物ならまだしも、単に制裁を恐れるがゆえに勧誘を断れなかったが実は善人というだけなら顔を意味ありげに隠してもしかたがない。


もう1つ、男が撮った映画にありがちなのだが、10歳の少女が
膣が裂け子宮が潰れるほどレイプされて、あんなに簡単に回復して笑顔を見せるはずがない。
「買い物袋を落としてごめんね」なんていえるはずもない。
ショックで精神的に壊れてしまったり口がきけなくなったりするのがふつうだろう。
強姦を甘くみているのは、映画制作に関わった白人の皆さんもじゃないんですか?と冷えた気持ちになった。


最終弁論、小細工を捨てた体当たりの訴えは評価したいが、
映画全体に小細工が多すぎるのには興ざめ。

結局、裁かれたのは陪審員の差別意識だったのだ。
ハートで裁く陪審員、ハートで動く法律。

それはラストだけではなく、この事件の以前も、黒人が被告だった
裁判は、白人陪審員はハートで有罪にしてきたってことだ。

何のための法律、誰のための正義。

一見、爽やかで明るいラストシーンだが、暗澹とした気持ちは晴れない。




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