2004年10月09日(土) |
「スリー・キングス」 湾岸戦争終結直後のイラクを舞台に、金塊に魅入られた4人の米兵をブラックユーモアで描く。 |
スリー・キングス【THREE KINGS(聖書の)三人の賢者)】1999年・米 監督・脚本:デヴィッド・O・ラッセル 撮影:ニュートン・トーマス・サイジェル 音楽:カーター・バーウェル 出演:ジョージ・クルーニー(特殊部隊をもうじき除隊、アーチー・ゲイツ少佐) マーク・ウォールバーグ(新米パパ、トロイ・バーロー上級曹長) アイス・キューブ(真面目なタフガイ、チーフ・エルジン二等軍曹) スパイク・ジョーンズ(トロイを崇拝するオツム弱いコンラッド上等兵) クリフ・カーティス(村民による反フセイン組織の頭、アミール) サイード・タグマウイ(イラク軍人、サイード大尉) ノーラ・ダン(うだつのあがらないジャーナリスト、エイドリアーナ) ミケルティ・ウィリアムソン(ホーン大佐)
1991年3月。湾岸戦争が終結、とりあえず停戦となったイラク、砂漠のド真ん中、米軍キャンプ。 もう米兵は乱痴気騒ぎ。 特に、戦争にも砂漠にも慣れない補充兵たちは、これで国に帰れると、勝ったことよりそっちが嬉しくてハヂけている。
さて、降伏したイラク兵の軍服を脱がせ持ち物をチェックしていると、複数の兵士の肛門から、なにやら臭い地図らしき紙の端切れが出てきた。 見つけたのはトロイとコンラッド。 真面目なチーフに見つかり3人でコソコソつなぎ合わせた地図を 見ていると、特殊部隊のキレ者、ゲイツが嗅ぎつけた。
ゲイツが赤外線で照らすと、地図はケツの穴に隠すほど価値のある モンだとわかった。 これは、フセインの隠し財宝の地図だ!! イラクがクウェートから奪った金塊の在処を示している。 間違いないっ。
ゲイツは数々の紛争で活躍したベテラン兵士だが、もうじき除隊予定だ。だが、国に帰ったところで、何かしたいことがあるでもない。この金はそんなゲイツにはたまらなく魅力的だった。
地図によれば、その洞窟はキャンプからさして遠くない。 無断外出は無論、軍紀違反だが、この距離なら往復して数時間ってとこだ。イケる!
かくしてゲイツ、チーフ、トロイ、コンラッドの4人は洞窟目指して出発した。 ところが、村につくと雰囲気が妙。 この村は、反フセイン派の組織のアジトだったのだ。 “アメリカ万歳!”と叫ぶ村人たちに困惑しながらも、 秘密基地の奥深くに入り、金品財宝、そして大量の金塊を発見する4人。
大量の丈夫なヴィトンのバッグに金塊を詰めこみ、村人の手を借りトラックに詰め込んだ彼ら。
だが、トラックの周囲の状況は緊迫していた。 イラク国民軍が反乱組織のリーダー、アミールを捕らえ処刑しようとしていたのだ。
村人が必死で4人の米兵に助けを乞う。 だが、休戦協定でイラク兵と戦うのは禁じられている。 だいいち、多勢に無勢、金も積んだし、トンずらこくのが正解に 決まってる。
だが、躊躇している4人の前で、アミールの妻が射殺された・・・。変わり果てた姿の母親にすがり泣き喚く幼い娘。
最も冷静なチーフは反対したが、もう耐えられなかった。 かくしてイラク軍と一戦交えてしまった4人。
だがこの小競り合いが、4人を後戻りのできない事態へと導くことになろうとは・・・・まぁ予測はついていただろうが(特に最も冷静なチーフには)。
銃を訓練以外で撃ったことのないコンラッド、トロイら“基地の外の現実”を知らない、百戦錬磨でない、普通の兵士たちはその目で何を見、その耳で何を聞くのか・・・・・・・。
金塊は誰の手に。 そして4人の運命や如何に。
アメリカの政策を皮肉った映画は近年イッパイあるのだが、 実際にはそう簡単にゴーサインが出るわけではない。 ツブれる企画も多いってことだ。 映画の中の言論の自由は、多くの映画人の、脅しに屈さない闘いで ギリギリ守られているのだということを、改めて認識したい。
ジョージ・クルーニーが、他のすべての仕事を蹴って、本作にどうしても出たいと監督にすがりついたそうだが、この映画を観ていると、出演者たちの心意気を感じるのだ。
ブラック・コメディーの形式を取ったのは正解だろう。 戦争映画でブラック・コメディーといえば、「M★A★S★H」(朝鮮戦争もの、腹黒ロバート・アルトマン監督のケッサク)が あるが、あそこまで笑い先行ではない。
この作品の主眼は3つだ。 1つは、反フセイン派に武器、物資、情報をどっさりと提供したアメリカ(ブッシュ政策)が、勝利したら彼らを微塵も省みず見捨てたという事実の強調。戦争は当然、無情なものだが、石油が手に入れば、中東の村人なんぞどうぞ国内で殺し合ってください、あ、武器は返さなくていいよw という態度。
2つ目は、人間が究極の選択を、極限化でどう下すかというところ。 最初は金、金と目が$マークだったヤツが、次第に正義(人の倫)に目覚めてゆくというのはお決まりかもしれないが、かなり、説得力があったんじゃないだろうか。 ・・・特に、犠牲が発生してしまってからは。
3つ目は、銃の撃ち方は訓練で知っていても、戦争を知らない兵士の割合をシビアに描いていること。 楽勝な戦争だっただけに、精鋭兵ばかりではなかった湾岸戦争。 ベトナム戦争(初期)の頃のように、国のために頑張るぞ、とやってきた兵ばかりではない。 コンラッドがいい見本だが、軍にでも入らないと食えない、無職& 無知(大統領の政策は愚か、基地の電話番号も覚えられない)な兵もゴロゴロいたわけだ。 「戦争」の質が変わり出した境目の戦争だった。湾岸戦争は。
湾岸戦争を、反乱軍のリーダー1人と、イラク国民軍の大尉1人に 代表して語らせたのもよかった。 この物語はあくまでも、「湾岸戦争というシチュエーションを借りた、金塊か人道かの選択に迫られる男たちのサバイバル物語」だ。 だから通常の「戦争を時間軸に沿って描いた戦争映画」とは違う。
映画で語られる言葉は、組織の代表者としての言葉ではなく、 そこになぜ属し活動する決意を固め闘っているかと語った、それぞれの男たちの言葉だ。
捕虜になったトロイがサイード大尉を撃てなかったのは何故か。 サイードはあの時、大尉でなく、すべてを失った父親サイードだったからだ。
この映画に出てくる人物は、みな何かしら「肩書き」を持っているのだが、彼らは肩書きでは喋らない。米兵の4人もだ。 そこが魅力的だった。
コミカルなシーンもたくさんあるのだが、一番笑ってしまった ブラックユーモアは、イマイチうだつのあがらない女ジャーナリストがあちこち取材をしているわけだが、湾岸戦争のイチバンの被害者が、石油でベトベトになって瀕死の鳥だと、同情して泣き出してしまうシーン。
確かに、湾岸戦争はメディア戦争でもあった。 頭を撃ち抜かれる反フセイン派の村の女性は映らなくても、 しつっこく油まみれの鳥は映ってたっけね。 環境破壊ももちろん重大な罪で、その後何十年も劣化ウランに苦しむ人々がいるのだから、決して些末なことじゃない。
だが、TVは目で見るものだ。 耳で聞いたり、目で読んだりするアメリカの大罪にはピンとこないが、トリだともらい泣きしてしまう、このバカバカしさに笑わずにはいられない。 毎日フライドチキン食ってるくせにさw
俳優陣は1人1人、実によかった。 有名どころはこの際置いおいて、「マルコヴィッチの穴」の 監督で知られるスパイク・ジョーンズの演技には脱力しっぱなし。 彼がいなかったら、どよ〜〜〜〜んとかなり雰囲気の違う作品になってしまったはずだ。 どっから声出してんだ?彼は。オイシイ役をもらったものだ。
砂漠の乾きを表現したカメラワーク、音楽ともに相性よし。 ビジュアル的にもスマートだった。
ところで、ビデオやDVDパッケージでは、3人の王(三賢者のこと)がゲイツ、トロイ、チーフの3人であるかのようにどどーんと3人で映っているが、そうかぁ??
まぁ、スパイク・ジョーンズは俳優としてはスターではないので 豪華な3人と並ぶと絵にならないってのはあるがな。
タイトルは、冒頭、地図を見ながら賛美歌の替え歌で、 「三賢者が黄金を捧げ」のところを「黄金を盗み」に替えて フザけているところから。 3人+リーダーで4人だ。
三賢者が探していたのはキリスト。 ゲイツがいなかったら、三賢者は黄金を見つけ、“キリスト”を見過ごしたかもしれない。 ・・・自分たちの中にいる、救いの御子を。
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