2004年10月04日(月) |
「モンテ・クリスト伯」 デュマ生誕200年記念作品。ガイ・ピアースの人間のクズっぷり、ジム・カヴィーゼルの意志の強い瞳。 |
モンテ・クリスト伯【THE COUNT OF MONTE CRISTO】2002年・イギリス=アイルランド 監督:ケヴィン・レイノルズ 原作:アレクサンドル・デュマ『厳窟王』 脚本:ジェイ・ウォルパート 撮影:アンドリュー・ダン 編集:スティーヴン・セメル/クリストファー・ウォマック 音楽:エド・シェアマー
出演:ジム・カヴィーゼル(航海士エドモン・ダンテス/モンテ・クリスト伯爵) ガイ・ピアース(フェルナン・モンデーゴ伯爵) ダグマーラ・ドミンスク(メルセデス) リチャード・ハリス(ファリア司祭) ルイス・ガスマン(ヤコポ) ジェームズ・フレイン(検事代理、ヴィルフォール) アレックス・ノートン(ナポレオン) ヘンリー・カヴィル(メルセデスの息子、アルバート) マイケル・ウィンコット(イフ城の典獄、ドルレアク) アルビー・ウッディングトン(商船会社の会計士、ダングラール)
1814年、ナポレオンが幽閉されているエルバ島。 商船の航海士、エドモン・ダンテスは、船長の急病のため、会計士ダングラールの反対を押し切り、幼なじみで荷主代理のフェルナンと2人、ナポレオンの救出者と考え問答無用で襲ってくる英国軍の射撃をかいくぐり、本船を離れ小舟で上陸する。
ナポレオンの主治医を借り、手当をするが船長は亡くなった。 一晩島に停泊した2人だが、酒飲みで目の淀んだフェルナンと、 誠実そうなエドモンを見比べたナポレオンは、誰にも言うなと口止めし、ただの旧友への私信だ、と手紙をエドモンに預ける。
当然、断りたいエドモンだが、医者を貸しただろう、とナポレオンに迫られ、恩を仇で返せぬとためらいながらも受け取ってしまう・・・。
それをフェルナンが覗き見しているとも気づかずに・・・・・。
故郷マルセイユに無事到着すると、エドモンは船長を思っての勇敢な行為を評価され、船長に昇格する。 そして、美しく愛情深い婚約者、漁師の娘メルセデスとも結婚が決まる。
面白くないのはフェルナンだ。 読み書きもできない平民のエドモンが、出世も愛も手に入れたことが妬ましくてならないのだ。
フェルナンは検事代理のヴィルフォールに密告、「ナポレオンから手紙を受け取ったという謀反行為」を咎められ、エドモンは逮捕されてしまう。
手紙を開封しておらず誰にも渡していなかったこと、読み書きのできない平民だということもあり、一度は無罪放免になりかけた エドモンだったが、誰に渡すようナポレオンに言いつかったかを 聞かれ正直に答えると、みるみるヴィルフォールの顔色がかわり、エドモンは政治犯専用の、孤島にそそり立つ刑務所、イフ城に投獄されてしまった! 手紙を渡す相手の素性も顔も知らないし口の軽い男ではないというのに、ああ、哀れ善良なるエドモン。
ナポレオンの手紙は、脱出計画だった。 そして宛先は、あろうことかヴィルフォールの父親だったのだ。 身内に謀反人がいれば、出世の妨げになる。ヘタをしたら一族の存亡に関わる。 手紙の宛名を知るのはエドモン1人。投獄の理由はそんな醜い保身欲ゆえだった・・・。
そして幼なじみを醜い嫉妬心から売ったフェルナンは、エドモンは死亡したとメルセデスに思いこませ、絶望に沈む彼女を自分のものにしてしまうのだった・・・。
古城、イフ城。 そこは死ぬまで出られることのない牢獄。 投獄の理由など、看守も典獄も興味はない。 典獄は年に一度、入獄記念日にむち打ちをすることだけが生き甲斐のサディスト。看守は顔も観ず、扉の下から食事と糞尿の器の出し入れをするだけ。 空も見えない・・・・・。
エドモンはそれでも、石の壁に神への祈りを彫り、耐え続けたが、 何年も経つうちに、神への信仰も消え失せた・・・。
そんなある日、突然床からヨボヨボの老人がボコリと出現する。 11年、脱走用のトンネルを掘って掘り続けたかつて司祭だった男、ファリアだった。 間違ってエドモンの牢に出てしまったわけだが、こうして知り合った2人は、協力してトンネルを掘り進むこととなる。 あと11年も掘れば出られるだろうと気の遠くなるようなことを 言う司祭だが、手伝えばもっと早く済むし、かわりに学問を授けてやろう、というのだ。
やがて親しくなる2人。飲み込みのよいエドモンは乾いた砂のように読み書きどころか難解な学問も身につけ、もともと優秀な兵士だった司祭に、やがて木の板で剣術の稽古もつけてもらうのだった。
復讐の炎に支配されているエドモンに、司祭は、「復讐するは我にあり」(罰は神が与えてくださる)と神の言葉を教えるが、 苦渋の日々に神を忘れたエドモンに、その言葉は届かない・・・。
ある日、トンネルが潰れ司祭が瀕死の重傷を! 司祭はいまわの際に、伝説だといわれていた財宝の在処の地図を エドモンに託し、善いことに使え、と言い残し息をひきとるのだった。
エドモンは悲しみながらも、司祭の死を利用しイチかバチかの賭けに出、脱獄に成功する。
泳いで泳いでイタリア沖に流れ着いたエドモン。 ・・・・自由! だが、目の前には強面揃いの密輸船の一団が!! 勇気と智恵で危機を乗り切ったエドモンは、“ザターラ”という 名をもらい、船長のお気に入り航海士となるのだった。
やがて、故郷マルセイユの船着き場が見えた。 船長に暇をもらうと、エドモンは忠実な僕となっていたヤコポを連れ、13年ぶりにこの地を踏みしめるのだった・・・・。
そして、復讐のターゲットである、自分を陥れたヴィルフォール、フェルナン、ダングラール、そして、自分の失踪後たったの1ヶ月であっさりと嫁いだメルセデスの4人がパリにいることを知る。
エドモンはまず、司祭の“遺産”を探し当て、その膨大な金でパリに城を買い、外国の貴族、“モンテ・クリスト伯”と名乗り、 盛大なパーティを催し、パリの社交界にその名を知らしめるのだった。
復讐の幕が、今上がる・・・・・・・。 ひとおもいに殺すだけでは足りぬ、同じ苦しみを味わわせてやると。大切なものすべてを奪われる苦しみを。
そんな今や憎悪の塊と化したモンテ・クリスト伯となったエドモンを、忠実なヤコポは心配しながらも、着々と準備は進んでゆくのだった・・・。
まずはフェルナンとメルセデスの1人息子、アルバートに目をつけたモンテ・クリスト伯は・・・・・・・。
いつもの如く、原作と映画の比較はしない主義なので、結末が 原作とは違うようだが気にしない。
メル・ギブソンは『パッション』で誰をイエス役にするかを、 この映画でのジム・カヴィーゼルの目を見て決めたという。 私は『シン・レッド・ライン』でのウィット役だった彼がとても印象的だった。 実際、それまで脇役ばかりだった彼はあの映画で見いだされ、 その後順調に主役級だ。 『オーロラの彼方へ』でもいい演技だった。
この映画は、キャスティングの勝利だと思う。 絶望と苦悩と憎悪と泥にまみれてなお、瞳の奥底に潜む善の光。 復讐の鬼を演じるのは難しくないが、そういう自分と闘いつつ 復讐を果たす苦悩と冷徹さと、押し殺した愛情と気品を同時に表現できる役者はそうそういないだろう。
そうなると仇役は観客の憎悪をかきたてる演技をせねばならない。 宿敵フェルナンを演じたガイ・ピアースは、もう天晴れ。 人間のクズの要素がすべて備わったサイテー野郎っぷりを、 これでもかと披露してくれ、映画を盛り上げる。 ガイが悪役を演じたのは、これが初めてじゃないか? ドロボーなどのカワイイ小悪党ではなくて、仇役という意味では。
酒、女、金すべてに汚く、親の七光りだけで威張り散らす乱暴な 男、フェルナン。人の持っているものが欲しいだけで、一度モノにしたら次々に棄てるという鬼畜っぷりだ。 ジム・カヴィーゼルの老け具合(というか貫禄のつきっぷり)に対して、ガイ・ピアースのほうはさしてヘア・メークに変化がないのが少し気になったが、フェルナンはぬくぬくと欲まみれの生活をしていたわけで、13年で老け込んだり貫禄がつくはずもないので、いつまでも子供のようでいいのだろう。
そして、この映画のイチオシ脇役は、大好きなルイス・ガスマン! あっちこっちにちょこっと出ては強烈な印象を残す彼だが、 本作ではセリフは少なくとも、後半からずっと、命の恩人である エドモンによりそい守ろうとする、真摯で忠実でちょっと海の男の粗野さが残るヤコポを見事に演じている。
復讐に自分を走らせようと自分の心をムチ打ち苦しむエドモンに、 「俺はあんたを守る。あんた自身からも守る。」 というシーンには胸を打たれた。これぞ忠義! 主人の、言葉に出さない真の望みを推し量り叶えようと奔走する ヤコポを、でしゃばらずに存在感で表現できるのは、ガスマンならではじゃないだろうか。
そして、俳優を語るなら、冥福を祈りつつ、名優リチャード・ハリスを語らずしてこの映画は紹介できない。 若い世代でも、ハリポタシリーズでご存じだろう。
石の牢獄の床がボコボコっと盛り上がって禿頭が見えたときには、 ああ、ついに幻覚が見えるまでにエドモンは狂ってしまったのか、とつい思ってしまった、あの強烈な登場シーン。
エドモンよりもずっと長い間、獄中の人である司祭。 それでも、飄々と、過去を恨まず前を見る。 神もホトケもあるか!と自暴自棄なエドモンに、 “空を再び見られたのを神に感謝せにゃ”と心から語る敬虔さ。 司祭らしい敬虔さと、かつて軍人だった逞しさの同居する不思議な 老人を、さすがとしかいいようのない品格で演じきる。
冒険、裏切り、冤罪、獄中生活、脱獄、ロマンス、悲恋、忠義、 男の約束、復讐、苦悩、罠、明かされる真実。 もう、てんこもり。 この手の壮大な歴史を舞台に繰り広げられる男の世界が好きな方には是非、オススメの作品だ。 ハリウッド映画とは違う、英国系の押さえた演出も好印象。 『ブレイブ・ハート』を撮ったメル・ギブソンがこの作品に目を つけたのも頷ける。
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