2004年09月26日(日) |
「妹の恋人」 ジョニー・デップの愛くるしさが活きた、実に良心的なファンタスティックでハートフルなロマンティックドラマ。 |
妹の恋人【BENNY & JOON】1993年・米 監督:ジェレマイア・チェチック 原作:バリー・バーマン/レスリー・マックネイル 脚本:バリー・バーマン 撮影:ジョン・シュワルツマン 音楽:レイチェル・ポートマン 主題歌:プロクレイマーズ“I'm Gonna Walk (500Miles)” 出演:ジョニー・デップ(ベニーの友人の従弟、サム) メアリー・スチュアート・マスターソン(ベニーの妹、ジューン) エイダン・クイン(ジューンの兄、ベニー) ジュリアン・ムーア(ウェイトレス、ルーシー) オリヴァー・プラット(ベニーの友人、エリック) ダン・ヘダヤ(ベニーの友人、トーマス) C・C・H・パウンダー(ジューンの主治医) ウィリアム・H・メイシー(プロモーター、ランディ)
静かな片田舎の町。 自動車修理工のベニーは、精神に障害がある年の離れた妹ジューンと2人暮らしだ。 ジューンは絵を描くのが趣味で、ほとんどの時間をアトリエに籠もって過ごすが、癇癪を起こすと奇声をあげて暴れ、火をつけることも・・・。手がつけられない。 1人で外へ出て町で騒ぎをおこし警察に保護されることもしばしば・・・。 精神科の主治医の斡旋で、多少なりともそういった患者の世話には 慣れている家政婦たちを雇っていたが、皆、ジューンには匙を投げて出ていってしまう。
主治医は、兄ベニーに、自宅での介護はもう限界だろう、施設に 入れて職業訓練を受けさせるべきだと強く薦めるが、事故で両親を 亡くして10年以上、妹の世話を1人でみてきた彼には、妹を厄介払いするようなことはとてもできず、踏み切れないでいた。
ベニーの同僚たちも、仕事と妹の世話で手一杯で、デートをする余裕もない彼を心配している。 料理も掃除もできず、寝かしつけねば眠れない妹を置いて夜、外出するわけにはゆかない・・・。 ベニーも悩んではいた。 このまま、一生、仕事と妹の世話に明け暮れ、結婚もせず老いてゆくのか・・・。妹への深い愛情とのジレンマに苦しむベニーだった。
そんなある日。 いつものように、妹を連れて色気なく野郎ばかりでポーカーに興じていると、ベニーが席を外しているスキに、ジューンがポーカーに参加し、とんでもないモノを賭けた勝負で負けてしまう。
勝負は勝負。ポーカー仲間のマイクの従弟、サム青年を引き取ることになってしまった。
このサムという青年、故郷を離れ従兄のマイクの家に転がり込んできたのだが、20代だというのに字の読み書きができず、無職だ。 バスター・キートンのコスプレをした、クラシック映画おたく青年で、チャップリンやキートンの真似が得意な不思議な青年・・。
ベニーはアタマを抱えてしまう。 家に明らかに世間の“標準”からズレたのが2人!
ところが、サムは掃除上手、料理も方法はヘンテコだが上手。 ジューンに癇癪も起こさせない。 サムは、ジューンが病気とは思えない、ごく普通だと言う。 ジューンも、陽気で自分を病人扱いしないサムに好意を抱くのだった。 勉強は得意で知能は高いが生活技術に欠けるジューンと、 読み書き計算はしどろもどろだが、生活技術には長けている器用なサムは、互いを助け合い、次第に惹かれてゆく・・・・。
家の中が少し落ち着いて、ベニーの表情も明るくなってきた。 行きつけのダイナーのウェイトレス、ルーシーとの間に淡い恋が 芽生えるが、やはり、妹のことを考えると、踏み込んだつきあいが できない・・・・。 そんなベニーに、ルーシーは苛立ちを隠せない・・・。
落ち込むベニーを元気づけようと、公園でキートンの真似をして 笑わせるサム。 あっというまにサムのまわりは黒山の人だかりに。
ベニーは、プロモーターに売り込んでサムを芸人としてデビューさせようと考える。読み書きができないサムにとっても、身をたてるチャンスだと考えたのだ。
だが、その頃にはすでにジューンと深く結ばれていたサムは、 この町で職を見つけて働こうと思っていた。
サムとジューンが男と女の仲になっていると知ったベニーはブチ切れ、サムを叩きだしてしまう・・・!!
それでも、若い2人の情熱は止めることはできなかった。 だが、あまりの動揺と不安ゆえに、ジューンの持病が急激に悪化し・・・・・。
このあぶなっかしい若いカップルの恋の行方は? 行き詰まった兄とルーシーの恋の行方は? そして、この兄妹の間の深い溝は埋まるのだろうか。 皆で笑える日は来るのだろうか・・・・・。
悪人が誰も出てこない、実に善意に満ちたハートフルな物語だ。 この兄妹はアイリッシュ系(2人で歌う歌でわかる)。 民族的にも、もの凄く家族の絆を重んじる。 原題も、“ベニーとジューン”。あくまでも主眼は兄妹の絆だ。
エイダン・クインはつい最近も、『夏休みのレモネード』で、家族を愛するがゆえに頑なで分からず屋になってしまう、アイリッシュの頑固親父を見事に演じていたが、まだ若かった本作では、頑固兄貴。ハマり役だ。
守っているつもりが、成長を妨げていることに気づかない。 気づく余裕がないほどに必死なのだ。 そして、1人の恋する男としての苦悩までそこにかぶさってくる。 どれほど辛かろう、とジレンマに苦しむ兄ベニーに共感してしまった。
ジョニー・デップの演技力は、コミカルなシーンはモチロンだが、圧倒的に凄いのは、ベニーとの対決シーン。 “あんたは怖いんだ” 愛を奪われないために、1人の男としてサムも対峙する。
知的障害者同士の恋を扱った『カーラの結婚宣言』 のときに感じた不安感が、この映画にはない。
全体的になるべくおとぎ話風にファンタジーテイストで撮りあげているからでもあるが(DVDの撮影監督の逸話が面白い)、 先天的な障害ではなく、ジューンはサムたちの支えと、束縛からの解放によって快方に向かうと予想できるからかもしれない。 サムも、守るべき存在のために、いつまでも夢見がちではいられないと、仕事を見つける。たとえアルバイトでも、天職だ。
ピンクの薔薇、白い薔薇。 なんとも微笑ましい、ハッピーなラストシーン。
これは妹だけれど、「保護者」の立場のベニーの視点で私は観ていたので、子育て中の親である自分にとって、傷つかないよう、他人に迷惑をかけないよう、ひたすら手綱を握りしめることが、自立の妨げになるほどになってしまっては子供をダメにしてしまうのだと、ドキっとさせられるところもあった。
傍にいて、いつでも困ったときは手を差し伸べるよ、見守っているよ、だから自分の力をためしてごらん。 少しだけ開けられたドアの隙間にそっと置かれたピンクの薔薇が、 そう優しく語っているかのよう。 不器用な兄貴のかわりに・・・・。
それにしても、ジョニー・デップの芸達者ぶりにはもう脱帽。 あんな可愛いお目々でひざまづいて
まみぃ〜❤ฺ
なんて言われた日にゃあ(笑
これほど初々しい、こっちがドキドキしてしまうような可愛らしいファーストキスも珍しく、とても甘酸っぱい幸福感に浸れた。
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