お茶の間 de 映画
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2004年09月24日(金) 「シービスケット」 どん底から這い上がった3人の男が出逢い一頭の小さな競走馬に夢を託す。熱い涙を誘う感動の実話。

シービスケット【SEABISCUIT】2003年・米
監督:ゲイリー・ロス 
原作:ローラ・ヒレンブランド 『シービスケット あるアメリカ競走馬の伝説』
脚本:ゲイリー・ロス
撮影:ジョン・シュワルツマン 
編集:ウィリアム・ゴールデンバーグ 
音楽:ランディ・ニューマン

俳優:トビー・マグワイア(ジョッキー、ジョニー・“レッド”・ポラード)
  ジェフ・ブリッジス(シービスケットのオーナー、チャールズ・ハワード)
  クリス・クーパー(調教師、トム・スミス)
  エリザベス・バンクス(ハワードの後妻、マーセラ)
  ウィリアム・H・メイシー(ラジオDJ、ティック・トック・マクグローリン)
  ゲイリー・スティーヴンス(ジョッキー、ジョージ・“アイスマン”・ウルフ)
  デヴィッド・マックロー(ナレーション)

ストーリー用ライン


1929年、アメリカ大恐慌時代。

16才のジョニー・ポラード少年は、株で財を築き上げた富豪の両親と可愛らしい弟や妹たちに囲まれ幸福な日々を送っていたが、
株価の暴落により無一文になった両親は、口減らしのため、
そして息子には乗馬に特別の才能があると見込んでいたこともあり、胸の潰れる思いで草競馬場のオーナーに預けた。

ジョニーが父から渡された財産は、袋詰めの本だけ。
豊かな食卓で、毎夜、父が詩を朗読する日々は、もう思い出の彼方・・・。

雇い主に、その赤髪から“レッド”と名付けられた少年は、厩の掃除から馬の世話、そしてジョッキーと馬車馬のように働いたが、
馬を優勝させることができず安い賃金で辛く当たられる日々。

レッドは生き抜くために、賭けボクシングにも出場し、心身ともにボロボロだったが、負けず嫌いの勝ち気で荒っぽい気性と、タフな
肉体を持ち合わせた青年に育っていくのだった。

        ・・・・・・・・・・・・

西部で車の修理工から身を興したハワードは、巧みなセールス・トークと研究熱心さで次々と新車を開発し、車は売れに売れ、大富豪にのし上がった。
車の普及によって移動手段としての馬の時代は終わった。
高級車の車庫にと、厩を買ったハワード。

だが大恐慌時代に突入、車は値崩れ。破産こそ免れたものの、
相当の痛手を被った。無気力な日々に追い打ちをかけたのは、
一粒種だった愛息子の事故死。妻も家を出ていった・・・。
車で財をなし、車で愛を失った・・・・。

友人らに気晴らしをしろと誘われた競馬場で、馬をこよなく愛する
才色兼備のレディ、マーセラと出逢い、ハワードは再婚する。

競争馬を買いに来たハワード夫妻は、そこで2人の男と一頭の馬と運命的な出逢いを果たすのだ。

どんな暴れ馬でも落ち着かせることができ、怪我をした馬も決して見捨てない調教師、トム・スミス。
彼もまた、時代に夢破れた男の1人だった。
車時代の到来により、カウボーイは時代に取り残され、職を失い
馬と野宿の日々・・・。

ハワード夫妻は、馬を道具として見ない、智恵と慈愛に満ちたこの初老の男を専属の調教師として雇うのだった。

背が150ちょっとしかない小さな馬が大暴れしている。
名はシービスケット。
スミスは、夫妻にこの荒馬を薦めるのだった。気性の荒さは競走馬に向いていると確信したからだった。
スミスを信頼し、シービスケットを買う夫妻。

そして、レッドがシービスケット専属のジョッキーとして夫妻に
雇われることになった。
喧嘩っ早く気性の荒いレッドはシービスケットと相性がよいと
ふんだからだ。予想は当たった。

夫妻は封印していた厩を開け、車を売り払い、馬たちを入れた。
家に、生気が甦ってくるようだった・・・。

どうにも落ち着かなくてスミスでさえ手を焼くシービスケットだったが、スミスの愛馬、白い雌馬パンプキンがシービスケットを
孤独と荒んだ日々から救ったのだった。

こうして、ハワード夫妻はスミスとレッドとともに、シービスケットを競走馬として育ててゆくことに・・・。

だが、小さなシービスケットに体格のよいジョッキー。
レッドは食事もろくにとらず減量に努める。
だが勝負の世界は厳しい。
レッドの負けん気がマイナスに働いてしまうことも・・・。

1つ、1つ、勝利を手中にし、西部では名の知れた競走馬となる
シービスケット。
ハワードは内馬場も貧乏な競馬愛好家たちに開放した。貧しい人々にとっても、小さな体でガッツ溢れる走りを魅せるシービスケットは大人気。

すっかり気をよくしたハワードは、調教する時間もとれないほど
シービスケットを披露するために連れ回す。

スミスはご機嫌ナナメだ。
まだまだ、シービスケットは伸びるのに。
全米No1だって狙えるはずだ。

ハワード夫妻もレッドも“全米No1”への挑戦に心躍らせるのだが、相手は180cmを越す威風堂々たる黒馬。オーナーは東部一の大富豪で気位も高く、そう簡単には勝負を受けてくれそうもない・・・。

シービスケットは、男たちのアメリカン・ドリームを乗せ、駆け続けるが、予想だにしていなかったアクシデントが次々に・・・!!


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コメント用ライン


ここ数年、これほど上品で上質なアメリカ映画があっただろうか。
実話とはいえども、当然エピソードは脚本家や演出家の手腕で
作られるもの。
真正面から、人間の心の強さと脆さを捉え、躓いても起きあがれ、
前に進め、と訴えかけてくる。

これが作り話だったらあまりにも説教臭すぎてたまらないだろうが、実話だというベースがあるため、説得力がある。
そして、この物語には“偶然”も“奇跡”もない。
幸運はあるだろう。ツキではなく、幸運だ。
努力なくして幸運などない。
諦めない。努力に努力を重ねる。その岩をも通す一念に泣かされるのだ。


どん底からでも無一文からでも、実力と鬼の一念で這い上がれる可能性を秘めた国、アメリカ。
アメリカン・ドリームの終焉を描いた映画が賛美された時代があった。
だが、今の、衣食住足りて心の病にかかり何をしてよいかわからない人々に必要なのは、不可能を可能にする精神力を信じる力だ。
映画は社会を映す鏡。
大きな喪失や飢えは知らぬが虚しさを知る現代人に、大恐慌から
這い上がった当時の人々の気合いを見せようとするこの作品、
おおいに評価したい。

そして、俳優陣がお見事。
トビー・マグワイヤは自ら製作総指揮に関わっているだけあり、
アツい。
レッドの育ちのよさと、過酷な青春時代で荒れた部分のバランスを
よく表現しており、素晴らしい。
「脚より先に心が潰れる」
このセリフには泣かされた。

そしてクリス・クーパー。
さすがというか何というか・・・・。この人もカメレオン俳優。
アダプテーションのラロシュ役とは似ても似つかない別人じゃないか。
頑固で無口だが情にあつ〜〜〜〜い西部のカウボーイ、いぶし銀の
魅力だ。

そしてジェフ・ブリッジス。
嫌味のない成り上がり富豪を演じるのはけっこう難しいものだ。
成り上がった過程をきちんと描いていることと、自慢話の口調に
嫌らしさがなく、無邪気なのが成功の鍵だろう。
紳士で、同時に少年のように無邪気。かいま見える胸の奥の消えない悲しみ。
レッドを息子のように思うハワードの複雑な胸中をベテランの演技力で的確に表現。
作品中に2人(レッドとスミス)もクセのある人物を抱えても、
作品が落ち着きを失わないのは、ジェフ・ブリッジスと妻役のエリザベス・バンクスの品の良さのおかげかもしれない。

そして、差し色にイロモノ俳優、メイシーちゃん。
緊張感でピリピリした展開のところどころで、笑わせてくれる。

DVDだと特典映像で撮影風景も観られる。
馬のロボットには大笑い。
シービスケットは栗毛なので、10頭以上の似た馬で交替に演技が
できたのだろう。

私もかつて乗馬をしていたので、馬は大好きだ。
競馬には興味はないが・・・。
賢く美しく気高い生き物だ。

馬をメインに据えると、作品に品が出る。
『すべての美しい馬』も、馬の美しさに改めて見惚れた方には是非おすすめしたい。


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