お茶の間 de 映画
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2004年09月15日(水) 「クジラの島の少女」 女児ゆえに族長を継ぐことを許されない少女、祖父としてより族長でなければならない老人、それぞれの苦悩、愛。

クジラの島の少女【WHALE RIDER】2002年・ニュージーランド=ドイツ
★2003年サンダンス映画祭 観客賞
監督・脚本:ニキ・カーロ 
原作:ウィティ・イヒマエラ
撮影:レオン・ナービー 
編集:デヴィッド・コウルソン
音楽:リサ・ジェラード 

俳優:ケイシャ・キャッスル=ヒューズ(族長の孫娘、パイケア)
  ラウィリ・パラテーン(族長)
  ヴィッキー・ホートン(パイの祖母)
  クリフ・カーティス(パイの父、ポロランギ)

ストーリー用ライン


ニュージーランドの浜辺、マオリ族の小さな村。
祖先の勇者パイケアがクジラに導かれここに辿り着いたという伝説を持つ村だ。

村は文明化に押され、過疎化を辿る一方。族長は後継者を待ち望んでいた。予言者としての素質で村を導く勇敢な若者を・・・。

本来ならその役目に当たる長男ポロランギは、武術の面でもリーダーシップの面でも、父の眼鏡にかなわなかった。そんな父に反抗してか、ポロランギは彫刻家の道を選んだ。

次男ラウィリは、伝統武芸の達人だが、次男であるということは後継者にはなり得ない。

そして、今、待ちに待った後継者が誕生しようとしていた。
長男の長男ならば、族長後継者に決定だ。

ところが、難産の末に、双子の男児と母親は亡くなってしまった。
生き残ったのは、女児のみ・・・。

愛する妻と我が子の1人を失った悲しみに暮れる長男に、族長は
次がある、と心ない言葉を投げる。

歓迎されなかった小さな命に、父親は族長の激怒を無視し、先祖の
名前、「パイケア」と名付け、後継者を祝うために掘っていたカヌーもそのままに、島を去った・・・・。

それでも、両親のいないパイケアを深い愛で包んでくれる祖母と、
不器用ながらも愛してくれる祖父に護られ、パイケアはすくすくと育っていった。

12才になったパイケアは、その美しさ、賢さ、伝統を敬う心、身体能力、どれをとっても村のすべての長男たちに負けないものがあった。

だが、女であるがゆえに、それらは何の役にも立たなかった。
パイケアもそれが悔しくてたまらないし、祖父は、パイが優秀であればあるほど、苛立ちパイに辛く当たってしまうのだった・・・。

久しぶりに外国から父が帰国した。今はドイツで彫刻家として
そこそこ成功しているようだ。
村の独身女性をあてがおうとする祖父。だが父は、ドイツにすでに妻がおり妊娠中だとうち明け、再び島を去った・・・。

祖父はついに、先祖パイケアから途切れることなく続いてきた血の繋がった後継者は諦め、村中の長男(皆パイケアと同じ10代前半の少年ばかり)を10人ほど集めて族長の資質を学ばせ、その中から1人を選ぼうとする。

隠れて自分も伝承歌や武芸を学ぼうとするパイケアだが、祖父は激怒する。
怒鳴られても、どれほど傷つく言葉を投げられても、パイケアは
祖父を憎まなかった。
祖父のやりきれなさをわかっていたからだ。
そんなパイケアの芯の強さと優しさこそ、人々を束ねるには必要なのだが、祖父にはそれが見えない・・・・。

いよいよ族長候補の最終テストの日。
湾内とはいえ深い海中に、族長の証であるクジラの骨の首飾りを
投げる祖父。
だが・・・・どの少年もそれを拾うことはできなかった。

あまりのショックに寝込んでしまう祖父。
パイケアは追い出され、弟の恋人の家に預けられた・・・・。

海辺で深い祈りを捧げるパイケア。
どうか一族を救ってくれと。
その祈りが、一族最大の危機と絶望を呼んでしまうことになろうとは・・・・。


絶望の先に未来と希望は訪れるのか・・・・。



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コメント用ライン


1万人の中から選ばれたというマオリ族の少女、ケイシャ・キャッスル=ヒューズ嬢の眩しいほどの美しさに目が釘付けになる。
太陽に愛された褐色の艶やかな肌。
思慮深く強い意志を秘めながらも憂いを含んだ大きな輝く瞳。
少年のような体つきに少女らしいふっくらとした唇と頬。

まさに、南の島の厳しい現実と神秘的な側面の両方を表現するのに
相応しいヒロインだ。

彼女を観て美しいと心打たれた方は、『僕のスウィング』も是非。
あちらはロマ族ではなく生粋のパリジェンヌだが、大自然の恵みが結実したような美しさを魅せてくれる希有なヒロインだ。

ケイシャ嬢、次作は『スターウォーズ』の完結編(=3)に出演するそうだが、彼女の才能と美は、ニュージーランドの海と共にあってこそ輝く気がするのだが・・・・。
ハリウッドの食い物にされないよう祈るばかり。

さて、この映画の魅力はもちろん、ヒロインばかりではない。

擦れて切れてしまった麻縄。一族の未来を見るようで不吉と感じたか、捨てて新しい縄を探す祖父。
切れたら結べばよいと、結んでみせ、祖父の怒りをかってしまうパイ。すべてがここに象徴されている。

そして、学芸会でのパイのあのスピーチ。
たった1人の勇者にすべてを託すのではなく、皆で力を合わせて村を築いていくべきだと、涙でかすんで見えない空席を見つめて震える声で話すパイ。目頭が熱くなるのを押さえられない。

とても普遍的なテーマであり、家族愛の物語であり、斬新さも
衝撃もないし、演出にもこれといって新鮮味はないのだが、
蒼い海、クジラ、マオリ族の伝承舞踏、ヒロインの少女、
少しも見飽きない。

命がけでクジラを救おうとするパイをみて、王蟲に乗ったナウシカを連想してしまった(族長の娘だし)。
宮崎アニメが好きな方にはオススメじゃないだろうか。

この映画のいいところは、大人の女性陣の強さ。
「外ではあんたがボスでも、台所ではあたしがボスよ!」
この祖母のセリフに象徴される、南の島の女の強さ。
単なる男尊女卑の社会ではない。

新しい時代の幕開けを象徴するような、パイの叔父ラウィリの恋人の振るまい。彼の手をひっぱってずんずん歩く。
男がエラソーに振る舞っているのを、お釈迦様の手のひらで遊ばせてやるかのようにひろ〜〜〜い心で支え、立ててやる器の大きさ。

イラン映画の女性は権利らしい権利はまったくなく、男に抑圧される存在として描かれるが(『私が女になった日』などオススメ)、
ニュージーランドの明るい日差しと、タフなオバちゃんたちの笑い声は底抜けに元気だ。

また女性が蔑視に苦しむ映画、と思わず、是非ご覧いただきたい。
女のコだけど男なんかに負けないぞぉ、的な映画はそれこそいっぱいあるわけだが(特に、スポーツや政治、軍事もので)、
本作のヒロインは、男に勝とうとか負けたくないとか、そんな低レベルな、自分の欲求やプライドのためという次元では行動していない。

マオリの女であること、女として生きることを肯定した上で、
それでも先祖が導いてきた自分の一族を導く血が自分の中に
流れていることを感じ、村を、祖父を、愛し助けたいと心底願っている。

自分の性別を否定することは、自分の存在を否定し、そして自分の親も先祖も否定することになる。
それを彼女はあの年齢にして理解しているのだ。
そこに心打たれずにはいられない。

先祖と自然と伝統を敬う心。
あの蒼い海の波で、曇った目や心を洗ってみたくなる。





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