お茶の間 de 映画
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2004年09月10日(金) 「ニューオーリンズ・トライアル」 陪審員の評決、売ります。原告、被告双方の弁護士に届いたメッセージ。被告は銃製造会社。

ニューオーリンズ・トライアル(ニューオーリンズでの審判、裁判)【RUNAWAY JURY(手に負えぬ/脱走する陪審員)】2003年・米
監督:ゲイリー・フレダー 
原作:ジョン・グリシャム 『陪審評決』
脚本:ブライアン・コッペルマン/デヴィッド・レヴィーン 
マシュー・チャップマン/リック・クリーヴランド 
撮影:ロバート・エルスウィット
編集:ウィリアム・スタインカンプ 
音楽:クリストファー・ヤング 
 
出演:ジョン・キューザック(陪審員、ニック・イースター)
   レイチェル・ワイズ(ニックの恋人、連絡役、マーリー)
   ジーン・ハックマン(被告側陪審コンサルタント、フィッチ)
   ダスティン・ホフマン(原告側弁護士、ローア)
   ブルース・デイヴィソン(被告側弁護士、ケーブル)
   ジェレミー・ピヴェン(原告側の陪審コンサルタント、ローレンス)
   ブルース・マッギル(ハーキン判事)
   ジョアンナ・ゴーイング(原告、セレステ)
   ヘンリー・ジャンクル(被告、銃製造会社社長)
   ニック・サーシー(フィッチの手下、ドイル)
   セリア・ウェストン(ブランツ夫人)
   ディラン・マクダーモット(生前のウッド氏)
   
・・陪審員たち、補欠も含む・・・
   スタンリー・アンダーソン(ヘンリー)
   ゲーリー・バーマン(ハーマン)
   コーリー・イングリッシュ(リディア)
   ルイス・ガスマン(ジェリー)
   ラスティ・シュウィマー(ミリー)
   ノーラ・ダン(ステラ)
   ローダ・グリフィス(リッキ)
   ビル・ナン(ロニー)
   クリフ・カーティス(フランク)
   ガイ・トーリー(エディー)
   ファンローニー・ハリス(シルヴィア)
   ジェニファー・ビールス(バネッサ)

ストーリー用ライン


ルイジアナ州、ニューオーリンズ。
昨日、幼い息子の誕生パーティで幸福な時間を過ごした証券マン、
ウッド氏は、今朝もいつものようにオフィスにやってきた。
秘書と昨日の話題で談笑していると、突然の雷雨のような銃声!

ウッド氏を含め、11人がたった2分の間に殺害された・・・。
犯人はクビになったことを逆恨みした元社員。同僚たちを次々に殺害すると、自殺した。

それから2年。
未亡人となったウッドの妻セレステは、犯人の使用していた銃の製造会社、ヴィックスバーグ社を相手に、夫が生きていれば得られた収入と慰謝料をめぐって民事訴訟をおこした。
もちろん、目当ては金ではない。銃社会を変えたいと切に願うゆえに。

ヴィックスバーグ社は違法に銃をだれかれかまわず大量に裁き、指紋のつかない銃まで製造している。
今まで、何度も全米各地で銃製造会社をあいてどった民事訴訟が
あったが、一度も原告が勝訴したことはない。
憲法修正第二条(銃の所持を認める法律)のせいだけではない。

仕掛け人がいたのだ。
陪審員の評決にすべてがゆだねられるアメリカの法廷。
弁護士が幾ら雄弁に語っても、陪審員がもとから特定の思想や信念を持っていた場合、あまり意味がない。

そこで重要な役割を果たすのが“陪審コンサルタント”。
選挙人登録してある前科のない成人から役所が無作為に抽出した
数十名の陪審員候補の中から、12名を選び出すのが役目。

原告側の弁護士ローアは、この州では知られた敏腕弁護士。
庶民派で、安いスーツに少し趣味の悪いネクタイ。
人間を信じるローアは、陪審コンサルタントを今まで雇ったことがない。いつもカンで、危険思想の人物を避け、評決に有利になりそうな人物を選んできた。
そこへローレンスという若い理想に燃えた青年が現れ、自分を陪審コンサルタントとして雇ってほしいと申し出る。

相手にしなかったローアだが、被告側の陪審コンサルタントが“フィッチ”だと聞くと、ピクリと反応する。
銃社会を変えるために闘いたいと熱っぽく語るローレンスを、安い報酬で雇い入れる。

一方、被告側の陪審コンサルタント、フィッチは、ハイテク機器を駆使し盗撮個人情報の引き出しなどあくどい手で陪審員候補を下調べする。心理学に通じる部下、盗み、暴力専門の部下を持ち、
裁判所近くのビルの一室に秘密の戦略ルームをかまえていた。

ゲーム販売店経営のオタクっぽい青年、ニック・イースターは、
陪審員候補として選ばれた。仲間たちには、なんとかして免除してもらえないかなぁ、とコボしまくる。じきオンラインゲームの大きな大会があるらしく、何日も拘束される陪審員なんてまっぴら、という様子だ。

さて、陪審員を選ぶ日が来た。
情報収集は完璧なつもりのフィッチ。
あくまでもカンと目で選ぶつもりのローア。

双方の弁護士が「認める」と言った者を陪審員にし、
「拒否」とどちらかが言えば陪審員にはなれない。

ローアは当然ローレンスと相談しつつも自分の眼力で選ぶのだが、
被告側の弁護士は完璧にフィッチの操り人形だ。
耳の裏につけたジェル状のイヤホンで、近くのビルから盗聴盗撮しているフィッチの指令を受けているだけ。

まるっきりやる気のないニック・イースターは判事の怒りをかい、
追い出されるどころか逆に市民の義務を果たせ!と怒鳴られる。
これでは、本当は情に脆そうに見えるニックを取りたくないフィッチサイドも、拒否できない。
かくして、ニックは陪審員第9号となった。

さぞかしうんざりかと思いきや、恋人マーリーに会うなり、陪審員に選ばれたことを喜び合うニック。
2人はある犯行を計画していた。

裁判初日、2通の同じ封筒がそれぞれ原告側、被告側の弁護士に届けられた。
中身は、“評決売ります”と裏に書かれた、陪審員12名の顔写真・・・!

連絡係のマーリーは、1000万ドル(およそ10億円以上)の
報酬を提示する。

初めは素人のイタズラだと鼻で嗤っていたフィッチだが、
ニック、マーリーの鮮やかな手腕に次第に嗤っていられなくなる。

ローアは頑なに拒みつつも、裁判が進むにつれ、勝てる自信を失ってゆく。ヴィックスバーグ社の元重役を決定的な証人として確保していたが、フィッチに消されてしまう・・・。

フィッチはニックの部屋を荒らし、マーリーの殺害をもくろむ。
マーリーは報酬を1500万ドルにつり上げた。

フィッチは、銃に否定的な陪審員たちに精神的な揺さぶりや脅しを
かけはじめる。誰にでも、秘密はあるものだ。
エイズ、浮気、収賄・・・。

ニックも手を打つ。
フィッチに有利な陪審員をクビにし、かつ自分の株も上げ、他の陪審員の信頼を買う作戦だ。

こうして両者、食うか食われるかの勝負が続く。

この裁判でもしも初の銃製造会社敗訴となれば、史上初となり、
全国で同様の訴訟がせきを切ったようにわき上がるのは必至。
全米すべての銃製造会社に未来はなくなる。

たった1つの裁判、だが全米のこれからを担う裁判。
いよいよ、結審の日が近づいてきたが・・・・。


コメント用ライン



グリシャム原作の法廷モノにはずれなし。
今回は煙草を銃にかえて、映画化している。

普通の法廷モノでは、被告VS原告という一対一の真っ向勝負、陪審員は、彼らが主役になるか、あるいは弁護士や検事の話を聞いているかという立場。
本作では、陪審員を操作する側が加わり、がっぷり三つ巴の闘いなのが新鮮で面白い。

その“操作”とは具体的に何であったか、ラストのニックの一言が痛快だ。


ニックやマーリーの正体にしろ、結末にしろ、充分推測できるのだが、これは大どんでんがえしものでもないし、推理サスペンスでもない。

一瞬一瞬のせめぎあいが見所なのだ。
だから躍動感に満ちている。

そして、人数が多いにも拘わらず、人物の描き方が丁寧だ。
今ひとつ、いてもいなくてもよかったような原告側の陪審コンサルタントがもったいないのだが。

銃社会への警鐘を映画という媒体で鳴らしている作品は近年増加の一方だ。
ごく有名なところだけでも、『ボーリング・フォー・コロンバイン』『スナイパー』 どちらも、学校銃撃事件が核になっている。

真正面から銃製造会社に法廷で挑んでも勝てない。
民事訴訟での勝利を諦め、最後の手段にふみきった『スナイパー』。そして本作。
そちらも、銃製造会社の不正な販売ゆえに、儲けのためなら子供や犯罪者にも簡単に銃を売る会社を糾弾している。

ジョン・キューザックの隠れ知能派っぽさと、見た目おひとよしでお調子モノ、愛嬌のあるキャラクターが最大限に活かされているし、見事な演技と存在感だった。
彼は40でもまだ「青年」という表現がまったく不自然でない
童顔で、役幅が広い。

ベテラン勢も凄い。あのトイレでの、ジーン・ハックマンとダスティン・ホフマンとの鬼気迫る対決には圧倒されて息が止まりそうな緊張感。
あの2人、これが初競演だそうだ。売れない頃からの親友だという
2人、さすが、というほか言葉がないほど。

思いっきり直球のダスティン・ホフマン。
正義感と目的のためなら手段を選ばずの間で揺れる。

ジーン・ハックマンの悪党っぷり。
だが所詮は雇われ悪党の悲哀。

憲法修正第二条そのものを改正せよという裁判ではない。
『ボーリング・フォー・コロンバイン』でも、銃が所持できる法律に警鐘を鳴らしているのではない。
『スナイパー』もしかり。
争われているのは“不正な販売”(子供でも買える、1人が何百丁でも買える→どんな邪な連中の手に安価に渡るか)だというのに、裁判で今まで一度も銃製造会社が負けたことがないのは
何故か。誰かが裁判を(=陪審員を)陰で操っていないか。

そこに焦点を当てたこの作品、画期的な取り組みではないだろうか。

社会派ドラマとして、スリリングなサスペンスとして、復讐劇として、いろいろな愉しみ方ができるとても優れた作品だ。




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