お茶の間 de 映画
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2004年09月09日(木) 「フランケンシュタイン」 原作に忠実。凄惨で壮絶な悲劇。デニーロ演じる怪物の哀しさに泣かずにはいられない。

フランケンシュタイン【Mary Shelley's Frankenstein】1994年・米
監督:ケネス・ブラナー 
製作:フランシス・フォード・コッポラ
原作:メアリー・シェリー 
脚本:スティーヴン・レディ/フランク・ダラボン
撮影:ロジャー・プラット
音楽:パトリック・ドイル 
 
俳優:ロバート・デ・ニーロ(怪物/義足の男)
   ケネス・ブラナー(医学生、ヴィクター・フランケンシュタイン)
   ヘレナ・ボナム=カーター(ヴィクターの義妹にして恋人、エリザベス)
   エイダン・クイン(探検家、ウォルトン)
   イアン・ホルム(ヴィクターの父)
   ジョン・クリーズ(死者蘇生実験の先達者、ウォルドマン教授)
   ロバート・ハーディ(クレンペ教授)
   チェリー・ランギ(ヴィクターの母)
   リチャード・ブライヤーズ(森の小屋の盲人)
   トム・ハルス(ヴィクターの学友、ヘンリー)

ストーリー用ライン


1794年。人類が科学という新しい力を得、未知なるものへの探求に貪欲になりはじめた時代・・・。

北極点への航路を発見すべく北極海を航海中の船が凄まじい嵐に遭遇し、氷山に衝突する。かなりの死者が出たにも拘わらず、探検家で船長のウォルトンはクルーに修理を急がせ、なおも北へ進路をとろうとする。新発見に犠牲はつきものだ、と言い放つ船長に、クルーたちは今にも暴動を起こしかねない。

その時、氷原から聞いたこともない恐ろしげな叫び声が!
やがてボロ布のようにやつれきった男が氷原から現れ倒れ込む。
船室に招き入れ、その男の話に耳を傾けるウォルトン・・・・・。

数年前に話は遡る。
スイスの裕福なフランケンシュタイン家の長男、ヴィクターは、
義妹の美しいエリザベスとともに幸せな子供時代を送った。
だが、愛する母が難産の末、嬰児をのこし、亡くなった。医師の父にも、どうすることもできなかった・・・。
悲嘆にくれたヴィクターは心に誓う。“死”を葬ってみせる、と・・・。

猛勉強の末、ヴィクターは父の跡を継ぎ医者になるべく、遠方の医大に通うことになる。
別れの前夜、いつのまにか深く愛し合うようになっていたエリザベスと結婚の約束をするのだった。医者の資格をとって帰郷したら、
初夜に契りを結ぼうと。

こうして若者らしい期待に胸を膨らませ、医大に入学。近くに広い屋根裏部屋を借り、さまざまな実験道具を運び込むのだった。

何よりも患者の治療を第一に、と医師の心得を説くクレンペ教授に、治療よりも創造を、と発言し怒りをかうヴィクター。

やがてヴィクターは、医学会の異端と忌み嫌われるウォルドマン教授と出逢う。
中国の“気”や“ツボ”“針”の研究をし、針と電気が生物に与える影響などの実験を秘密裏に行っていた。
切断された腕だけのサルの手が、電流を流すと生きているように動くではないか!
興奮したヴィクターは、秘密保持を条件に弟子入りするのだった。

だが、教授が異端視された理由はもっと恐ろしいところにあった。
かつては、死者蘇生の実験も行っていたのだ。
だが、そのあまりに恐ろしい結果に、すべてを封印してしまったのだった・・・。

そんなおり、街にコレラが大流行する。医師たちは総出で人々にワクチンを注射するが、義足の男が暴れ出す。ワクチンの意味など理解できない男は、病原菌を注射されるのだと半狂乱でウォルドマン教授を刺殺してしまう・・・!

また1人、敬愛する人を失ったヴィクターは“死”を激しく憎悪する。そして、教授の研究の封印を解いてしまうのだった。

教授の脳を、教授を殺した男の頭蓋骨に入れ、内臓や足は死んだコレラ患者から盗った。縫い目だらけのつぎはぎの体のツボに針を刺し、電気ウナギの電流を用い刺激を与えると・・・・!

ヴィクターはその時はじめて激しい後悔に襲われ、その怪物を見棄ててしまう。死んだのだと思いこみ、忘れようとする。

怪物はヴィクターの日記が懐に入ったコートを纏うと、街から逃げ出し、森の奥深くへと姿を消した。

森で、貧しいながらも幸福そうな一家をみかける。
壁の隙間から、愛に溢れる家族を見つめる怪物の瞳は穏やかだった。一家を陰から守る怪物は、子供たちに“森の妖精さん”と慕われるが、姿は見せられない・・・。
盲目の祖父だけが、怪物の哀しみを理解するのだった。

だが、父親が怪物と一緒にいるのをみて、息子は問答無用で殴りかかる。
怪物は1人、森の奥で号泣するのだった・・・・。

コートのポケットから見つけたヴィクター・フランケンシュタインの日記。自分が科学者の実験で創られ、棄てられたと知った怪物は、ヴィクターから愛する者を奪いつくすべく、復讐を胸にスイスへ向かうのだった。

その頃、何も知らないヴィクターは、心配して迎えにきたエリザベスと、学友のヘンリーと故郷に。花嫁衣装の仮縫い、一家は華やいだ雰囲気に包まれていたが・・・・・・・。


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コメント用ライン


アメリカの漫画に出てくる(31年の『フランケンシュタイン』の怪物のイメージが強烈すぎてそのまま定着)、額が異様に長くボルトがついている真四角な怪物で、手を前に伸ばしてのしのし歩く大男をイメージしていると、デニーロの演じる怪物との容姿との違いに違和感を感じるかもしれない。

原作通り、一般人の死体を組み合わせたクリーチャーなので、背丈は中肉中背、脳を切開しているので髪は剃られ坊主頭、「フランケンシュタン」の怪物だと一見してわかるのは、顔中の縫い傷だけ。

クチビルや目の周りを縫うのにはどんな意味があるのかやや疑問だが、縫合の粗さははやるヴィクターの乱心ぶりを痛々しく表現しているかのよう。

そして、この怪物には心があった。
知能もあった。それがウォルドマン教授の脳だからかどうかはわからないが、学習能力が高く文字も読める。

野の花を愛で、笛の音を愛で、人の笑顔を愛する。
だが、ヴィクターが愛もなく創ったゆえに、感情をコントロールできない。
怒りか、愛か。
怪物はその2つのどちらかでしか満たされない。
そして拒絶され愛を失った怪物は、怒りの塊となるしかない・・・。

シェイクスピア悲劇に通じているケネス・ブラナーらしく、
人の業の醜さと哀しさをとことんまで見せつける。

フランケンシュタインはただ新発見を夢見るマッドサイエンティストではない。
愛する者を死という見えない怪物に奪われたゆえの狂気。

怪物も、生みの親も、愛をもがれたがゆえに凶行に走った哀れな
人間だ。

愛してやれないのなら、“心”が発動する前に即座に殺すべきだった。
愛されないのなら、“父”のみの命を奪い復讐とすればよかった。

だが、それができない、それでは満たされないのも、また人間らしさだったのだ。

いっそ心を持たない本物の怪物なら、苦しまなかったであろうに。
花嫁の壮絶な死に、憎みあう2人の心が同じ悲しみと絶望を共有する。

愛する母の遺した日記帳には、愛に満ちた日々を綴るべきだった。
母を愛していたがゆえに破滅するとは。

この映画はホラー映画ではない。
グロテスクな映像もあるし、凄惨な死のシーンも幾度も描かれるが、それがメインではない。

人間の業の深さと愛を描いた悲劇なのだ。

到達できそうな未知の場所がある。実現可能と思える事がある。
だが、行くべきか、すべきか。行かざるべきか、すべきでないか。
その決断を下すほうが、どんな危険な冒険よりも勇気のいること。

ロジャー・プラット(「バットマン」「未来世紀ブラジル」など)による、回転を多用したスピード感溢れる撮影も見事で、緊張感が途切れない。

フランケンシュタイン家の階段や大広間の美術にも目をみはる。
真っ白な空間に淡い水色やピンクを基調とした衣装の人々。

脚本は、新人のスティーヴン・レディの補佐にあのフランク・ダラボンが入っている。泣かせツボをグリグリされてしまう。

いつまでもエンドロールを見つめたまま涙にくれてしまう映画は
そう本数がない。

ケネス・ブラナーが大学生の役は若作りもいいとこだろうとか、
(「ハムレット」でも目をつぶってやったよ、そこは)
ヘレナ・ボナム=カーターほどの美女になにさらす、とかは
この際ノーコメント。


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