お茶の間 de 映画
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2004年09月07日(火) 「イン・アメリカ/三つの小さな願いごと」 アメリカの明暗を的確にからめつつ、喪失からの再生と家族愛を強い筆致で描いている。

イン・アメリカ/三つの小さな願いごと【IN AMERICA】2002年・アイルランド=イギリス
監督:ジム・シェリダン 
脚本:ジム・シェリダン/ナオミ・シェリダン/カーステン・シェリダン 
撮影:デクラン・クイン 
音楽:ギャヴィン・フライデー/モーリス・シーザー 
 
俳優:サマンサ・モートン(妻、サラ)
   パディ・コンシダイン(夫、ジョニー)
   サラ・ボルジャー(長女、クリスティ)
   エマ・ボルジャー(次女、アリエル)
   ジャイモン・フンスー(叫ぶ男、マテオ)
キアラン・クローニン(亡き長男、フランキー)

ストーリー用ライン


願いごとには願っていいことといけないことがある、
そして願いは3つまで・・・・

ここはアメリカとカナダの国境。
入国管理局の審査で渋滞している。もうじき彼らの番だ。
ビデオカメラで初めてみる風景を撮ろうとする娘を神経質にたしなめる。
はしゃいでる場合じゃない。
一家は正式な移民ではない。観光ビザで偽って入国する。
バレれば強制送還・・・。緊張と不安を隠せない両親。

まだ幼いアリエルの、パパが失業したから来たの、という無邪気な発言が審査官の足を止めてしまう。

10才の姉、クリスティの願いが通じたのか、観光旅行だという嘘は通った。

故郷アイルランドを離れ、新天地目指しここアメリカに辿り着いた一家は、マンハッタンのスラムにあるボロアパートの最上階に住むことに。

ヤク中の凶暴そうな住民たち・・・。アパートじゅうにこだまする
謎の叫び声・・・。あまりにもオンボロの屋根裏部屋・・・。
父親のジョニーは浮かない顔だが、妻サラは、車を売って改装すれば住めると微笑み、娘たちは新しい家に大興奮、笑い声がはじける。

ジョニーは舞台俳優になるため、オーディションを受けたり子守をしたり。サラは近所のアイスクリーム屋に職を見つけた。
家賃を支払うので精一杯、家計は苦しかった。

今は真夏。39度の記録的猛暑と慣れない生活に両親はげんなりだが、子供たちは元気に夏休みを過ごしている。
避暑を兼ねて映画館に行った一家は、『E.T.』を観る。
アリエルは、ETが自転車に乗っておうちに帰るシーンがとても気に入ったようだった。
この夏、サラは新しい命をおなかに宿すのだった。

貧しいながらも幸福そうな一家にも、ぬぐいきれない不幸があった。娘たちの弟、フランキーが、2才のときに転落事故で脳に損傷をおい、長患いの末、苦しんで亡くなったのだった。
娘たちはビデオカメラで生前の弟の姿を幾度も見る。
母サラは、愛息子の瞳が夫の瞳とだぶり、夫を直視できない。
父ジョニーは、あれから抜け殻のように心は虚ろ。神も信じなくなった・・・・。そんなジョニーにハートのあるセリフは言えず、
オーディションは落ちてばかり。

季節は移ろい、9月。
新学期が始まり、公立ではなくカトリックの小学校に娘2人を入れるべく、父はオーディションの合間にタクシーの運転手として働きだした。

木の葉舞い落ちおる季節になり、ハロウィーン。
アイルランドにはないこのアメリカ的な習慣に戸惑う両親だが、
娘たちは仮装に大はしゃぎ。
手製の衣装を鼻で笑われ、アイリッシュども、と聞こえよがしに嘲笑され傷つく。

初めての“トリック オア トリート!”をやってみたい娘たち。
だがジャンキーしかいないこのアパートで扉を開けてお菓子をくれる部屋なぞあるわけもなく・・・・。
“Keep Out!”(立入禁止)と毒々しくドアに殴り書きされた、
叫ぶ男の部屋。
ハロウィーンの夜、この部屋の住人、黒人のマテオと一家の運命の出逢い・・・。

マテオは不治の病を抱えた画家だった。
叫んで作品を切り刻んでいたのは、やり場のなさからだったのだ。

娘たちは見た目のゴツさからは想像できない優しいマテオと
すっかり仲良しになる。

冬の気配が近づいていた。
サラのおなかは幸福を宿し大きく膨らんできた。

だが、胎児が動かない・・・・・。
医者はあまりにも残酷な事実を伝えねばならなかった。
母体、胎児ともに助かる可能性は0に等しいというのだ。

ジョニーは子供を諦めさせようとするが、サラはありのまま受け入れようとする。夫婦仲にもヒビが・・・・。

あと1つだけ、願いごとが残っていた。
クリスティは悩む。
ママを助けてと願ったらいいのか、赤ちゃんを助けてと願ったらいいのか。
結局、どちらも願わなかった。
願っていい願い事ではないと、クリスティは知っていた。

入院費、学費。ジョニーにはもうどうしていいかわからなかった。

サラと赤ん坊の命は・・・。
今にも砕け散りそうな一家の絆は・・・・。

クリスティは最後に何をお願いするのだろうか。


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イン・アメリカ/三つの小さな願いごと@映画生活

コメント用ライン


「マイ・レフト・フット」(伝記)、「父の祈りを」(実話)
など、実際にあった出来事から構想を練ることが多い、アイルランドの巨匠、ジム・シェリダン監督。

今回は、自らの経験を元にした半自伝的な作品であり、作品は亡き息子に捧げられている。
娘2人と共同で脚本を執筆、監督の想いが詰まった作品となった。

願いごとは3つ。
それはお伽話にもよく出てくる数字。
あまりにもつらい状況の一家を描きつつ、どん底物語にならないのは、娘たちの明るさ、生きるエネルギーに満ちた力強さ、そして
この“願い事”という言葉の響きが持つ魔法のような力。

実際には、魔法のランプのように願いが叶っているわけじゃない。
運がいいかただの偶然といってしまえばそう。
けれど、運も才能のうち、そして偶然はほんとはなくて、すべて必然かもしれない。
それを後押しする、“お願い”。

移民差別、貧困、麻薬、エイズ・・・。
アメリカの抱える病理、暗部をえぐりとりながら、暗澹としないのは、この無邪気さゆえだ。
無邪気といっても、幼いゆえの無邪気さとは違う。
アリエルはまさに無我の愛くるしさだが、
クリスティは邪さを自分の意志ではねのける意志の強さを持った
無邪気さだ。

そして、魔法のランプはなくても、願わずとも、心優しき巨人は
一家の前に現れた。
固く閉ざされていたドアを恐れずノックし続けたから。


求めよ、さらば与えられん。

アメリカは、夢を叶えたい人々が世界中から藁をもつかむ気持ちで
やってくる国。
1未満の0からスタートできるかもしれない街、NY。
太陽の眩しさと夢叶った人々の光の陰には、もちろん底知れぬ闇も。のたれ死ぬ人だって数知れない。
それでも、アメリカン・ドリームを夢見ることで顔を上げていられる。

クリスティの3つめの願いに涙がこみあげる。

ビデオカメラは今を映しているように思うけど、本当は、過去を
保存している。ビデオカメラには、明日は映せない。
クリスティはもう、ビデオカメラのレンズを通さず、これからは2つの澄んだ瞳で今この瞬間と、未来を見つめるのだ。







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