お茶の間 de 映画
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2004年09月06日(月) 「月曜日に乾杯!」 毒の効いたシニカルさと人間への温かい眼差し。イッパイイッパイな毎日に窒息しそうな人にオススメw

月曜日に乾杯!【LUNDI MATIN/MONDAY MORNING】2002年仏=伊
★2002年ベルリン国際映画祭 銀熊賞(監督賞)・国際批評家連盟賞受賞
監督・脚本:オタール・イオセリアーニ 
撮影:ウィリアム・ルブチャンスキー 
美術:マニュ・ド・ショヴィニ 
編集:オタール・イオセリアーニ/エヴァ・レンキュヴィチュ 
音楽:ニコラ・ズラビシュヴィリ
 
俳優:ジャック・ビドウ(ヴァンサン)
  アンヌ・クラヴズ=タルナヴスキ(妻)
  ナルダ・ブランシェ(老母)
  ラズラフ・キンスキー(老父)
  ダト・タリエラシュヴィリ(息子ニコラ)
  マチュー・アマルリック(ニコラ役の声の吹き替え)
  アドリアン・パショー(息子ガストン)
  アリーゴ・モッツォ(ヴェニスで知り合ったカルロ)
  オタール・イオセリアーニ(父の旧友、エンゾ・ディ・マルテイーノ公爵)
  ジェレミー・ロシニュー(司祭)
  ヤニック・カルパンティエ(郵便配達の老人)
  マニュ・ド・ショヴィニ(女装のトイレ番、ヴァンサンの旧友)

ストーリー用ライン


フランスの片田舎、静かな静かな村。
初老のヴァンサンは、ヨボヨボの母、でっぷりと肥えて貫禄たっぷりの嫁さん、科学おたくの高校生の長男、いたずらっ子の小学生の次男と暮らしている。

仕事は化学工場での溶接作業。
朝5時起きで、妻に見送られることもなく自家用車と電車を乗り継ぎ長距離痛勤し、門の前で煙草を棄てさせられ(火気厳禁ですから)、さんざんこきつかわれ、日が暮れてボロ雑巾のように疲れて帰宅しても、子供たちは“邪魔しないで”、嫁さんは次々と雑用と言いつけ、趣味の絵を描くのもままならない。
寝る前に一服だってできない。夜のオツトメのため、嫁さんに
ベッドに強制連行されるのだ。
ムードもへったくれもなく10秒でコトを済ますと、嫁さんは爆音で音楽をかけ、寝付けない・・・・・。

翌朝、ヴァンサンは門の前で煙草いつまでも棄てなかった。呆れた門番が彼を締め出すと、ヴァンサンは丘に登った。
・・・自由だ!

旦那が無断欠勤しているとも知らない家族は、今日も普通の1日を過ごしている。
長男は、昔ヴァンサンが描いた聖者のスケッチを気に入り、教会の壁に描き始める。意中の女のコとはなんとなくギクシャク。

お婆ちゃんはお墓参りに行くと見せかけて、どっかへドライブ。

次男は自転車を直そうと四苦八苦。

嫁さんはジプシーの押し売りに困惑したり、家事に追われて多忙だ。

日が暮れるころ、ヴァンサンは長いこと逢っていない父を訪ねた。
母と離縁してから父は1人住まいだ。
訪ねると、父は危篤らしく叔母らが集ってさっさと死なないかと
待っている。
ヴァンサンは女どもを追い出し、実はけっこう元気な父とグラスを傾けた。

父は、もっと見聞を広めろと、イタリア行きをすすめる。

深夜、酒場の便所でかつての画家の卵仲間だった男と再会する。
生活のために女装し老婆として働いているのだった。
屋根裏部屋で巨大ドブネズミ2匹だけを友に、かつて夢を語りあった男は暮らしていた。
暮らしはあいかわらずかい、と訪ねる友に答えず、眠りに落ちるヴァンサン。
カツラとブラジャーを外した友は優しく布団をかけるのだった。

翌日、列車でヴェニスに到着したヴァンサン、早速サイフをスられるも、陽気なヴェニス男たちに世話になり、さまざまな人々と出逢い別れた。

旧友のくれた絵の具をベニスの川の水で溶き、家族に絵はがきを描くヴァンサン。

その頃、家族は。
一見、何も変わらない日々。
子供たちは遊び、嫁さんは家の仕事で忙しい。
老いた母は、収入がなくなり苦しくなった家計のため、あるものを探し庭を掘り始める・・・・。

旅人となったヴァンサンはいつになったら家に帰るのだろうか。
もう、戻らないつもりだろうか・・・・・。


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コメント用ライン


オタール・イオセリアーニ監督は何とも愛すべき作品を撮る。
前作『素敵な歌と舟はゆく』でも、何もすることがなくヒマでヒマでしょうがないのに行動の自由のないがんじがらめの日々に辟易して酒と友と旅だってしまう裕福な父親を寓話的に描いていた。

本作でも、酒、友、旅という必須アイテムは揃っているが、
逃げ出してさようなら〜というわけにはいかない立場。
家が貧乏だ。
何処かで自分と折り合いをつけにゃならない。

だが、この映画のよいところ、「愚痴を観客に聞かせない」。
酒はどこまでも陽気に呑み、不自由さと孤独感は映像で魅せる。

前作の富豪とは違って登場人物のほぼ全員が庶民。
あの公爵も見栄でしか自分を保てない気の毒で愛らしい存在だ。

仕事しなきゃ、衣食住すべてに困る。
職場が火気厳禁だって、毎日同じつまらないことの繰り返しだって、絵描きになれなかった青春時代を懐かしんだって、明日のパンのため、働かなくちゃ。

ヴァンサンの苦悩や自分との折り合いのシーンが描かれるのだろうかと思っていたら、見事にそこを省略!
そう、必要ないのだ、わかっているのだもの。さすがの演出。

だから、この映画の魅力は、結末ではなくてディティールにある。
1シーン1シーンが豊かだ。

ほんとは子供たちもパパを尊敬してる。
言葉や態度に出さないだけだ。

嫁さんもそう。頼りにしてる。長い結婚生活で、態度で示すのが互いに億劫になってそのうち本当に互いの価値がピンボケしてきた、
どこにでもいる夫婦だ。

車椅子からスックと立ち上がった向かいの家の老人に押され、転がってゆく車椅子。
デコボコでもうダメな自転車のタイヤ。
丸い転がるものが映画にたくさん出てくる。

そこから、真っ直ぐ伸びる列車で脱出して運河をたゆたうけれど、
ヴェニスも夜がきて朝がきて仕事にいく人々で溢れていた。
くるくると日々はまわりつづける。

船で大海に出て違う大陸に行ってみても、きっと。

ラスト近く、郵便配達の爺さんが自転車の邪魔だから転がしてどかしたためひっくり返り、形の変わった岩に、車椅子が要らなくなって杖で歩く向かいの爺さんが、どっこらしょと座って一服するシーンがとても好きだ。

向きがかわっただけで、同じ岩。
道をふさぐ邪魔なデコボコの岩も、ちょっと気合い入れて転がせば、道行く人が一休みする椅子になる。

人生もそうなんじゃないかな。
仕事も家族も起きる時間も寝る時間も同じでも、ちょっと力を加えて転がすと、尖っていた部分が隠れてスベスベなものになるかも。

あちこちにこぼれたビーズのように賑やかに散らばる、笑いを誘うシーンの数々が楽しい。

やっぱりオタール・イオセリアーニ監督の作品には、ワインが似合う。気持ちよく酔え、温かいぬくもりが残る良質な作品だ。

ちょっと気になることが。
公式サイトでも、ヴァンサンが旅立ったのが月曜の朝、と書いてあるが、映画の中ではただの一度も曜日は言葉で示されない。
家出の前日も出勤していること、帰宅した日に日曜学校があり、
高校生の子たちもお手製のグライダーで遊んでいたところからも、
月曜日なのは、人生の再出発の日のほうでは???
あるいは工場はシフト制なので、日曜も出勤する日々にうんざりして月曜に家出、両方とも月曜日なのかもしれない。

個人的には、ラストのあの爽やかで優しい朝が、月曜日なほうが
原題に似合うように思うけれど。







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