お茶の間 de 映画
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2004年08月30日(月)  『LOVERS』 イーモウ監督の十八番である恋の狂気、破滅の情念、滅びの美学。コテコテではあるが。

LOVERS【十面埋伏/LOVERS HOUSE OF FLYING DAGGERS(飛刀門)】2004年・中国
監督:チャン・イーモウ 
アクション監督:チン・シウトン 
脚本:チャン・イーモウ/リー・フェン/ワン・ビン
撮影:チャオ・シャオティン 
衣装デザイン:ワダエミ 
音楽:梅林茂
 
俳優:金城武(捕吏、金(ジン)
  チャン・ツィイー(飛刀門、小妹(シャオメイ)
  アンディ・ラウ(捕吏、劉(リウ)
  ソン・タンタン(遊郭牡丹坊の女将)

ストーリー用ライン


9世紀なかば、唐。栄華を極めた王朝も衰退の一路を辿り、悪政に民は苦しんでいた。

そんな中、“飛刀門”と呼ばれる短刀使いの一派が王朝に牙をむき、官軍とのこぜりあいが続く。
つい先日、3ヶ月もかけてようやく敵の頭目を倒した王朝であったが、民衆の支持に士気の衰えをみせない飛刀門は、新頭目をたて、
たちむかってくるのだった。

官軍の詰め所。捕吏の劉は、飛刀門の新頭目を即刻倒せとのお上の厳命だ、と同僚の金に伝えるが、金は昼間から酒をあおり、やる気がまるでない。

劉は、金が乗り気になりそうな話を1つ掴んでいた。
近頃できた遊郭、牡丹坊の一番の売れっ子がきなくさいという情報だ。
女遊びと酒には目がない金のこと、それならば、と身分を偽り早速牡丹坊へ。

やり手の女将にチップをはずみ、一番の売れっ子を呼ぶ金。
出てきたのは盲目の美女、小妹。
からかう金に、見事な踊りと歌を魅せる小妹だが、金はろくに
踊りには目もくれず、てごめにしようと押し倒す。

そこへ示し合わせた通り、劉が捕吏として登場。
風紀を乱したかどで、金と小妹を逮捕しようとする。

必死に女将がくいさがると、劉は踊りが見事なら釈放しようともちかける。
見事な舞いの最中、劉に剣を向け、王朝の犬は斬る、と吠える小妹。
劉と一戦交え、武術の達人ぶりをみせる小妹だが、あえなく逮捕されてしまう・・・・。

噂では、前頭目の盲目の娘が行方不明になっており、門をあげて
探しているらしい。
拷問具の音を聞かせ、一門の隠れ家を吐けと脅す劉だが、小妹の
口は堅い。
一晩猶予をやろうと牢を閉ざした。

さて、娘を王朝につきだして褒美を、と機嫌のよい金に、劉は
さらなる謀を持ちかける。
もっと大きな手柄を得るには・・・・。

やがて、何も知らない門番らを蹴散らし飛び込んできたのは、金。
小妹をさらうと用意してあった馬に乗せ、脱獄したのだ。

小妹には、王朝に愛想がつきたと言い、さらに小妹の美しさに
心奪われたと口説き、一門の隠れ家に案内させようとする。

半信半疑ながらに、必ずや父の仇を討とうと単独行動だったと金に
告白する小妹であった・・・。
その父の仇が自分であることを思うと胸が痛まないでもない金・・・。

影のように2人の後を追い様子をうかがう劉。
なんとしても隠れ家を突き止めねば、手柄どころか・・・。
色香に惑わされ任務を忘れるな、と執拗に忠告するのであった・・・。

根っからの風流人を気取る金のこと、女をたぶらかすのはお手の物のつもりだ。

だが、状況が一変。捕らぬ狸の皮算用で笑っていられなくなる。
王朝の派遣した兵が、金と劉の謀を知らず、牢を破り小妹を逃がした罪で、逆賊として2人を刃もて追ってきたのだ!

たおせどたおせど、問答無用で斬り殺しにくるかつての部下たち。
自分の手の届かない状況に陥ってしまったと苦悶する劉・・・。
無事を祈る、と苦渋の面持ちで矢筒を渡すが、金は怒り狂って受け取らない・・・。

絶望の淵に沈む金。
突然、態度が豹変した金を残し、1人、小妹は馬にまたがった。

謀はかくして崩れ、金はたき火の炎を力なく見つめる。

だが、この先、幾重にも複雑に絡み合った謀と宿命がかれらを呪縛し苦しめ、破滅へ導くことになろうとは・・・・・・・。



コメント用ライン


“伝説・伝奇”として描いたファンタジー『HERO』よりも、格段に衣装のセンスが上品で禍々しくなく、アクションも曲芸度が相変わらず強いものの、緊張感と力業を優先させたタフな仕上がりになっている。

衣装に黄色や赤を使わなかった作品は、私が知るかぎりイーモウ作品の中では今回が初めてではないだろうか。
青と緑が支配する幽玄な色彩イメージが美しい。

こういう大作は、マンガチックだ、滑稽だ、と斬り捨ててしまってはもったいない。
また、重厚な史劇を期待するむきには、あくまでも歴史劇、という
シチュエーションを借りた濃厚な嫉妬と恋の狂気と情念の炎に焼き尽くされる男女の物語なので、おすすめはしない。

イーモウ監督の十八番、ドロドロとしつこい男女の情念を期待するむきには、おなかいっぱいになれる作品だろう。


俳優陣が豪華なのがやはり見所なのだが、なにしろ芸達者で
圧倒的な演技力をもつアンディ・ラウの前に、能面(心を読ませない演技なのでそれは効果的ではあるのだが)で童顔で幼すぎるチャン・ツィイーと、実に精悍で美しい青年だが微妙な心のひだを演じきれていない金城武が惜しい。

アンディ・ラウの演じる愛は嫉妬と憎悪の激しい愛。
ラストシーン近くの(中盤のではなく)竹林のシーンに、
愛に盲目になり大義すら見失う狂気を見、圧倒的である。

チャン・ツィイーと年齢が離れすぎているというより、彼女がまだ、「女」を演じるには若すぎるという違和感が残る。
まだ「娘」なのだ。肉欲の味を知らない清潔感が、物語のコテコテの泥沼感とズレている。

ただ、そこが監督の狙いなのだろうとも考えられる。
主題歌にも出てくる、“蝶”のイメージ・・・儚く、1つの花にとどまれないさだめの蝶。
それは熟した女では無理だ。

惜しみなく与える金の愛。
惜しみなく奪う劉の愛。

冬が訪れ、蝶が命尽きれば、花もまた散ろうというもの。

大陸の幽玄な大地と人智の及ばぬあの空の色、実に美しい。

正直いえば、もうこのへんでいいでしょう、イーモウ監督、という
気が古くからのファンとしてはある。
箱をもっと小さくして、そのぶんもっと濃いものをまた創ってほしい。独特のユーモアのセンス、人間とはなんと残酷で、それでいて可愛らしい生き物か、と思わせてくれる作風が懐かしくもある・・・。


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