2004年07月27日(火) |
「10億分の1の男」運を奪え!スペイン映画界の新星が放つミステリアスドラマ。 |
10億分の1の男【INTACTO】2001年・スペイン ★第16回ゴヤ賞 最優秀新人監督賞 最優秀新人男優賞 監督:フアン・カルロス・フレスナディージョ 脚本:フアン・カルロス・フレスナディージョ/アンドレス・M・コッペル 撮影:シャヴィ・ヒメネス 編集:ナチョ・ルイス・カピラス 音楽:ルシオ・ゴドイ 俳優:レオナルド・スバラグリア(飛行機事故の唯一の生き残り、トマス) マックス・フォン・シドー(世界一強運な男、ユダヤ人のサミュエル老人) ユウセビオ・ポンセラ(サミュエル老人の愛弟子だった男、フェデリコ) モニカ・ロペス(強運だが悲運の女刑事、サラ) アントニオ・デチェント(世界最強運王の座を狙う元闘牛士、アレハンドロ)
荒涼たる砂漠のド真ん中、ひっそりと妖しげにカジノのネオンが光る。 経営者はユダヤ人のサミュエル老人。地下2階の特別室に籠もり、 愛弟子のフェデリコ以外にはいつも覆面で接し、顔を見せたことはない。
フェデリコはまだ幼かった頃、大地震でたった1人生き残り、生き埋めになっていたところを、サミュエルに偶然見いだされ、我が子同然に育てられ、中年になった今も独身で、彼に仕えている。 なぜなら、フェデリコには、サミュエルと同じ“才能”があるゆえに、カジノ経営のためになくてはならない存在だからだ。
・・・もちろん、実の息子のように思うサミュエルは、じき引退し、すべての財産をフェデリコに譲るつもりであったが。
今夜もサミュエルの命令で、勝ち続けるカジノの客の手に触れ、運を吸い取ったフェデリコ。
フェデリコは、サミュエルのもとから逃げだしもっと広い世界で 運を試してみたかった。このまま地下で人の運を奪うだけの日々は・・・。
決意をサミュエルに告げると、サミュエルは、恩を忘れて去るフェデリコを固く抱擁し、運を吸い尽くし、砂漠に棄てた・・・・。
それから7年後。 フェデリコは、強運な男を捜して保険会社を隠れ蓑に暗躍していた。
飛行機事故。トマスはたった1人の生存者。さしたる重傷もなく。237名の中で。 強盗して逃亡中だった彼は、警察の監視下、入院生活をおくる。 許された所持品は、恋人と写った写真1枚。
そこへ、保険がおりるとフェデリコがやってくる。 逃がしてやるからゲームに乗れ、と誘うフェデリコ。
怪しげな秘密クラブでの賭博。 参加資格は、「強運であることを証明するもの」 賭けるものは、現金以外のもの、そしてその写真。
トマスに脱走された担当刑事のサラは、捜査、逮捕のために 自らもその危険な賭けに参加することを決意する。 彼女にも「資格」があった。 胸元に痛々しく残る大きな傷口。夫と幼い子供とドライブ中に事故に遭い、自分だけ生き残ってしまったのだ。 保険金受理の書類を証拠に、保険金で買った絵画を賭けて参加するが、そこでは信じがたい光景が・・・!
貧しい人々が、わずかな謝礼と引き替えに、身売りのように運を売っている・・!
強運王を目指す彼らの最終決戦地は、サミュエル老人のカジノ。 だが、賭けるのは金では、もちろん、ない。
最強運を持つにいたったサミュエル老人の過去とは。 悲運の女刑事、サラの運命は。 フェデリコはサミュエルに復讐を果たせるのか。 駒としてフェデリコに選ばれてしまったトマスは、愛のために命を賭けるが・・・。
「運」という目に見えない「高確率で欲しいものを得るという能力」を、視覚的に見せて安っぽくしてしまわずに結果だけでその存在を示す、というのがいい。
『悪魔を憐れむ歌』でも悪霊がCGなんぞで表現するような大人をナメたことをしないところがよかったが、本作もしかり。
ハリウッドがリメイク権を買ったそうだが、「運」をビジュアルで表現するのだけはカンベンしてほしいものだ。
スペイン映画の美意識の高さにはまったく恐れ入る。 確かに荒削りで舌足らずな部分はあるものの、考えようによっては、観客の想像力を最大限に利用した凄い作品ともとれる。 なんでもかんでも丁寧に説明すりゃいいってもんじゃないだろう。
原題の意味は「無傷」。この邦題はなかなかだと思うが、10億分の1の大きさのミクロ人間のSFだと思った人もいるかも。
ビジュアル面で監督のセンスがいいのは、円と長方形の用い方。 0(ゼロ)が多くつくほど運がよい。それは保険金の額であったり、生き残る確率であったり。ルーレット。闘牛場。銃口。 ホテル(HOSTEL)のOだけ消えている。 完全なるものが崩れ行く兆し・・・。
運を崩し死に誘うのはすべて長方形のもの。 高額なチップ。トランプ。札束。保険証書。マジックミラー。窓ガラス。テーブル。虫の入った箱。プール。カーペット。ビニールシート。 そして、ポラロイド写真。
強運、幸運というのは目に見えないだけに、人によって感想も 意見もかなりわかれるストーリーかもしれない。 オススメの本に【『Good Luck グッドラック』 アレックス・ロビラ、フェルナンド・トリアス・デ・ベス(田中志文 訳)ポプラ社】というのがある。 運は世界中の人間に均等に配布されているが、幸運は努力した者だけが掴める、という寓話だ。
この映画は運は強奪する運びなので、比較すると面白いかもしれない。
この映画のミソは、“実はいっちばん強運なのは誰なのか”という ところ。 監督がこの映画を撮ろうと思ったのはある女性の実体験を聞いてのことらしい。その女性のモデルは、映画に出てくる。 ご覧になった方はおわかりだろう。 映画では気の毒な目にあってしまうが、不幸中の幸い、で済み生き残る人である。
怒濤の展開があるわけではないが、じわじわと神経を圧迫する スリルは、なかなかのもの。 風変わりなアイディアで、なおかつ芸術的すぎずきちんとオチのある物語をご所望の方に、是非オススメの映画だ。
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