女にとっての「最強伝説・黒沢」 |
ついに朔ユキ蔵・作「ハクバノ王子サマ」2巻が発売になりましたね。 朔ユキ蔵の「少女、ギターを弾く」には10代の体中にみなぎる、わけのわからない衝動を「全裸で町で堂々とオナニー」に置き換えて描いていた時に、10代のときに患っていた青春もやもや病を書き切ってるゥゥゥ!スゲーェェェ!と思わされたものだ。 そして時を経て、朔ユキ蔵、またもやズギャンとくる作品発表ですよ。 ハクバノ王子サマは今年最大の衝撃作だな。 いや、正確にいうと今年最大の女へこませ作。
簡単なあらすじ サービス残業ばかりのサラリーマンを辞めて、教師に転職した小津(25歳)。 赴任先は女子高。小津は全校挨拶で「年下には一切興味がありません」と宣言する。生徒たちに同僚の女教師原多香子(通称・タカコサマ)はどうですかーとからかわれて「そのうちメシでも」などと答えるのだが、タカコサマは気にもかけない様子で受け流す。 が、内心ではタカコサマ、「ゴハンに誘われちゃった(はぁと」と舞い上がってしまい・・・
このタカコサマってのが「32歳独身・プライド高し」なんだが「相手がいないことを焦っている」というのが肝。 呪文のように「ビール」を頭の中で唱えながら仕事をこなし、電車の中でカップルを見かければ「私は誰にも選ばれなかったからひとりなんだ」と凹み、酔っ払って帰って全裸で寝て「私、またヤッちゃったのかしら」と後悔する。 なんだこのリアリズムは! ついつい男に期待してしまって裏切られたり(「あーあ」という呟きが沁みる沁みる) 簡単に相手してくれる既婚の男に手を伸ばしてしまって、「私はダメだ」と自覚したり(ありゃホント自己嫌悪に陥るんだよな) 凹むとわかっていながら平然を保つためにいらん質問したり(私は全然興味ありませんよアピールってむなしいね) グサグサくるね。 りえ坊曰く「竹串で心臓の脂肪がついてる部分を何度も刺される感じ」 同感です。
一番「うわぁぁ」だったのは、タカコサマが同僚の女教師4人で仕事の後にカラオケに行く場面。その時の情景はデジャヴかと思いました。 「男の勲章」を女の勲章に替え歌! 次々に頼まれるビールピッチャー! 「エンレンだったら取っちゃえばいいじゃん」「でもそういう女って大抵捨てられるんだけどねーキャハハ」という会話内容!
なんかねえ、こんなカラオケよくやってる気がするんすよ。 カラオケじゃなくても飲み屋でこんな話ばかりしてるような気がするんすよ。 「女4人」で「ビール、ピッチャーで」ってのが諸悪の根源だよな。私の場合はビールはあまり飲めなくなってしまったが、それでも別の酒バンバンだから。周りはビール党ばかりだし。 女4人で大酒って「あけすけ」なんだよな、いろんな意味で。 「あけすけ」ってのはとても下劣なものだからなー。ホンネとかあけすけとかおっぴろげの同義語は「下劣」。「お」すらもつかないほどの。 なんつっても男性視線を気にするこころ皆無ですから。前に女4人でカシスオレンジをぐるぐるかき混ぜながらキャピキャピ話しているグループを見たことがあるけれど、ああいうのはいつ何時でも男性からの視線を意識しているから違うのだろう。そんなのかけらもおもしろくないんだが。 あと女4人は「仲間」ではなく「同志でありライバル」だ。誰もが一抜けを狙っているあたりとか。少なくとも助け合いはしないし。 そういうあけすけな女4人って外側から見ると「おまえら絶対男できねぇ」ってのがわかるから哀しい。 私らはいつもそういう風に見られている。
カラオケ行くところだけでなく、女教師4人組の仕事上がりの呑みはディテール細かいわ。鳥のから揚げをすぐ注文するあたり。 すべてにおいてディテール細かいマンガなのですけどね。イタリアンレストランに入って「ここでビール頼むのは場違いかも」ととまどい、消極的にワインを頼んでしまうあたりとか。女子高の女教師は妙齢で独身が多いとか。
そんな1巻の内容もさることながら、2巻はもっと竹串でズブズブですよ。 もはや竹串ではなく竹槍かもしれん。
「明日の自分は想像できる あさっての自分も想像できる 一週間後の自分も想像できる 一ヵ月後の自分も想像できる 半年後、一年後、数年後の自分はかろうじて想像できる
でも10年後の自分は
怖くて想像できない」
電車の中で読んでいて、このページを開いた瞬間、声を上げそうになってしまった。なんだなんだなんだこれ。 誰もが目を伏せ、耳を閉じ、想像を禁止しようとすることが、ここには堂々と書かれているな。 「あんた、鏡見たことないの?」と言う場合に使われる鏡みたいなもんだ。 多くの男性が「最強伝説 黒沢」を読むとべっこり凹むのと同じ。
負け犬話とかシンデレラ症候群なんて言葉じゃ括れないな。 それが生身の女ってやつですよ。
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2005年12月02日(金)
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