日々雑感
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夜に気分転換したいときには近所のブック・オフに行くことが多い。新刊書店は10時で閉店だけれども、こちらは12時まで開いている。日中は店員さんたちがひっきりなしに何か連呼している店内も、閉店近くならばお客が少ないせいか気になるほどでもないし、何より、本と人の気配に同時に触れられるのがよい。
『銭湯の女神』星野博美(文藝春秋)を買う。ファミレス、ゴミ捨て場、100円ショップ、そして銭湯。それらから透けて見える人びとの姿や社会の有り様について綴られた36篇の随想が収められている。数年に渡る香港暮らしを経てからというもの、日本での生活に不思議な居心地の悪さをおぼえ、さらに、「日常が旅に侵食されて」いるためか、世界中のどこにいても「いつまでここにいるかわからない」と感じてしまう。そうした距離感から生じる眼差しが、批判一方でもなく、感傷的でもなく、淡々としていながらこちらを引き込む語り口を生んでいて面白い。
著者は写真家でもある。写真家によい書き手が多いのは、よく視るという姿勢と関わっているのだろうかとも思う。そこにあるものを、決して見過ごさないこと。
著者のお母さんによると、銭湯に行く人は真面目らしい。いわく、「この豊かなご時世、多くの人にとっては、家に風呂がないっていうのは想像を絶する不便さだろう。買いたい物は目の前にゴロゴロ転がってる。(中略)銭湯に行く人は、そういうことに背を向けてるってことでしょう。自分に何が必要で何が必要でないのか、わかってる人たちだよ」。自分の場合はそこまでの信念があるわけではなく、風呂もやっぱりあるに越したことはないのだけれども、とりあえず「そうか、真面目か」と背中を押されつつ、今日も銭湯へ向かう。
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