日々雑感
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2002年02月26日(火) 地下鉄にて

地下鉄に乗る。空いている席に座り、ふと顔を上げると、隣りの女の子が窓の外に向かって手をふっている。中学生くらいの、セーラー服姿の女の子。窓の外にいるのは、20になるかならないかといった男の人だ。発車ベルがなっている間中ずっと、女の子は手をふりつづけた。

電車が動き、やがて男の人の姿も見えなくなった。すると、女の子は手すりに顔をくっつけたかと思うと、いきなり泣き出したのだ。一生懸命に泣き声を殺しているが、ときどきしゃくりあげるのが聞こえてくる。

悲しみの波動というのは、こんなにもはっきりと伝わってくるのだ。女の子の泣き声といっしょに、それこそ「悲しい」としか言いようのない空気が押し寄せてくる。それがあまりにも強烈で、うろたえてしまう。

ひとりぽつんと残された小さな女の子みたいな泣き方。鞄には小さな人形のキーホルダーがくっついている。声をかけるのも変だし、どうしようと隣りでおろおろしていたら、だんだんとこっちも悲しくなってきた。強い感情は伝播するらしい。

数駅先で彼女は降りた。長い髪で顔を隠すようにして、小走りに改札のほうへと向かっていった。あれからひとりで、どこへ行っただろう。

夕方に帰宅。うとうとと寝入ってしまう。夕食をとるのも忘れて延々と寝続ける。目が覚めると、辺りは静まり返って、一瞬自分がどこで何をしているのかわからなくなる。日付が変わっている。

もそもそと起き出して、本屋で買っていた『猛スピードで母は』長嶋有(文藝春秋)をめくってみる。読み始めたらこれが面白い。結局「サイドカーに犬」のほうを読み終える。夏の空気とか、子どもの頃の感覚とか、生々しく蘇る。ずっと大事にして、何度も読み返したくなるような小説だ。表題作のほうは明日読むことにする。

明け方近くになるといろんな音が聞こえてくる。朝の気配。騒がしくなってきたカラスの声を聞きながら、もう一度眠る。


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