TOI,TOI,TOI!
1月30日。一次試験当日。
午前中、緊張感はあったが怖さはなく、同時に大ホールで弾くのが楽しみでワクワクしていた。
正午頃、ザビーネがチェンバロの調律の為に1時間ホールを予約できたというので、ついでに一度合わせることにした。 ある部分の、それまで封印してた装飾を披露したら、ザビーネはイスから転げ落ちそうになって絶賛してくれた。やっぱり広いとこで、ちょっと舞台に上がったりするだけでお客さんがいなくてもテンションがいい感じに上がって、楽しい。広いとこで弾くのって大事だ。 ザビーネに盛り上げられ、なんだか、イケル!みたいな気がしてきていた。
すでにこのとき、ドレス、靴、カイロ、バナナ、チョコ、温かいお茶、水、ジュース、と、必要なものはほとんど持ってきたので、レッスン室に全て置いて(吊って)一度家に帰った。これで、あとで来るときは楽器だけでいいのさ。
衣装は夏のカルテットのコンサートの為に買った。赤。暗いところで見ると黒っぽい色で、光が当たった部分が赤くなる、多少光沢もある生地。デザインは非常にシンプルで、長さは床まで。座って弾く分にはちょうどよかったけど、立つと私には少し長いので、2日前ぐらいに自分でお直しした。一度すそを上げたらあまりきれいにならなかったので、肩のところをつまんで縫った。
とにかく試験ということを忘れて、コンサートと思って弾け!とフォーヒャルトに言われていたし、自分でもそのつもりだったので、衣装も宣伝もコンサート並みに気合いが入っていたのでした。 でもこういう衣装のお直ししたり、ポスターやプログラム作ったりしてた時間、実はすごい楽しかったんだよね〜。
前の人が延びて、30分押しになったということで、ホール前の廊下は私のために来てくれた客でいっぱいだった。そこを通るのはなんだか恥ずかしいような気持ち。 ありがたいなと思ったのは、その中にホフマンの姿を見つけたとき。しかも奥さんを連れて。最後のレッスンの日に一応聞いてみたのだけど、本当に来てくれるとは!審査員でもないのに!毎日ピアノの試験の審査でくたびれてるはずなのに!
本番は、たくさん入ってくれたお客さんのおかげで、私も非常に盛り上がって、すごく楽しく本番を終えることが出来た。 プログラムも本当にいいプログラムだったし、お客さんからたくさん拍手をもらってうれしかった。 全て今の自分に出せるものは出せたという、気持ちよさがあった。
楽屋にもたくさんの人が祝福に来てくれた。お花もたくさんもらった。 あるおじさんからは名刺を渡され(彼自身ピアニストで自らあちこちに出向いて若い才能を発掘している、という人だった)、 「キミの為にコンサートを開くよ。秋に」 と言われ、ブッフベルガ−は 「二人(私とピアニスト)のためにコンサートを用意する!」 と言ってくれた。
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