家に帰るということ。 それは人類が「家」というモノを持った時から不変の安らぎであるはずだった。
が。帰宅拒否症が増えてるらしい。大人も子供も。 本当は家に帰りたくないが、他に行く所も無ェちゅうんで。 大人はサウナやカプセルホテルに泊まり、子供はさっさと部屋に閉じこもる。 相変わらず家に帰るのが楽しくてしょうがない人間も居る中で。 そういう人らは、いつどんな風に、家という安らぎを失ってしまったんだろう。
昨日、遠縁の従姉から珍しく電話が来て。 この頃とみに、伯母の言動がおかしいのだと言う。 そして、ちょうどテレビで特集をしていたのを見た、 もしかすると更年期障害による鬱ではないか、と言う。
家人に尋ねてみると、やはり身内に思い当たる例もあると言っていた。 主に40代の半ばから後半にかけて女性を襲う、更年期障害。 身体の不調に留まらず、精神的なイライラやストレスに悩まされる人も多いらしい。
しかし一番悪いのは、その言葉の響きなんだろう。 閉経の前後に起こるという生半可な知識だけは持つ世間は、「更年期」と聞いて。 ああ、あの人ももうそんなお年なのね、と反応することがあるらしい。 症状の出方や重さには個人差もあり、女性同士だからといって共感してもらえるとは限らない。 更に言うなら、夫の無理解がある。 それでなくても仕事で脂の乗ってきた男たちは、その年代は特に妻や家庭を軽視しがちで。 飲みの席などで見ていても、妻の容色の衰えを殊更に笑い話にする無神経な輩も多い。
そうなると、家庭の中に居る40代の妻たちというのは。 ある意味最も平穏であるべき場所で、最悪の「間接的殺人者」と同居しているも同然なんだな。
せめて、夫の理解と協力があれば違うだろうにと言うと。
従姉は、本当にそう、と溜息をつき。 聞いてくれてありがとう、と電話を切った。
ひきこもる子供。 帰宅拒否する夫。 そしてひそかな更年期に心を病んでいく妻たちは。 それぞれが、それぞれの、最も身近な殺人者となってしまっているんだろうか。
しかし家族がストレスしか生まないのだとしたら。 家族は何のために居る?
むさくるしい家に命をもたらしてくれた家人も。 いつかは閉経し。 重い更年期に悩む時期を迎えるのかもしれないが。 そうなった時、桜木が彼女の身近な殺人者とならないためにはどうすれば良いのかを。 示唆してくれる情報は、今、あまりにも少ない。
開き、閉じていく当たり前を前に苦しむ人たちに対し、優しくなれない社会の側面を見る。
家庭を内側から支える人たちをないがしろにして。 家ちゅうもんに、かつてのような安らぎが戻るわけ無ェ、と思うんだが。
こんなもんは。アホみてぇな愛妻家だけが感ずる戯れ言か?
ま、家人曰く。 家の外でも、ダンナの悪口言う奥さんの周りの方が盛り上がるのよ、てことだが。 いずこも同じか。
それにつけても。 最も身近な殺人者に寝首をかかれるのだけは御免。
この世の中は。 本当に労るべき対象を見失ったまま、どこまで行くのかナ。
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