この数日、特に。 仕事関係の人間と、携帯電話で連絡を取り合うことが増えてた。
何をしてる途中でも着信音が鳴る、てェのに。 最初は慣れなくてびっくらする。 基本的にはアナクロな人間の桜木。
けどまーじきに慣れてくると、今度は連絡が来ないと心配になってくる。
ここ数日、ますます物騒な事件もあったしナ。 逃走する凶暴な犯人を追いかけてあわや、ちゅう目に遭うてるかも、等。
で、着信音が鳴ると安心するっての。
人とつながってる感じ、てのは、老若男女シチュエーション関係なく。 人をウキウキさせるもんがあるんだろう。
けど。
そういう状態が長く続けば、損なわれてくもんも確かにある。
たやすく形になってるもんばかり。目の前に積まれてるとヨ。
見えないものを信じる気持ちみてェなもんが。 どこか馬鹿馬鹿しく思えてくることも、あんじゃねーのかナ。
そもそも心は漂うもんで。
容易に文字には置き換わらない。
昔。
いかがわしいてめえのことを、少しでも理解してもらおうと、ナ。 家人の家族に宛てた手紙の下書きを、必死で書いてみたことがある。
けど。
書けば書くほどウソに見えて来る。 気付けば額に汗が滲んでた。
ウソなぞ一つも書く気はねーのに、この指が。 余計な修辞云々じゃ無く。
ホントの心すら、うまく伝えてくれねーような。 ますます相手を疑心暗鬼にしちまうような。 ますます相手を「だまされてんじゃねーか」て気にさせちまうような。
そんな風に思えて来てナ。
結局その手紙は、出さなんだ。ツラ見せに行って。 むしろ書き文字にしたら死ぬほどウソくせェようなこと、面と向かって、言うて来た。
言葉。
特に書き文字は。
結局フリーズドライだ。読んだもんの胸が、瑞々しく蘇らす。
だからヨ。
読み間違えられちゃたまんねーような大事なことは、書き文字にゃできない。 したくない。
それが普通の感覚なのかもしれねーと思う。
携帯電話で連絡取り合いながら仕事して。 いろんな人間の手を借りて責任ちゅうもんを滲ませてく。
仕事だから。 金が動くから。 一人じゃ負いきれねー責任が滲んでく。
けど。 誰より大事な誰かに贈る言葉ってのは。そういうもんじゃねーだろ?
いくつになろうと。 達者になろうと。
心は漂い。 書き文字は危うい。
捕まるような、捕まらねーような。 くらげみてェな、てめえの心を。
逡巡とか。 指の動き。 そういうもんに乗せて伝える技術を。
奪うな。
文字に頼るな。頼らすな。
携帯電話。
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