2002年02月21日(木) |
言いたいことの言い方も知らないで。 |
フーゥ。
今日は一日、暖かかった。さもありなん。二月も、もうじき逃げていかァ。
ま。てな感じで申告やら何やら用事を済ましてヨ。 夕刻家に戻ったら、家人がプリプリしてる。
何でも今日、買い物の途中。 同じ病院で子供を産んだカーサンと、バッタリ出会ったらしい。
いつも仲良さそうで、うらやましいわー。 いいわねえ。あら、今日は、ご主人は? て言われたの。
と、まー。家人。怒り顔さめやらぬ様子で言うもんで。
ンーで? と、桜木は聞いた。
そんだけじゃ、腹立ててる理由が、わかんねーんだけど、とヨ。
家人は桜木を見上げると。 ちっと躊躇して、こう言った。
ようするに。
ようするにね。いつも昼の日中から家族そろって出歩いて。 あなたがたって一体なにもの? て、向こうはさ、思ってるのよ。 そういう雰囲気がね。ぷんぷんしてきたのよ。 コッチが僻んでてそう聞こえたとかそんなんじゃないのよ。 別にそう言われてもかまわないけど。
腹たつのよ。
フム。
と、まー。
ちっとの間、黙り込んでたら。
ただならぬ気配をかぎとったのか、小僧がこっち見る。 子供っちゅうのは敏感。 慌てて家人の所にやって来て、じっとこっち見る。
で。
そう言われたわけじゃ、ねーんだろ?
と桜木が聞くと。
言われたわけ、ないじゃない。 言われたんなら、言い返すでしょ?
とヨ。
キッパリ。お言いなさった。山の神。
そりゃそう。 大変ごもっとも。
確かにこいつ、アホくせェ質問だった。
悪ィかった。
そう。
「言われたわけじゃないんだろう」なんちゅうの。
どっかで聞き覚えのある、ヤなセリフ。
そいつは、そう。
「いじめっこか、いじめっこの親だの」が、良く言うセリフだ。
「別にィ、はっきり、そう言ったことなんてないでしょう?」 「そうよ。アナタをいじめろ、だなんて、あの子はお友達にひとことも言ってはいないのよ」
なんてナ。
け。書いてるだけでヘドが出る。 ゲスなセリフだ。
けど、ま。 なんちゅうか、よーするに。
あれなのナ。
日本人てのは「言いたいことの言い方」ちゅうもんを。
キチッと教わってねーような気がするんだよナ。
例えば下世話な例えで申し訳ねーんだけど。 ミンナでシーンと仕事してるオフィスの午後三時。
突然「プワーン」と漂って来るニオイがある。
ゲ。オレじゃねぇ。アタシじゃないわ。
沈黙の中にて巻き起こる微妙な混乱だ。こいつは困る。 でまー、ニヤケ顔を収めようと試みてシッパイ。
親しい同僚との間には、
「テメエだろ」 「違ェヨ、ダァホ」
いう空気が流れて、ちっと安心できる。
けど。 次にヨ。とうとう。音付きの「やべぇニオイ」が漂って来たとする。
ンー。そのまま黙りこくるか。誰かがその気まずい沈黙を破るか、なんだが。
わりとヨ。
そのまんま、親しい同僚同士だけでクスクス笑い合ってオシマイ、てのが。 ありがちなパターンと、違うんけ?
「今の誰なんだよオイ。二度目こいたらゴメンナサイぐらい言うたらどうなんじゃ」て。
その言い方で、ええもんか。
本人も、止むに止まれずこいたのかもしれねーし。 出物腫れ物所かまわずっちゅう言葉もあるしナ。
ウン。考える。ちっと考え込む。 考え込んで家人にも尋ねたが。
そんなの黙ってるわよ。何か言う方がおかしいわよ。と言う。 まだちっと怒ってる。
で。
そんなん八つ当たりされてもヨ。 何も桜木が悪ィんじゃねーんだが…、と思いかけて、いや、悪ィのかも、と。
ちっと思い直してみたりした。
あのまま気取ったオフィスで固い仕事、続けてりゃナ。 まー。
一緒に居る時間が減るかわり。 よそのカーサンにイヤミたらしいご挨拶を頂くこともなかったのかもしれねーし。
けど家人。 メシ食いながら。
気にすること無いんだから。言う。
もういいの。腹立ててたらバカみたい。 良く考えたら言うとおり。
「言われたわけじゃないんだろ」て。
そのとおり。
けど、4割かた納得いかねぇ風情の家人。 それもそう。
しゃあねェ。 こう言った。
「あのナ、誰もがナ。言いたいことの言い方ってのを、知らねーだけなんだヨ」とナ。
感じたことそのまんま言うたらどうなる。 考えたことそのまんま言うたら。
そら、たいそうアホなことになるってわけ。
いじめにせよ。 人間関係のトラブルにせよ、だ。
「言いたいことの言い方がわかんねかった」ばっかりに。
ちっとばかしのつまんねートラブルが。 じわじわと、まー、くだらねー気遣いと気まずさの波に乗って。
大の大人すら苦しめるんだ。
チビどもなんぞ。どうなるんだろナ。
ちっとばかしのつまんねートラブル、なんてもん。
ほんの少し「言い方」てもんを教えてやれたら。 ほんの少し「言われ方」てもんを教えてやれたら。
大したことにもならねーで。 収拾しちまうかもわからねーのに。
親がこれだもの。 子供もね。
家人がつぶやいた。テレビは「いじめ」を語ってた。
アァ。だから。子供らよ。負けるなヨ。
アホ親どもに、桜木含むこの国のアホ親どもに、何も教えてもらえなくとも。
負けるなヨ。
ホントにヨ。
負けるんじゃねェ。
目に見えねェ暗いもんが覆ってるこの国で。 けど。
桜木は、ここに居て。
明日のための精一杯。 しょうもねぇ自習を続けてっから。
子供らも。負けるんじゃねェ。
袋小路なんざ、アッちゅう間。 けどヨ、じき、大人になっちまうんだ。
ホントにそいつは、ちっと情けない話ではあるんだが。
成長する間もねェほどに…。
アッちゅう間、なんだからヨ。
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