こしおれ文々(吉田ぶんしょう)

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2012年04月12日(木) 吉田サス劇【夏美】(第3部)第25話『少女の前に立ってから4話目』



吉田サス劇【夏美】(第3部)

第25話『少女の前に立ってから4話目』



職業として
長年製造業に携わってきた人は
手の感触で
数ミリ単位の加工を施すことができたり


幼い時から
そろばんを習っている少年は
頭の中でそろばんをイメージすることで
数十桁の暗算を可能にする


ミリ単位で狂いなく
同じ場所を殴打するなんて
超能力者のような
類まれな能力に聞こえるかもしれない



ただそういった能力を持っている人間は
決して少ないわけではない



その能力のおかげで
主婦を犯人に仕立て上げることができた




30年以上も前
君と同じ能力で
何度かマスコミに取り上げられている少女がいる


最初は世間を騒がしたが
結局は一過性の流行りで終わり
その後その少女が表舞台に登場することはなかった


時がたち
少女は成長し普通に就職

同じ職場で知り合った男性と結婚し
一人の娘を授かる

ただ不幸なことに
娘を出産と同時にその女性は病気で亡くなってしまう


そのとき産まれた娘は
父親に大事に育てられ
今年15歳の誕生日を迎える


それが君だ


君は母親から
【特殊な能力】を受け継いでいた


母親のようにマスコミに
取り上げられることはなかったが
物心ついたときから
自分の【能力】に気づき
仲の良い友達には手品のように披露していた



チンピラからケータイを売ったリストを没収し
リストにある人間を一人一人調べた

通常の捜査方法では
犯人はもちろん
犯人に結び付く手掛かりすら見つからなかった


困った私は
リストにある人間と
その周辺の人間をインターネットで
何気なく検索してみた


それでもたいした情報が得られず
半分諦めかけた中で

君の両親を検索したとき
30年以上も昔の
【特殊能力を持つ少女】の記事がヒットした



そしていま
私は君の目の前に立っている



もちろん物的証拠はなく
大学生殺しで君を逮捕することはできない

逮捕することが出来ないからこそ
私はあえて君の話が聴きたい


実はこの事件
もうひとつだけ【不自然な点】がある




君は


君はわざと
【自分が犯人であること】を
我々警察に知らせている


ちがうかい?



【糸】を手繰り寄せている実感はあった


ほんの少しずつでも
私と少女の距離は縮んでいる気がした

でもそれは
はた目では気づかないほど
小さな動きであって

たとえば少女の手を握るには
まだまだ遠い存在であることには
違いない


それでも

この小さな動きが
彼女を逮捕するための一歩と信じたかった



管理人:吉田むらさき

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