こしおれ文々(吉田ぶんしょう)

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2012年04月13日(金) 吉田サス劇【夏美】(第3部)第26話『震える指先・長い沈黙』


吉田サス劇【夏美】(第3部)

第26話『震える指先・長い沈黙』


背中に
強烈な力が入っている

左手をポケットにしまい
指先が震えていることを
少女に見抜かれないようにした


背筋を一滴の汗が流れおちていく


数分前に少女に話し始めたときと
変わらないように

動揺していることを
悟られないように必死に堪えていた





ミリ単位で狂いなく
同じ場所を殴打する能力


この能力のおかげで
大学生の殺害を主婦になすりつけることができた


ただし
そんな芸当が
誰にでもできるものではないからこそ


大学生殺害の真犯人を狭めていることになる



確かに
主婦が殴打したあとに
ズレた位置を殴打したのであれば

体格の違いが傷跡に表れてしまうので
鑑識に見破られてしまう


でも大学生にとどめをさすのであれば
別に殴打にこだわる必要はない

絞殺でも刺殺でも
比較要素のない殺害方法であれば
主婦が殴打した後に
死に切れない大学生に
とどめをさしたとしか思われない



君の特殊な能力は必要がない


あえて君が能力を使ったのというのは
我々に対して
【自分が犯人であること】を
知らせようとしているとしか考えられない


今にも吹き出してしまいそうなくらい
全身が硬直し

堪え切れない衝動を
くちびるの裏側を噛むことで抑えつけた



犯人はこの少女で間違いはない

ではなぜ
少女が我々に知らせようとしているのか
そんなことはどうでもよかった


証拠がないのである


現場に少女がいたという痕跡はない
動機もなければ
大学生と関係があったことも立証出来ないのである



だからこそここで
少女が【私の問い】に答えることで
【自白】させ
それを証拠に
この少女を逮捕することができるのだ



『君が大学生を殺したんだろ?』



長い沈黙の後に
少女は初めて口を開いた




管理人:吉田むらさき

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