こしおれ文々(吉田ぶんしょう)

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2012年03月17日(土) 吉田サスペンス劇場【夏美】第4話『同業他社』

吉田サスペンス劇場【夏美】
第4話『同業他社』


管轄外の事件なんて【同業他社の営業活動】でしかない。

よっぽどの凶悪犯罪や
人手不足による協力要請でもなければ
殺人事件であってもニュースで知る程度である。

要するに管轄外の事件に対しては
私も一般人となんら変わりないのである。

ただ、隣県で起きた大学生殺人事件は
古くからの友人が担当していることから少しばかり情報が耳に入っていた。

  【どこか不思議な事件】


それが事件に対する友人の感想である。

  
  犯行現場に争ったような形跡はない
  まあ大学生にありがちの汚い部屋だ
  いかがわしい本やDVDが散乱してた
  それも全部女子中高生モノ
  被害者は相当なロリコンで制服が好きだったようだ

  犯行時間に大きな物音がなかったのは
  隣の住人が証言している。

  つまり被害者が犯人を自ら招き入れていることになり、
  犯人は被害者の顔見知りである可能性が大きい。

  通帳やクレジットカードは残されていることから
  犯人の目的は金銭ではない。
  そもそも通帳の残高見れば犯行を犯す気もなくなるしな

『恨まれてたってことか?』

  そう・・・だよな

『なんだ。もったいつけやがって
 ほかに何かあるのか?』

  
  鑑識が言うにはな
  致命傷となった後頭部が
  どうやら2回殴れた可能性があるらしいんだよ

『2回?別に不思議でもないだろ
 1回で死ななかったからもう一度殴った。』

  その2発目が寸分の狂いもなく1発目の傷に当たってるんだよ
  ただ【息の根を止める】という目的だけなら
  そこまで正確なヒットは必要ないだろ?

『マメな性格なんだな』 

  それがそうでもない。

  犯行現場の状況からすれば計画的ではないだろうな
  多少指紋を拭き取った形跡はあるものの
  全てを拭き切れてはいない
  それはそれはお粗末なもんだ

  そもそも殺すつもりがなかったから
  自分がどこを触ったかを把握していない
  素人の衝動的な犯行の典型だろ

  だからこそこの正確な2発目が矛盾してくるんだよ
  パッと見じゃあ専門家でも見逃してしまいそうなくらい
  正確に殴っているらしい

『まぁ確かに不思議だな
 でも指紋は出てるんだろ
 被害者の近辺当たればすぐ見つかるだろ』

  まぁ、それならいいけどな


そのときはまだ気にもしなかった
寸分の狂いもない2発目の本当の意味。


その後の捜査で被害者の近辺から指紋が一致する者は現れなかった。

近辺からは出なかったのだが、
その指紋の持ち主は意外なところで判明する。
しっかりと警察のデータベースに登録されていたのだ。




糸の両端は
大きな暗闇のなかで繋がっていた。

いや・・・
正確にはいままで独立していた2本の糸が
何者かに意図的に結ばれたという言い方が正しいのだろう。



そしてその結び目に【夏美】はいる。




管理人:吉田むらさき

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