こしおれ文々(吉田ぶんしょう)

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2012年03月16日(金) 吉田サスペンス劇場【夏美】第3話『助手席』

吉田サスペンス劇場【夏美】
第3話『助手席』


『少し疲れてるのかなとは思っていました。』

ソファに座る夫は、顔を伏せながら答えた。

 でも・・・前にもこういうことがあったんです。
 元々、真面目というか、思い詰めるタイプというか・・・
 ちょうど1週間くらい前からひどくなってきて
 夜、うなされていたり・・・よく眠れていなかったようです。
 それでも子ども達にはいつもどおり接していましたし
 気にはしていましたけど、
 僕にはそっとしておくぐらいしかできないんで・・・・

 まさか・・・こんなことになるなんて・・・


『遺書には一言【ごめんなさい】とありますが
 ケンカとかあったんですか?心当たりは?』

 仕事が忙しくて育児を手伝えないってことで
 最近何度かもめたことはあります。
 と言っても私自身は夫婦げんかというほどの感覚はありません。
 口論というか・・・ましてや自殺する程のこととは


主婦が死ねば、
たとえ自殺が明らかであっても
まずはその夫を疑ってかかる。
しかし、夫には確固たるアリバイがあった。
ちょうどそのとき、会社で打合せをしており、
一歩も会議室から出ていない。

証言しているときの夫の落胆した様子から見ても
けっしてウソには聞こえない。

その日、
亡くなった主婦は実家の母親に子ども達を預け、
その足で現場の海岸に向かい、
車の中で手首を切ったものと思われる。

車はロックされ、カギは車内に残されているため、
スペアキーがなければ犯行は不可能。


手首を切ったとされるカミソリには
本人以外の指紋は検出されていない。

99%自殺だろうと思われるこの事件、
しかし、私には一ヵ所だけ気になる点があった。

『旦那さん、ここ最近あの車に乗りました?』

 いや・・・乗ってません。
 最近忙しくて疲れているんで
 休みの日も妻と子ども達だけで出かけて
 私は家でゴロゴロしてることが多いです。

『仮に旦那さんと奥さんが一緒に乗るとき、
 運転するのはどちらですか?』

 私が一緒のときは運転するのはほとんど私ですね
 妻は運転が下手とは言いませんが
 知らない道の運転は敬遠しますから
 いつも買い物するスーパーとコンビニ、
 あとは彼女の実家とぐらいだと思います。
 それが・・・なにか?

『いや、たいしたことじゃないんですけどね
 知らない道を敬遠する奥さんが
 よく現場の海岸まで運転したと思いまして』


 あそこは妻の思い出の場所なんです。
 学生時代に付き合っていた彼氏とよくデートしたと
 聞いたことがあります。
 車で行ったことがあるかはわかりませんが
 彼女の実家からもそう遠くありませんし・・・。


『わかりました。ありがとうございます。』


私が気になっていたのは、
事件が起きた場所のことではなく、実は車の助手席だった。

現場に残された車の助手席は、
運転席から見て少し後ろの位置に下がっていたのである。

普段、夫が一緒に乗るときは運転するのはほとんど夫であり、
助手席の位置が運転席より後ろにある必要はない。
奥さんが運転するとき同乗するのは子ども達のため、
なおさら後ろに引く必要はなくなる。


つまり、【亡くなった主婦よりも体格のいい人間】が
事件当日もしくはその前に助手席に座った可能性がある。


【亡くなった主婦よりも体格のいい人間】

無論、男性・女性どちらの可能性もあるし、
たまたま大きな荷物を運ぶために
助手席を後ろに引いた可能性もある。
子どもが助手席に座っているときイタズラに動かした可能性もある。


あらゆる状況が考えられる中で、
直接事件に関わっているとは今の段階では言えない。


今の段階では、
ただ【運転席より助手席が後ろにあった】という事由でしかない。



管理人:吉田むらさき

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