キ ミ に 傘 を 貸 そ う 。
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もう、ぼんやりとしか思い出せない。 私の大切だった人たちの声が。 少しだけ、遠くに行ってしまった。
どうしてこんなにも忘れてしまうんだろう。 どうして記憶は鮮明に覚えていないんだろう。 愚か過ぎて涙も枯れそうだ。
私はあの頃に慣れすぎてた。 優しい人と暖かい人に囲まれて、それが大事ってことも忘れちゃった。 あの頃の風の冷たさも手袋も帽子も、おかしな先生も辛い勉強も。 何もかもあの空気を愛していたのに。
「つまんないよ」
『今のうちに遊んどきな。』
「えー」
『このあいだパーティーしたんだよ、楽しかったよ。遊びまくったんだよ』
「いいなぁ。あたしも遊びたい。」
『遊びなって』
「何して?」
『どっか遠くに行くとか。自転車で遠くに行くとか』
「一緒に行ってくれる人いないもん」
『じゃぁ僕が一緒に行ってあげよう』
ただ、それだけが唯一の救いだ。
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