愛より淡く
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2002年12月12日(木) 永遠の幼な妻 シズコさん

うちの夫の実家の近所に、長年連れ添われているご夫婦が住んでいらっしゃる。

旦那さんのお名前は、サブローさん、奥さんのお名前はシズコさん。

サブローさんは、町内会の年中行事である「春のお花見」のカラオケ大会の

花形スター?で、「おらが町のサブちゃん」と呼ばれているほど歌が上手い。

ご夫婦には、お子さんはいらっしゃらない。ずっとお二人で仲むつまじく暮

らしておられる。

シズコさんの毎朝の日課は、車で出勤されるご主人を、お見送りされることだ。

シズコさんは、

「いってらっしゃーーい。はやくかえってきてね〜」と

まるで、異国に旅立つ船を見送る時みたいに、または、コンサート会場でみ

んながペンライトを振る時みたいに、ゆっくりと、その手を大きく左右に動かして、お見送りされるのだ。

ご主人の車が、完全に見えなくなってしまうまで、それは続く。

ご主人の車が見えなくなってしまっても、シズコさんは、しばらくその場所でたたずんでいる。その後ろ姿は、なんとなく心細そうでさみしそうでもあった。


それが、しばらく夫の実家に同居していた時に私がよく目にした、ご夫婦の朝の光景だった。


実はシズコさんは、ずいぶんと前に交通事故に遭われ、その時頭に強い衝撃を受けたことがもとで、両手足の麻痺という後遺症が残り、精神(知能)も子供の状態に戻ってしまわれているのだった。

事情を知らずに、初めて彼女に会った時、しぐさとか話し方とか妙に幼くて、なんだか不思議な人だなあ、と思ったけれど

義母から事情を聞いて納得した。


「○○ちゃんも(義母の名)おねえちゃん(わたしのこと)も、うちさ、遊びに来らんしょよ」

ある日、シズコさんが、夫の実家に現れて、あさっての方を見な

がら、そう言った。

義母が、適当に「はいはい」と相づちを打っていた。

でも、いつまでたってもシズコさんの家に行くことはなかった。

「あの行かなくていいんですか?」

気になって義母にたずねると、

「ああ、うん、うん、大丈夫」

と、義母はにっこりと笑っていた。


しばらくすると、またシズコさんが現れて


「待っとるよ、はよ、遊びさ、来らんしょよ。チンピラ作ったんだ

うまいチンピラ。食べに来らんしょよ」


左手(だったっけかな)を震わせながら、やはりあさっての方を見ながら

そう言いに来はった。


「キンピラのことをチンピラ」と言う時のシズコさんが、私は
なぜだかすごく好きだった。かわいいと思った。


お見送りする時のシズコさんの後ろ姿も、とても好きだった。


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テキスト庵さん