愛より淡く
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2002年10月09日(水) 夫が泣いた日

夫に、ズボンのすそ上げを頼まれた。

私は、裁縫が大の苦手。ちなみに、家に、ミシンなど、ない。

仕方がないので、がんばって、祭り縫いしていった。

「言っとくけど、私は、家庭科ずっと2やってんで(しかも10段階評価)

いっつも、こんなふうにしてはいけません、の見本にされてたんやで、

あんましあてにせんとってな、仕上がり悪くても、おおめにみてよね」

と、念を押してから作業にかかった。


夫は、「大丈夫、適当でいいから」とうなずいていた。



だけど、私なりに、ひと針、ひと針、真心こめて?、丁寧に縫っていったつもりだった。


縫いながら、ふと、初めて手縫いの品を、あこがれの人に渡した日のことなどを、思い出してしまい、少し胸が切なくなったりして、

ああ、そういえば、あの日もこんなふうに、ひと針ひと針、心をこめて、メガネケースを縫ったものだわ。なつかしい。むくわれなかったけど。よよよよよ。

と、まあ、しばし回想にひたりつつ、縫っていったのだった。

すそ上げは、小1時間ほどかかった。


「出来たよ〜あ〜しんどかった」


試着してもらおうと思って、夫を呼んだ。


すぐに夫が来た。

夫は、そのズボンを見るなり、


「なんやあ〜これ〜」

言った。さらに、


「ひどいわ〜、いくらなんでもこんなのはけるかいな!!」

と言った。


そして、な、なんと、目に涙を、いっぱい浮かべ、


「なさけないわ〜ここまでヒドイと思わなかった」


と言って、泣き出したのだ。ほ、ほんまに泣きやった。がーーーーん。



「そりゃあ、これじゃあ、家庭科の先生もあきれるわなあ」

「幼稚園のぞうきんよりひどいわ」

「少々下手くらいなら、目をつぶって、はこうと思っていたさ、
しかし、これは、下手の領域にすら達していないやんか」

「それにしても、ここまで不器用な人もいるもんなんだなあ、珍しいわ。」


などなど次から次へと、飛んでくる夫の言葉が、


この胸に、グサッ、グサっと 刺さりまくっていった。痛かった。



「やめて、やめて。やめて。たのむから、もうわかったから、ごめん、ごめん

もうそれ以上言わんといて、そのとおりや、そのとおりやけど・・・」

そう言おうと思ったけど、声にはならず、出るのは涙ばかりなりけり。だった。



痛くて悲しくて、そして悔やしかった。


「ひどいわ、そこまでよう言うわ、いっしょうけんめい縫ったのに

曲がりなりにも、がんばったのに、ひどいわ、ひどいわ」


泣きながら、やっとこさ、そう言った。


せや、私は、私は、あれが、せいいっぱいだった。私なりに一生懸命やったのに

そういうところ、いっこも見てくれなくて

できばえの悪さばかりを嘆く夫が、悲しかった。


たしかに、ひどいできだった。想像を絶するほどひどいできだった。


縫い目めちゃくちゃだった。縫い跡も、はっきり見えてしまって、

とてもはけたものじゃない。おまけに、ゆかんでいた。



夫は、さらにズボンのすそを、まじまじと見て

「それにしても、ひでーー、ひでーーぞ、これは、ないぞ〜

あんまりやぞーー。ひでーー、くっ、くっ、くっ」と


今度は、泣きながら笑い出した。


「みっともなくて、はけたものじゃない。見てみろよ、これだぞーー

これだぞーー。はははははは、ひでーーー」


何度見ても、我ながらひどいできばえだった。(ここまでひどいとは

おどろきだった。縫ってる最中は、気がつかなんだ)


で、私も、つられて、笑った。笑うしかなかった。

笑うと、少し、気持ちが楽になった。和めた。ような気もした。

だけど、夫が、最後にぽつんと呟いたその一言に

完全に打ちのめされてしまったのだった。









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せや。そうしたらよかったんや。そしたら、あんたも泣くことなかったやろうし、私も、こんなに落ちこむことなかったのに。


でも

今晩「起死回生」して、もう一度、最初からほどいて、やり直すつもりです。


ねばーぎぶあっぷ!!えいえいおーーー。


だけど、涙が出ちゃう、だって、ほんまに不器用なんだもん。ううう。





ありがとうございました










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テキスト庵さん