愛より淡く
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夫に、ズボンのすそ上げを頼まれた。
私は、裁縫が大の苦手。ちなみに、家に、ミシンなど、ない。
仕方がないので、がんばって、祭り縫いしていった。
「言っとくけど、私は、家庭科ずっと2やってんで(しかも10段階評価)
いっつも、こんなふうにしてはいけません、の見本にされてたんやで、
あんましあてにせんとってな、仕上がり悪くても、おおめにみてよね」
と、念を押してから作業にかかった。
夫は、「大丈夫、適当でいいから」とうなずいていた。
だけど、私なりに、ひと針、ひと針、真心こめて?、丁寧に縫っていったつもりだった。
縫いながら、ふと、初めて手縫いの品を、あこがれの人に渡した日のことなどを、思い出してしまい、少し胸が切なくなったりして、
ああ、そういえば、あの日もこんなふうに、ひと針ひと針、心をこめて、メガネケースを縫ったものだわ。なつかしい。むくわれなかったけど。よよよよよ。
と、まあ、しばし回想にひたりつつ、縫っていったのだった。
すそ上げは、小1時間ほどかかった。
「出来たよ〜あ〜しんどかった」
試着してもらおうと思って、夫を呼んだ。
すぐに夫が来た。
夫は、そのズボンを見るなり、
「なんやあ〜これ〜」と
言った。さらに、
「ひどいわ〜、いくらなんでもこんなのはけるかいな!!」
と言った。
そして、な、なんと、目に涙を、いっぱい浮かべ、
「なさけないわ〜ここまでヒドイと思わなかった」
と言って、泣き出したのだ。ほ、ほんまに泣きやった。がーーーーん。
「そりゃあ、これじゃあ、家庭科の先生もあきれるわなあ」
「幼稚園のぞうきんよりひどいわ」
「少々下手くらいなら、目をつぶって、はこうと思っていたさ、 しかし、これは、下手の領域にすら達していないやんか」
「それにしても、ここまで不器用な人もいるもんなんだなあ、珍しいわ。」
などなど次から次へと、飛んでくる夫の言葉が、
この胸に、グサッ、グサっと 刺さりまくっていった。痛かった。
「やめて、やめて。やめて。たのむから、もうわかったから、ごめん、ごめん
もうそれ以上言わんといて、そのとおりや、そのとおりやけど・・・」
そう言おうと思ったけど、声にはならず、出るのは涙ばかりなりけり。だった。
痛くて悲しくて、そして悔やしかった。
「ひどいわ、そこまでよう言うわ、いっしょうけんめい縫ったのに
曲がりなりにも、がんばったのに、ひどいわ、ひどいわ」
泣きながら、やっとこさ、そう言った。
せや、私は、私は、あれが、せいいっぱいだった。私なりに一生懸命やったのに
そういうところ、いっこも見てくれなくて
できばえの悪さばかりを嘆く夫が、悲しかった。
たしかに、ひどいできだった。想像を絶するほどひどいできだった。
縫い目めちゃくちゃだった。縫い跡も、はっきり見えてしまって、
とてもはけたものじゃない。おまけに、ゆかんでいた。
夫は、さらにズボンのすそを、まじまじと見て
「それにしても、ひでーー、ひでーーぞ、これは、ないぞ〜
あんまりやぞーー。ひでーー、くっ、くっ、くっ」と
今度は、泣きながら笑い出した。
「みっともなくて、はけたものじゃない。見てみろよ、これだぞーー
これだぞーー。はははははは、ひでーーー」
何度見ても、我ながらひどいできばえだった。(ここまでひどいとは
おどろきだった。縫ってる最中は、気がつかなんだ)
で、私も、つられて、笑った。笑うしかなかった。
笑うと、少し、気持ちが楽になった。和めた。ような気もした。
だけど、夫が、最後にぽつんと呟いたその一言に
完全に打ちのめされてしまったのだった。
ありがとうございましたゥ
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