原初

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―― 連ねた意味も、持てない小鳥。
氷室火 生来
回帰

2007年06月30日(土)
青いバン、たこ焼きとままごと。


なんだか何回も同じ事を繰り返し言っているだけの気がする。だけど思い返す度に少しずつでも自分の見方が変わるのなら、取り戻すかのようにして何度も何度も、繰り返していたいだけの気もする。

人に課せられた欲求にして最大のものが二つ、同時に押し寄せてきたら。どうすればいいというんだろう。
順にこなせばいいという正論。だけどそのどちらも、行なってはならないものだとしたら。少なくとも許されないと思い込んでいたのだとしたら。
一つは食欲。胃が乾涸びそうになり自ら出した液で悲鳴を上げているような、空腹よりは倦怠感と吐き気を催す程に到り。四肢から力を奪っていく。抗い難い、忘れ去れるように抗い難い眠りへと付こうとする。
その意に反する、一つは尿意。これでもその耐久力には自信があったのだけれど、それでも耐え切れ無い程に、切羽詰って。
密室、今は居間においてある骨が硬い車のソファに寝そべって、ただただひたすらに、時間が過ぎるのだけを待った。身を縮こませ、息を潜め、自分の中の欲を刺激し無いようにけれど眠って抑制は無くさないように、じっと待ち続け。
別に誘拐された訳でも無し、監禁という訳でもなく、見慣れた青いバンでお留守番しているだけ。なのだからいつだって自分で飛び出せたのに。
待っててね。
そう言って、頭を撫でていった。意気揚々戦場に赴く様は、ひたすら帰りの戦果を祈らずにはいられなかった。穏やかさを保っていられるなら、莫迦みたいな事だって簡単に出来たんだ。
但しこうして自分が追い詰められているのも大人の勝手な都合というやつで、駐車場に停める金は無い、さりとて駐禁を取られたくは無い、だから生贄代わりに連れてこられるのだし、熟知していた。
共にいる時間が少なくても、お出掛け、出来て、嬉しかったんだ。
過ごし易いようにと冷暖房の為に鍵は差したまま、とすれば尚更その場を動く訳には行かない。喉がひりつく程餓えているのに、排出したいと体が訴えているのに、暇で無益な時間でしかないのに、それでも。
待っててね。
そう言って託されたのだから、待っていなくちゃいけない。若しもその間に帰って来たのなら、これっぽちの約束も守れないと落胆されてしまうかもしれない。
行こうか行くまいか迷い躊躇っていた時間、結局来なかったのだから行けばよかったと後悔しても、同じ思いを繰り返すかもしれなくても、それでもその間の悪いタイミングは訪れるものだから。
離れられなくて、苦しくて悶えて、だけどそうして待っている大人達が何をしているかといえば隣の煩い小屋の中で遊戯に耽っているだけ。遊んでいる人達に何をそこまで気遣うのだろう。
だけど、約束、したんだ。

堂々巡りを繰り返して何日も何年も経った気がする。当たり前だけどそんな事は無くて、ひょっこりと気安く現れた大人達は、何食わぬ顔で帰宅を促がす。やっと帰ってきてくれた、もう動いても大丈夫、万感の思いで打ち明ければ、さっさと行けばよかったのに、なんて当たり前な事を言ったりする。
そりゃそうだ。何を依怙地に馬鹿みたいに粘ってるんだ。だけど、若しもその間に車がどうにかなってしまったら、約束を守れなかったのなら、ひたすらそれだけで待ち続けていたんだ。
それこそ子供っぽい事だ。ちょっと考えれば普通に判るのに。勝手に自分で思い詰めて、勝手に自分で自分の首絞めて、そして勝手に発言に傷付いたりする。
どれだけの思いで待っていたのかも、どれだけの気持ちでいつも付いてきているのかを、打ち明けた事なんて無いのだから知る由も無い人達に、勝手に期待を裏切られたような、そんな気持ちになるなんて。何処までも自分勝手で、そうして落胆、する様も薄情だ。
一つの欲望を達成すると、もう一つが又も容易く満たされた。何処ぞで購入したのだかあったかいけれど真ん中が冷たい出来合いのたこ焼き。そんな簡単に、こなされていく。魔法みたいに、簡単に。
だけどそれで動く心は、靄が掛かって、ぼうっとした、かなしい、訳じゃないんだけど、きっと、甚く冷たい感情。


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