「お兄ちゃん…」 妹は震える声で俺を呼んだ。とにかく逃げろ、逃げなければ。今はまだ、我が生家を焼いた者たちに立ち向かう術を持たぬのだから。 村の灯りとは反対方向、人々は決して一人で立ち入る事のない山へと彼らは向かっていた。多少ならば魔術の心得はある。とにかく、彼らから逃げなければ。 山の中にはモンスターも多いだろう。けれど躊躇っては居られない。彼らが家に気を取られているうちに。こちらに気付かぬうちに。闇が自分たちを覆い隠してくれている隙に、ここではないどこかへと行かなければならないのだ。 最後に聞いた母の言葉は、"悪魔城へ行きなさい"だった。悪魔城とはどこにあるのか、そしてそこに何があるのか。アイザックは知る由もなかった。勿論、その妹のジュリアもまた。
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