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■ 夢をみていたんだと今も思う。
迷ってて 迷ったまま、逢いに行った。
顔を見たら 決められるだろうと思って。
顔を見たら きっと、もう帰ることなんて できなくなるんだろうなって解ってて。
だから顔を見て そのとき決めようと思って
迷ったまま逢いに行った。
でも 本当にばかみたいに もうすごく失望するくらいに 悲惨な結末が待ってて。
・・・あの人は覚えてなかったという。
その瞬間に、気持ち決まった。
あたしはこんなに迷ったのに、 あの人に抱かれることを迷ったのに。
人生に一度きりの出来事だと思ってた 自分が本当に馬鹿みたいで 馬鹿になっちゃったみたいで 惨めで情けなくて悔しくて
その瞬間、あたしの中で何かぷつりと音がして あの人のことを好きじゃなくなった。
解ってたけど 誰でもいいんだろうなって思ってはいたけど
でもここまで あたしの存在否定されて
なんで抱かれなきゃいけないの?
だから帰るって言った。
ほんとに帰るつもりだったんだよ。 もう何も言わずに帰って 何も迷ってなかったふりして、恋人を大切にしようって。
酷い人だとは知ってたけど 気持ちも無いのにあたしを抱こうとするような人だって ずっと前から知ってたけど ここまで酷いなんてさすがのあたしも予想できない。
そんな男に執着するのは もう終わりにしようって本気で思った。
この5年間の思いに きっぱり、区切りがついたと感じたのに。
今そやって言っても なんの説得力もないだろうけど。
そっからきっかり1時間半。 寒い空の下で、あたしは話しつづけた。
あたしは泣いたし あの人を責めたし 奥さんの話だってしたし この5年の想いだって全部伝えたし
手を繋いでも キスされても 思いは変わらなかった。 止めるつもりだった。
あの人が あたしを好きでそんなことをしてるんじゃないことを 痛いほど解らされて
だから本当に 抱かれたくなかった。
やっぱりね ちょっとでも気持ちがあってほしかったんだと思う。 「あたしだから」って言って欲しかったんだろうね。
あたしが震えていたのは 寒さのせいだったのか緊張のせいだったのか
それは今でもわからない。
だけど。 あたしが選んだ答えは
一晩限りの甘い情事と 一瞬のあのひとの時間を手に入れること。
それがあたしが、出した答え。 結局自分では決められなくて あの人が出した答えなんだけど。
「こういうことするの あたしにだけじゃないでしょ」 抱き合った後、わざと冗談めかして言った台詞に 帰ってこなかった応え。
嘘でもいいから否定して欲しかった。
あたしじゃないと駄目な理由が ほんのひとかけらでもあってほしかったのに
ほんのひとかけらも、結局は無かったね。
朝が来て 来て要らなかったのに朝が来て 別々に出ようって言われた部屋のドアの前。 なんの躊躇いも無しに あたしを放って行ってしまうあなたの姿。
そんなことわかってたけど 本当は行かないでほしかった。
言えるはずもないけれど。 笑ってじゃあねって言うしかあたしにはできないけど。
ひとりぼっちで歩いて でも泣けなかった。
泣く方法を探したのに 泣けなかった。
全部、夢だったような気がした。 抱かれた実感がどこにもなかった。
あなたが握った手も抱きしめた体も あなたの記憶もあたし自身も
何も要らなかった。
吐き気がして真っ直ぐ歩けなくて こんな苦しい思い出なら要らない。 太陽の光も、春の風もなんにも要らない。
なんにも要らないから あのひとがほしい。
あのひとの全部をください。
二度目は、もう無い。 あの人が言うなら、絶対に無い。
一度しかないから美しい思い出だなんて嘘。
ほんとうにたった一度の思い出を あたしは一生抱えたまま生きていく。
あの人が明日には忘れてしまいそうな 儚いお互いのぬくもりも
あたしは一生忘れられないのだろう。
今日という日のことを あの人と過ごしたたった一度の夜を
あたしは一生覚えているのだろう。
あの朝の切なく苦しい空の眩しさを 吹き抜ける春の、別れの風を
あたしは空を見る度、感じるのだろう。
せめて思い出になる前に たった一度でいいから、泣かせて。
誰よりも多分愛してたから。
「長い間ありがとう」
それだけが、腕の中で言えた詞。
ほんとうに長い間、ありがとう。 5年ものあいだ、甘い夢を見させてくれて。
こんな感情をくれ続けたあなたに
感謝しています。
あなたのいない生活がやってくる。
今でも多分、 誰よりも、愛してるよ。
そして、これからもずっと愛してく。
口には出さないけど。
2004年02月20日(金)
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